第26話 踏み躙られた痛み 其の三


理由なき。

答えなき。

何故、故に。

何も分からず、途方に暮れ。

幻想が、現実を映す。

復讐。破壊。

憎しみが、苦しみが。


「──それが、お前の答え」


誰かの言葉が、脳裏に刻まれる。


魔王でもない。

勇者でもない。

特異な存在であるソレは、事の始まりを待っていた。


愛に飢えた厄災。

真なる姿を隠し、ソレは生ける伝説として、目的のために奔走していた。

自覚すらもなく。




「いやぁ、何とかなるものだねー」

「なんとか……って、かなり危なかっただろ」


シキが黒い風に呑み込まれた後、アーク達は奇跡的に小さな村を見つける事ができた。

親切心からか、村人は彼らに家を貸し出してくれたのだ。

その晩、シグレを寝かしつけ、2人は暖炉で話を続けている。


「いや本当に寒いし、死ぬかと思った」

「カーライに行っても、同じようなものだと思うぞ。それに、何か嫌な予感がするし」

「嫌な予感?」

「なんだろ……上手く言葉に表せないけど、少なくとも誰かは死んだ」


キッパリと言い切り、隻腕の身を温めた。

疲労と痛みが残っているものの、多少なりとも動けるぐらいには回復している。


「──アルグリア」

「なんだ?」


彼女の問いかけに、口を奪取した厄災が応えた。


「お前は、私たちの誰かが死ぬとなったら助ける?」

「はぁ?呼び出しておいてなんだそれは」

「いいから」

「……さあな。少なくとも俺に死なれては困るから助けるが……お前たちはどうでも良いしな。大体、これに一体何の意味がある。ifの話など、時間の無駄だろ……」


言い切る前に、もごごと口を塞がれたアルグリア。


「待って」

「?」

「もう一つ、お前に聞きたいことがある」

「なんだ」

「!?」


その言葉を聞いた彼は言葉を失った。

口を開いたまま、動かない。

驚いた口と、疑問の目。

なんとも奇妙な光景だった。


「お前の口から、その名が出るとは……」

「なにか不味い?」

「いや。ただ、意外だっただけだ」

「ふーん。それで?」

「《《オレもよく知らん》』」

「は?真面目に答えて」

「真面目だ。真面目に知らん。なんならさっきのが初対面だ。声すらも知らん」

「何も知らないの?」

「そうだ。オレからしても気味が悪い。何処の馬の骨かも知らぬやつが、俺の存在を知っているのだ。知らんやつに一方的に知られるのは、恐怖以外の何物でもない」


べらべらと語るだけ語り、彼は暗闇の奥底へと沈んでいった。

アークからしても、厄災の話は興味があった。


もうすぐ、時計は日を跨ぐ。

同時にアークに迫る眠気。

さっきまで影も形もなかった眠気は、アークを気絶させた。


「……え?」

──なんだ?


それは、アルグリアにすら予想できなかった事。






黒い雨に打たれて、

赤い炎に焼かれて、

黄金の弾丸を受けて、

緋色の血に染まって、

蒼白い死体を踏んで、

白銀の世界を眺めて、


──そして、は今、此処にいる

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