第41話 憂い


嘘だ。

何もかも。

自分が信じたもの。

自分が成し得たもの。


「嗚呼。認めよう」


少女は強い口調で、先へと踏み出す。








「にしてもだ」

『何が?』


ナイフを構え、アークが口を開いた。

実際、護衛とは言ったものの、今のところ敵影一つ見当たらない。

このペースで行けば余裕だろう。

警戒を緩めず、返答に耳を傾けた。


「よく、そんなもの持っていたな」

『……まあな。俺の知り合いが一つだけくれたんだ』

「そいつすげえな」

『……ああ』


少しだけ返答を濁したのに気づいたアーク。

だが、指摘する気にはなれなかった。

吹雪の中に混じる白い息。


「会ってみたいな。全部が終わったら」

『ああ。必ず会えるさ』

「約束な」


果たされるかどうかもわからない口約束。

楽しいとは思わない。

ただ、どこか懐かしいものを感じた。


(ああ。アイツらとの旅も、こんな感じだったなあ)


そうやって、思い出に浸っていると、


『敵襲だ!』

「!?」


焦りのこもった預言者の声が鳴り響く。

ナイフを構え直し、辺りを見渡すアーク。

ただ、


(は?)


敵影は、一切なかった。

気配はする。確かに、いるのだ。

だが、姿がどこにも見当たらない。


「どういうことだ?」

『どうした?』


困惑を隠せないアークに、声が入る。


「敵が見当たらない」

『はあ?……いや、まさか』


ぶつぶつと言いながら、預言者は状況を判断した。

アークはシキの隣に立ち、視界に入れる。


『上だ!』

「!」


落下が先か、ナイフが先か。

高速同士がぶつかり、小さな火花が撒き散った。

小さな閃光に、一瞬目が眩む。


そして、敵が姿を現した。


「なんで、君がここにいる?」


それは、懐かしい声。

彼の記憶の限り、一番聞いた声。


「お前こそ……なんで」


其の手に持つは、白銀の剣。

ただ、ところどころ赤く染まっていた。

微かな静寂。

それを打ち破ったのは、預言者の声。


『は?魔王!?』

「君は……ああ。アーク君の新しい仲間かい?」


当然のように、魔王は声だけの存在に順応している。


「何しに来た」


ナイフを構え、殺気を露出させながらアークが問いた。


。そしたら、君たちが居たわけだ」

「成程な」

「あれ、珍しい。信じてくれるんだ」

「こっちもそれが片付いたばかりだからな。嫌でも信じちまう」


彼は視線をシキに向け、あー、と1人で納得したかのように首を縦に振っている。


「そっか。そっちも大変そうだね」

「戦う気は無いのか?」

「当たり前だろう。こっちはあくまでも触手を追いかけて来たんだ。ここで無駄にダメージを追いたくはない」

「そうかよ」




──今なら殺れるぞ。


悪魔の囁きか、厄災はう不意打ちを勧めてくる。


(今はシキの回復が優先だ。それに、アイツを人質にされれば不利になるのはこっちだ)


──流石に、理解しているか。


舌打ちが聞こえたような気がした。

いや、多分実際にしたのだろう。

そんなアークを尻目に、クエートは跳躍の準備を開始する。

だが、


「─────!!」


それを阻止するかのように、巨大な何かがクエート目掛け襲いかかった。


「なんだ!?」


その場にいた全員、理解ができなかった。

何故かって。襲われたのが魔王だったから。


──一つ。先輩からの言葉をやろう。





──因果は、終わっていない。

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