第21話 見た約束


「ッぁあ!」


嫌な夢。

吐きそうな死を見せつけられ、夜中だと言うのに目覚めてしまった。

起きた反射でベットから上半身を立たせる。辺りを見渡すと、眠そうな目を擦り、コーヒーを啜るハルリ。


「……大丈夫?」

「お前いたのか……」

「うん。約束だったからね」


顔を合わせることなく、元勇者は口を開いた。


「結論、いや、真実から先に言うと、君はだ」

「……」

「もっと正確に言えば、君の中に潜むモノだけど。まぁ、……いや、

「……は?」


君も厄災と言う意外な言葉に、動揺隠せないアーク。

そんな彼を尻目に彼女は言葉を紡ぎ続ける。


「君、アークという人格、存在は、

「はぁ!?」

「驚く気持ちはわかる。でも、最後まで聞いて」


立ちあがろうとしたアークを制止させ、彼女は再度コーヒーを啜り、平静を保っていた。


「その昔、私が勇者だった頃、そいつと出会った」

──その女はオレとの協力を要請した。

「魔王を倒すまで、私たちは仲間だった」

──その女は、予言を聞いた。

「予言の厄災は3つ。

──死欲しよくの厄災。

──愛欲あいよくの厄災。

──■■の厄災。

アルグリアは、死欲の厄災だ」


頭痛とハルリの声が、交互に響く。

既に、彼の頭は限界を超えていた。


「ちょっと待て……理解できん。つまり……どういうことだ?」

──お前は、オレが産み出した。それ以上でも、それ以下でもない。

「はぁ!?いやまて、それが仮に真実だとして、じゃあお前は俺を何故作った!?」

──オレは、ハルリに封印された。魂を肉体の奥底に閉じ込められた。

「だから?」

──しゃばで活動するために、オレではない俺が必要となった。その結果が

「俺と言うことか」

──そうだ。

「じゃあ……俺は……」


嫌な事実が、アークを襲う。

知りたいようで、知りたくなかった。

後悔が、不安が、吐き気が、彼を刺激する。


「厄災アルグリアが産み出した分離体。代行体とも言うのかな。兎も角、君は、厄災であり、アークでもある」

「……」


絶句に気づいたのか、気づいていないのか、彼女は無言で立ち上がり、部屋から出ていった。

ガチャンと扉が閉まる音が鳴り響き、静寂が辺りを包む。


(じゃあ……あの夢は……)

──オレの記憶。

(なんで……)

──自分自身は、知らないといけないからなぁ。


ゲラゲラと嗤いながら、頭痛が途切れた。

眠気がアークを襲う。

最悪の事実。


(くっそ。マジで……ふざけんなよ!)


誰にも届かない怒りは虚しく部屋に轟く。

殺人衝動は、ただただ、血肉を求めた。

布団にくるまり、項垂れていたアーク。


──因果は、終わっていない。

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