第22話 かざした夢


「クエート!」

「……?」

「お前は!俺たちの村を!」

「誰だ?」


それは、戦争というよりかは、殺戮。

害虫駆除が如く、感情を消し去った魔王はただ、を振り撒いていた。

南の国、カーライで道草を食っていた彼は、正直言えばカーライを滅ぼす気など微塵も無かった。だが、魔王への恨みを募らせた生き残り達が徒党を組み、クエートに襲いかかったのだ。

無論、勝てるはずもなく、刹那の内に返り討ちにあったのだが、その光景をどこからか見ていた国王が、無謀にも彼に宣戦布告をしてしまった。


その結果が、これ。


国王を嘲笑う者は居ない。

怨みを持つ者も居ない。

だって、


「……これで、最後かな?」


皆、魔王によって討たれたのだから。

刹那の内に、たった1人に滅ぼされたカーライは過酷すぎる環境故か、魔物1匹すら寄り付かぬ大地と成り果てた。


「全く……面倒くさい事をさせてくれたね。余でなく私であった事を幸運に思ってくれよ」


それだけを告げて、クエートはルーラリアに向けて再度歩き出す。




誰も居ない砂漠。

砂嵐だけが声を上げる地獄。

かつての光栄を失い、廃墟となり果てたカーライ。

そんな中を、1人の少女が歩いていた。

熱中症か、ふらふらとした足取りで、汗すらかききり、今にも倒れそうだ。

黒いローブの中で、酸素を求める荒い息。

国の中心であったオアシスに辿り着き、必死に水を飲み続けた。

乾いた喉が潤いを取り戻すのと同時に、歪んだ視界が、正常に戻る。


「!」


現実か、幻想か。

曖昧な世界いまを彷徨っていた少女は真実をその目に焼き付けた。


「なに……これ……」


恐怖が、絶望が少女を支配し、吐き気をもたらす。

もとより、カーライに住んでいた少女だったが、幸運か、奇跡的に国外まで外出していた。

その場に立ち尽くし、眺めることしか出来なかった少女の背後。

こつこつと、砂の上を歩いているはずなのに、ブーツの音が響いていた。

少女が振り向くと、自分と同じぐらいの背丈をした少年。


「やぁ、初めましてだね。名も知らぬ人」

「誰?」

「んー。名前らしい名前がないからなぁ。あぁ、シレウ。シレウって呼んで」

「シレウ?」


聞いた事の無い名に首を傾げた。

そんな少女をフル無視でシレウと名乗った少年はオアシスに手を掲げ、小さく呟く。


星よ、巡れ廻れ。レウ・ソカリア

「!」


すると、魔法が起こったかのような事が起きた。

崩壊した家々の瓦礫が、オアシスの上空で、巨大な球体を作っていたのだ。

それは高速で回転し、いつしか緋色に染まる。


「君、魔王を怨んでいないかい?」

「……うん」


警戒した少女だったが、判断能力が鈍っていたのか、はたまたを見たのか、本音で答えた。


「よしきた!なら、僕と協力しよう」

「協力?」

「そう。協力だ。此処は暑すぎる。着いてきて」


球体は、いつしかプロペラを産み出し、ヘリとなっていた。

二人は乗り、何処かへと向かう。


それは、

誰も知らない終わりが、始まりを迎えようとしていた。






「だからと言って、いや、ぼったくりじゃないか?」

「いえ、正常価格です」

「いやいやいやいや、普通、1泊で5000ルーズとか、あり得ないぞ」

「いえ、正常価格です」


機械的な対応をするホテルのフロント。

不満をぶつけ、怒りを露わに仕掛けていたアーク。


「……どういう状況?」


彼が後ろを振り向けば、階段を降りてきた2人。

眠気が取れきれていないのか、目を擦っている。


「看板には1泊500ルーズって書いてあったよなぁ?おい、マジでふざけんなよ。こっちは看板の価格だと思って止まったのに」

「そちらの都合など、私には知ったことはありません。さっさと払ってください」


財布的には、痛くも痒くもない。

だが、プライドか、根本的な何かが、彼を退かせない。

イライラしてきたのか、埒が開かなくなったのか、魔力の流れを変化させた。


──ちょっと待て。


それは、死の厄災でもある彼ですら、止めに入る程の異常事態。

だが、お構い無しに、アークは光を手元に集約させる。


「……『無音』!」

「やめなさい」


とん、と光の玉を壊そうとした瞬間に、彼は頭を叩かれた。

光は、縛りを失った瞬間に散らばってしまった。


「さっさと払いなよ。みっともない。ほら、彼女を見てみなよ。恥ずかしそうにしてるよ」

「ヒモに言われたくない……」


渋々、財布に手を伸ばし、3人分の宿泊費であった15000ルーズを支払う。

シグレに襟を引っ張られ、アークは引きずられる形で、ホテルから投げ出された。


「……反省しましたか?」

「はい……」


正座の形で、彼女の説教を受けていた。

その間に、ハルリは準備運動と言わんばかりに腕を思いっきり伸ばす。

日差しが、眩しすぎた。

雲一つない。


──……。の……厄災。


厄災同士に、面識は無い。

と言より、厄災はあくまでも予言。

時代が違う可能性だってある。

誰にも届かない言葉は、虚しく頭痛となる。

今は誰も知らない、始まりが、因果が、どこかで出会う。


あの時、ハルリと出会ったときの言葉がアルグリアを刺激した。


──因果は、

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