第29話 決戦前夜
夢を見た。
見知った誰かと、知らない誰か。
2人は話して、互いを蔑んでいた。
──成程。貴様は、それを成し遂げると?
──無論。何千、何万年掛かろうと、必ず。
──ふざけていやがる。
──好きに言うと良い。その刃は、我には届かぬ。
──ちッ。
嗤い合って。煽り合って。
利害の不一致と言うだけで、こうも態度を変えるなんて。
刃を交え、言の葉を交え。
「……きて」
何処から声が聞こえる。
重い瞼。堕ちる意識。
薄れていく痛み。
「……起きて!」
「ん……」
応えよう。
眩い光が差し込む。
体を揺らされていた。
「……漸く起きた」
「シグレ……」
ハルリの方は、未だ寝ている。
窓からは少し太陽が覗ける。
「ずっと、魘されていました。大丈夫ですか?」
「……ぁあ。ありがとう……」
上身だけを起こし、腕を伸ばした。
いつの間にか修復されていた右腕に、アークは目をやる。
(くっついてる……再生したわけではなさそうだな)
──一応言っておくが、オレは知らん。
裏を知っていそうな厄災が先に答えた。
痛みはあるものの、機能には不備無い。
「……『等価交換』で、最低限の治療はしました。戦闘がない限りは、千切れる心配は無いかと……」
「まじ?」
「はい」
そこまで出来るのかと感心しつつ、腕を軽く回す。
「寒さは、大丈夫なのか?」
「はい。もう、倒れる事は無いかと」
「そっか。それなら良い」
苦笑いしつつ、彼女はハルリの体を揺すり始めた。
アークは完全に立ち上がり、大きく息を吸う。
(アシキノまで、残り1日も無い。待ってろ、クエート)
(……不可解な事が二つ。一つは勇者の存在。魔王と勇者は表裏一体、運命共同体だ。魔王が現れ、勇者の席が空いた今、新たな勇者が現れても、おかしくは無い。
そして、二つ目、厄災。伝承で確認した限り、アークが死欲の厄災である事は確認済み。愛欲に関しては、目星をつけてある。ただ、問題は、最後の厄災。
奴だけは伝承すらも存在しなかった。まるで、意図的に消されたかのように。不可解過ぎる……そして、不自然過ぎる)
玉座の上で、魔王は深く考え込んでいた。
『千里眼』で見える未来は、あくまでも1日前後。いつ、訪れるかわからない未来なんて、見ることができない。
(さて、どうなる……)
果てしない天。
どこまでも蒼く、
どこまでも自由。
遮るものの無い蒼天。
陽は垂直に立つ。
その中に、少年は立っていた。
正面には、フードの男。
宙に立った2人は最低限の距離で口を開く。
紺碧が映すは決意。
何人たりとも犯すことのできぬ覚悟。
「ありがとう、予言者。あんたが居なけりゃ、俺はここまで強くなれなかった」
「……」
「あんたとの約束は、必ず果たす。だから……」
「戦いの場に駆り出させろと?」
「ああ。この手で、決着を着けたい」
「……良いだろう。ただし、一つ条件を設ける」
「?」
「死ぬな」
「は?」
「必ず生還しろ。それ以上でも、それ以下でもない」
「ありがとう、予言者」
「行ってくる」
軽々しく、彼は飛び降りた。
願望を果たすため。
そして、勝つため。
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