第27話 止まぬ鼓動。理を映すまで


「だから!私たちは何度も警告したんだ!」

「ふざけるな!ならば何故、説得をしなかった!」

「人の話を聞かなかったのはそちらでしょう!」


小さな小屋の一室で、怒号が鳴り響いていた。

中には部屋の定員を超えている人数。

といっても、十数人対二人といった感じだ。

全員が、怒りを露わにし、罵声を浴びせあっていた。


「──おい、クエート。本気で殺していいか?」

「──それはダメだ」

「──なんでだよ。一瞬でケリつくぞ」

「──武力行使は最終手段だ。そう易々と使うわけにはいかない」

「──ちっ」


虚空の素で会話を行い、意思を共有する。

彼らは感情的になり、論理的な話し合いは不可能だろう。

勇者一行は比較的穏やかに対応していたが、それも限界が近づいていた。

アークに関しては、いつでも『無音』を発動する体制になっている。




何があり、こうなったのか。

遡る事数日前の事だった。


「……は?」

「なんて言った、お前」


村人の話を聞き、二人は固まった。


「ロウが死んだ」


真実を知る少年の死。

少年は彼らがここを訪れてから、一度も村の外へ出ていない。

村に魔物が侵入した痕跡はない。

病死の可能性はゼロに等しい。

圧倒的な不自然だった。

死体には自殺とも、他殺ともとれる首の裂かれた痕。


(消された?いや、そんな訳ないよな。けど、自殺はもっと無いだろう。何が起こっている?)


更に数日前、彼らは村長に調査結果を提出した。

そして、自分たちの主張を伝えたのだ。

森の怪物は、守護者である事。

討伐すれば、村に魔物が雪崩れ込む事。

ただ、老人たちは聞く耳を持たず、意見は変えなかった。

それどころか、圧力をかけ始めたのだ。

それは、少年の死と共に、エスカレートしていった。


「……分かりました。その代わり、どうなっても知りませんからね」

「ほう?」

「私たちは再三、忠告を行いました。その上で、私たちは依頼を果たします。その結果、破滅を迎えようが、責任は一切取りません」

「……ふん。まぁ、良いだろう」


了承したのか、しっし、と手を振る村長。内心、今すぐにでも手が出そうだった。

投げ出したかったものの、汚名を着せられるのは困る。


(やるしか……ないか)


スイッチを切り替え、アークを連れて、森へと向かう。





戦場いくさばで、地獄を見た。

誰よりも温厚な獣は、最期まで優しかった。

刃を振るごとに熱く朱い血が、身体に纏わりつく。

──殺したくない。

無意識のブレーキが、余計に獣を苦しませていた。

剣を振るう手が止まれば、己が死。

その剛腕を潜り抜け、魔術を織り込んだ刃物で皮膚を、肉を裂く。

鳴り止まぬ悲鳴。

哀しみの咆哮。


──今なら、解る。


其の意味が。其の絶望が。

許して欲しいとは、思っていない。

懺悔など、意味は無い。


森が泣いていた。

鳥が怯えていた。


「あぁ……」


水溜まりの上、緑を塗り潰す朱。

どこまでも鮮やかで。

どこまでも


「私は……」


後戻りは出来ない。

側には、倒れ伏した巨体。

背後には、反動で片膝をついた少年。


「何処まで行っても……」


その時点で、勇者は堕天を選んだ。

全部を捨てる覚悟で。

挑み、勝利するしか無い。



誰にも聞こえない独白。

後悔に塗れた詩は、頭に深く刻まれる。







ふと、気になって問いかけた。


「もし、私が悪に堕ちたら、君はどうする?」


「            」


「へえ。それは、褒められてるって受け取った方が良いのかな?」


「ああ無論だ。其の時はまぁ、      でな?」


欠けた記憶。

とってもくだらない。

けど、とっても楽しかった。




玉座にふんぞりかえって、


「だから、余は此処で、君を待つ」


漸くようやく、掴んだチャンスを、成し遂げる。

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