第12話 堕ちた者。目覚める者


どこかで、彼女は夢を見る。

暁に染められた過去を。

懐かしさが、彼女を包み込んだ。


かつての勇者であった彼女は、唯一魔王を倒すことを旅の終着点にしなかった。

彼女の目的は、


だから、彼女は


予言は3つ。

3つの予言のうち一つは、彼女によって遥かなる未来へと封印された。

ただ、残り二つの厄災は、結局彼女の旅に現れることなく、時が流れていった。


勇者の呪いか、彼女は不老となり、永遠を過ごしている。

かつての仲間も、皆んな寿命で亡くなってしまった。

悲しかったし、自分だけと後悔もした。


「厄災。それは、連鎖するモノであり、全てが目覚めれば、世界は崩壊する。魔王とは違う、終わりの時」


現代の勇者が魔王に堕ちた今、彼女は戦いに赴かなければならなくなっている。

魔王が起爆スイッチとなり、厄災が目覚めれば、強制的なバッドエンドとなるのだ。

それだけは、防がなければいけない。


彼女……ハルリは向かう。

因果の潜む所へ。

始まりが、終わりに変わる場所に。






「それで、宣伝は成功と見ていいのかな?」


「あぁ、おおむぬはな。少なくともアークの耳には入っているだろう」


「だろうね。それは『千里眼』で確認できる。はは、彼今、朝っぱらというのに、コーヒーをぶちまけて台パンしているよ」


一晩も経てば、情報は大陸を網羅する。

既に、世界は魔王の誕生という話題で持ちきりだった。

ルーラリアは今、魔物の巣窟と化している。これからも、各地から魔物が集まってくるだろう。


「さて、私はネタバレが嫌いだし、彼とはフェアに行きたい」


彼はそういうと、魔術を自身の瞳に使い、『千里眼』を封じ込めた。

唯一の勇者としての面影も完全に消え去る。


(ま、彼がここに来たら『千里眼』は使うことになるだろうしね)


呑気に考え、椅子にふんぞりかえった。

最速で走ったところで、旧魔王城からここまで休憩なしで1ヶ月はかかる。


「さて、君はどうでるか?」





「……走るか、いや、うーむ、どうしたものか」


小さなホテルの一室で、アークは悩んでいた。

生き残りから知らされた、衝撃の事実。

かなり困り果てていた。

最低限の身支度をし、階段を一段ずつ降り、フロントで、彼女が待っているのが目に入った。

チェックアウトを済ませ、待合室のソファに座り込む。


「一晩寝て、起きたら地獄。はぁ……」


無意識のうちにため息が飛び出た。

見かねたシグレが、彼に声をかける。


「どうしますか?」


「いかなきゃ……だよなぁ」


やっぱり、殺し合いたくない。

心の奥底で、そう考えていた。

ただ、兎にも角にも一発ぶん殴りたい。

話はそれからだった。


──殺せ。


ただ、衝動がアークの背中を突き飛ばす。

声はクエートに届かない。

今の時間は、10時手前。

ルーラリアまでは24時間走って1ヶ月はかかる。そして、彼らはルーラリア以外で、まだ行動を起こしていなかった。

ならば、特別急ぐ必要性はない。


(くっそ、テレポートなんて使えねぇし、一日24時間も移動できるわけじゃねぇ)


机に膝をつき、頭を抱えていた。


「お困りのようだね」


声のする方向を見上げれば、赤い髪を靡かせた女性がアークの目の前に立っていた。


「誰だお前」


警戒しながらも、武器に手を添えないアーク。


「私はハルリ。さすらいのお人よしさ」


「ハルリ?」


どこかで聞いたことのある名前に、余計にアークは頭を悩ませていた。


──殺せ!


挙句、頭痛はひどくなる始末。


「そう。元勇者って言えば、わかるかな?」


「あ!」


反応したのはシグレ。

見た目相応に目を輝かせ、ハルリと名乗った女性を見つめていた。


「唯一魔王に堕ちなかったって言うあの!?」


嬉しそうに、少女は両手を合わせている。


「そうだよ。よく知ってるね。いやぁ、私も有名人かぁ」


「有名人が、俺に何の用だよ」


「君と協力しに来た」


「クエートの討伐か?悪いが、間に合って……」


「いや、違う。そっちはどうでも良い」


「じゃあ、何が目的なんだ」


怪しむアークに、仕方がないと両手を上げながら答えるハルリ。

だが、その言葉を聞いた瞬間、そんな考えが吹き飛んだ。


に悩まされてるでしょ」


「!?」


それは、クエート意外に伝えたことがなかった事実。クエートと彼女に面識があるとは到底思えない。

彼が旅に同行してから名しか聞いたことがないのだ。


──止めろ。その女の言葉に耳を傾けるな!


更にひどく、うねる頭痛。

吐き気をもたらして、気持ち悪い。


「私は、ソレが何かを知っている。内側に潜む悪意を」


「なんで……知っている!?」


──逃げろ!逃げろ!逃げろ!


「なんで……か。内側の奴に聞けば、潔く答えてくれると思うよ」


そう言うと、彼女はアークの胸に手を当て


始まりの唄バニッシュ。話は起きてから」


とん、と力を入れて押した。

一瞬でアークの意識が消し飛び、殻となった肉体がぽん、と机に力無く倒れ込む。


「!?」


シグレは、何が起こったのか理解できず、固まっていた。


「何を、したんですか!?」


「何って


「は!?」


「……場所が悪いし、移動しよっか」


そう言うと彼女は気絶したアークを担ぎ、ホテルの外に出る。続いて、シグレも外に出た。





「なんだよ……ここ!」


ソレは、真っ暗な世界。

光が一切ない点においては、『無音』と変わり無かった。




「さて、私は予言者から変な言葉を残されたんだ教えてあげる」


──因果は、終わっていない

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