第24話 踏み躙られた痛み 其の一


「俺は魔王をぶっ殺す為に、旅をしている」

「……」

「確かに、魔王は俺の仲間だ。けどな、それとこれは別だ」

「……魔王は……」


白い息が空を舞った。

隻腕と成ったアークは、半飛びの意識の中で少年に語りかける。


「知るか。理由なんか無い。敵は殺す。それだけだ」

「……」


互いの武器は雪に埋もれ、突き刺さっていた。

少年は死にかけの敵を討つ事ができなかった。理由は単純。

彼も先の一撃で、肋骨にヒビが入っていたからだ。

折れていないだけ、奇跡と言えた。


「……だが、は……」

「……俺にも分からん」


少年が見たのは、切断面から漏れ出た死。

蠢く厄災は、飛んだ意識を上書きする。


「俺個人としては、お前に協力を願うが……」


恨みつらみはあるものの、即戦力には変わりなかった。

その上、寒さに強いのか、かなりの薄着で戦闘しても、一切の鈍れを見せない。

少年はその場で考え込み、結論を口に出そうとした。

だが、それは声に出す前に、


『……ああ。


別の声に、掻き消されてしまった。

声の主人は姿を現さず、声だけが、吹雪の中で響く。


「!!」

「待って!なんで、!!」


声だけで、その正体に気づいたハルリが叫んだ。


『魔王を倒すのは自由だ。だが、君たちだけでやってくれ。こちらに口を出すな』

!!」


いつの間にか立ち上がった彼女は辺りを見渡す。

だが、声の主人は何処にもいない。


「……なんだ?これは……」


黒い風が、少年を包み込んでいた。

視界を遮る暴風が、物理的に距離を破壊した。


釆刻はんこくで会おう』

「待て!」

──止まれ!


走り出したのはアーク。

アルグリアの警告を振り切り、

隻腕を必死に振り、風に触れた。


「ッ!」


そして、風に触れた瞬間、アークに斬撃の如き傷跡が生まれた。

浅い傷は、血を流し、肉体に警告を出す。

ただ、それよりも早く風はアークの足場を砕き、爆風として彼に襲いかかった。

吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。


「……アーク!」

「クソがあぁぁぁあ!!」


声は届かず、風が止んだ頃には、既にその姿はどこにも無かった。

貴重な戦力を逃した事、聞きたい事が山ほどあった故か、どこにもぶつけることのできない怒りを叫ばせている。


吹雪が熱を奪い、忘れていた寒気がアークを襲った。


──活動可能時間は……1時間有るか無いかだ。


頭痛と吐き気が目まぐるしく襲い、荒い息で前を向く。


──余裕は無いぞ。

「わかってる」


隻腕でシグレを担ぎ、重い足取りで一歩を踏み出した。

血はとっくに止まっている。

限界はとうに超えていた。


「行こう、ハルリ。時間が無い」

「……腕、大丈夫?」


小さく首を縦に振った彼女は、自身が持っているアークの右腕と交互に見合っている。


「……知らん。それよりも、コイツが死ぬ方が問題だ」

「そうだね……」

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