第25話 踏み躙られた痛み 其のニ


「何故だ、予言者」

「なにが?」


川のせせらぎの中、怒号が飛び交っていた。

大剣を背中に担いだ少年シキは、だん、と机を叩き、反対側に座る男を問い詰めている。

問い詰められていた方は平然と、何食わぬ顔で対応していた。


「なにが、じゃない!何故、嘘をついた?」

「む……嘘はついていない。それは、君の勘違いだろう」

「はぁ!?」


タバコをふかし、思いっきり息を吐く。

フードに隠された眼は、何処を見ているのか。


「いや……俺はあくまでも……言い訳にしかならんか……」

「納得いかねえ。俺が言うのもアレだが、アイツらには敵意が無かった」

「それは……まぁ、そういう時もある」

「な訳ないだろ!」


最早怒りを隠さない。


「勇者になりたいのだろう?それぐらい、我慢しろ」

「……」


追求を諦めたシキは、まだ湯気の出ていたお茶に手を伸ばす。

先程までいた極寒の地と違い、ここは比較的温暖だ。


「まあ、今回に関しては、こちらにも不手際があった。そこは謝罪しよう」

「……それは、素直に受け取るべきなのか?」

「あぁ。すまなかった」


ようやくの謝罪を受け入れ、少年は椅子に座り直した。

未だ、肋骨が軋む。

痛みが、少年を襲う。

実際、傷自体は再生し切ったものの、痛みだけは未だ引いていなかった。


「……大体、俺が君を連れ、治したんだ。感謝されないのは如何なものかと」

「はぁ?」

「まあ、うん。さて、おふざけはこのぐらいにして、真面目に話そうか」

「急だな……」


方向転換に、少し気持ち悪くなった。


「まず初めに、俺の目的は、魔王じゃない」

「それは、なんとなく予想してた」

「あ、そう。俺の真の目的は、を祓うこと」

「……」

「その為に、魔王は一切関係が無い。なんなら、勇者がどうこうも無い」

「はぁ?勇者が、関係無いだと?なら、何故、俺に協力してくれている?」

「それは、君の望みだからだ。厄災を祓えるのなら、これぐらい、安い投資だとも」

「……」

「厄災を祓うのに、強大な力の持ち主を、俺は探していた」

「それが、俺」

「そうだ。そして、


はっきりと予言者はシキを道具だと言い切った。

実際、側から見れば今の彼は予言者の駒と言われても、反論ができない。

厄災はいつ出現するのか、何処に現れるのか。

はっきりとは、誰も知らない。

予言者ですら、なんとなく、なのだ。

もしかしたら数100年後かもしれないし、明日かもしれない。

漠然とした終焉。

その点で見れば、予言者はかなり恵まれていると言って良い。

彼はその眼で実際に厄災を見たのだから。


「はっきりと言われるのは、傷つくな……」

「それぐらいは、覚悟していたことだろう」

「まぁな」

「厄災の強さは異常だ。歴代の魔王、勇者が束になろうが、勝利は厳しいだろう」

「……そんな強い奴を、俺一人で倒せと?」

「……精一杯のサポートはするとも」


死欲の厄災アルグリアを一時的とは言え遥かなる未来に封印したハルリ。

その戦いを、彼は見ていた。

世界そのものを塗り替えるソレの連発。

高度な魔術使いでも、1ヶ月で1発。

それも、1時間も満たない神技。

1対1で最強の固有結界『無音』に押し勝とうとしたのだ。


ただ、事の真実を、予言者は知らなかった。


「ま、君の願いはちゃんと叶える。それが、だからね」

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