第28話 夢幻の壱



〜少し先の未来




──あなたに会いたい。

もう一度だけで良い。

──謝って許されたい。

約束を果たしたい。

──まだ、終わりたくない。


「……ここは?」


私は目覚めた。

砂漠は色を失っている。

見渡す限りの白銀。

正直言って、驚いた。

蒼白い空は、まるで雲に覆われたよう。

雲を突き抜けた先に、こんな光景が広がっていたなんて。

けど、そんな私を尻目にシレウと名乗った少年は、てくてくと進む。

定期的に私の方を振り向き、手を繋いでくれた。


「え……」


狭い通路を歩いた先に、広場が佇んでいた。

その中心で、えんじ色の光の玉が、脈を打つ。

まるで、生きているかのよう。

そして、その隣に立つ、大男。

三つのペストマスクを付けた男は、腕を組んでいた。


「む……誰だ?貴様は」

「!遂にか!」

「うん、頑張ったんだよ。存分に褒めたたえよ!」


えっへん、と胸を張った少年をガン無視し、私の方を眺めている。

倍ぐらいある身長。柱の如き剛腕。不気味なペストマスク。

怖い。

最初に出てきた感情がそれだった。

とても人には見えない彼は、


「あ……え?」


片膝をつき、頭を下げた。

戸惑いを隠せない。


「有光概の方は……うん、大丈夫そうだねー」


いつの間にか光のそばに立っていた少年。

ただ、私の知っている少年の姿はそこには無かった。

それは、1回りも2回りも成長した青年の姿。

その上、人以上の腕の長さを持った青年は、光に触れた。

小さく、にぃ、と笑ったのに気がついた。


「さて、そろそろ……」

「なに!?」


ぐごごと大きく地面が揺れ、足がすくんだ。

反射で男が私を支える。

この地震に特段、2人は反応を示さなかった。



平然と青年は事実を告げる。

『有光概』と呼ばれたソレは、激しく鼓動を打つ。

まるで、歓喜しているように。


「くくく、あっはははははははは!!」

「変な笑みを浮かべるな。アルタ」

「ああ、ああ、すまない。ファス」


興奮を抑えきれない青年。

嗤う彼に対し、比較的落ち着いていた男。

ゆっくりと立ち上がり、有光概に近づく。

そして、ファスと呼ばれた男はそれに触れ、シレウが高らかに叫んだ。


「さぁ、!!」






〜今




「……ん」


暖かい暖炉で、シグレは目覚めた。

辺りを見渡すと、すでに睡眠についた2人の姿。

吹雪の窓を覗けば、緋色の光がわずかに差し込んでいた。


(何処ここ)


誰かに聞くこともできない。

2人とも安らかに眠っているのだ。

それに、


(ここまで、運んでくれたんだよね)


あくまで推測ではあるものの、その分の恩があった。

その上、アークに至っては、右腕が千切れている。

傷口に巻かれた包帯。


夜明けは近い。

体力は十分。

正直いえば、彼女は寒さを舐めていた。

と言っても、防寒着を何枚も着込んでいたのだが。


「等価交換」


刹那、か細い腕は熱を宿した焔へと変化した。見た目だけではない。実際に、熱を感じる。


「私も、頑張らないと」

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