梨衣花と祭り

駅前の祭りに来るのは中二以来だ。

あの時は3人で来たはずなのに、1人だけ後ろを歩いていた。

懐かしい。

退屈で惨めだったなあ。


「あ、タコ焼きですよ!

焼きそばもあるし、唐揚げもあります。

せんぱいはどれがいいですか?」


でも今はとても可愛らしい後輩が隣にいる。

それだけで心が満たされるのを感じる。

偽装カップルであるという事実が残念だ。


「俺は焼きそばかな。

お腹減ってるからたこ焼きも買おうかな。

梨衣花ちゃんはどうする?」


「わたしもたこ焼き食べたいです!」


「オッケー。

じゃあ並ぼうか」


多分合わせてくれてる。

彼女はジュースを飲む時はココアを好むし、

初(偽)デートの時もチョコアイスを食べていた。

つまり甘いものが好物なはずだ。


「焼きそばとたこ焼きのお客さまー」


出来たようだ。

お金を出そうとした梨衣花ちゃんを抑えて支払う。

中学生に払わせるわけにはいかん。

前の大会で千円も払って応援に来てくれた後輩だ。

大切にしなきゃ。


「まいどありー」


焼きそばとたこ焼きを受け取り、端に寄って食べる。

うーん、具が少ない。タコも小さい。

でも美味い。

不思議だね。


「熱いから気を付けて食べてね」


「ふぁいっ!」


もう食べてる。

そんでもって熱そうだ。

はふはふ言ってる。

いちいちかわいいな。


食べ終わった。

買った屋台横のゴミ箱にプラスチック容器を捨てて、

他の屋台も見て回る。

腹ごしらえも済んだことだし、取りあえず一周しよう。


「結構大きいお祭りですよね」


「そうだね。

梨衣花ちゃんはこの祭り初めて?」


「小さい頃に来たと思うんですけど、

あんまり覚えてないです」


なるほど。

俺も昔行った家族旅行とかほとんど覚えてない。


「そうなんだ。

去年は来なかったの?」


「友だちが部活で忙しくて……」


あっ、

今まで部活の話とかしてなかったな。


「そういえば梨衣花ちゃんって何部なの?」


「あれ?

話したことなかったでしたっけ?

部活入ってないんです」


「あ、そうなんだ」


そうだよな。

夏休み暇そうだもん。


「はい。

元々応援部っていう他の部の応援用の横断幕を作ったり、

応援に行く部活に入ってたんですけど、そこで例の先輩に会っちゃって」


「なるほど。

大変だったね」


「いえ、結局わたしが重く考えすぎていただけでしたから」


中学が違うから何とも言えないけど、応援部って結構レアじゃない?

チアの恰好とかするのだろうか。

似合いそうだな。


「でも今はせんぱいのこと応援するのが楽しいんです。

インスタ見て頑張ってるなあって思ったり、

練習の悩みを聞いたり、あいつは強くなったって話を他の人から聞いたり、

そういうのが楽しくて」


梨衣花ちゃんが下から覗き込んでくる。

そういえば、祭りに行くときから自然と手を繋いでいる。

今までは服を掴んでいたのに。

急に距離が近くなったように感じる。


「だから今はせんぱいだけの応援部長です!」


かわいいな。

おい。

駄目駄目。

好きになっちゃう。

いや元々好ましくは思っているけれど。

年上のスポーツマンにトラウマがある子なんだ。

男を見せた瞬間に嫌われるぞ。

大切な後輩だ。

大事に大事に。


「ありがとう。

梨衣花ちゃんの応援でめっちゃ助かってるよ。

なにか困ってることとかあったら何でも言ってね。

飛んでいくから」


ふぅ。

危なかった。抱きしめるところだった。

良い先輩って大変だな。


「……じゃあいっこだけおねがいしても良いですか?」


「いいよいいよ。

どうしたの?」


「ほ……、」


「ほ?」


欲しい物とか?

なんでも言ってくれ。

梨衣花ちゃんのためなら深夜バイトしてでもお金作るから。


「……これからも、

せんぱいの彼女でもいいですか?」


「もちろん!

信じないナンパ野郎がいたらいつでも呼んでね!」


そんなの当たり前だ。

こんなかわいい子はナンパ被害がひどいに違いない。

守護らねば。


でも「ほ」ってなんだったんだろ?

聞き間違いかな?


そんな感じで祭りを楽しみ、暗くなる前に帰宅した。

これで夏休みも終わりだな。

明日から新学期だ。

頑張ろう。




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いつの間にか三股!?イジメが怖くて鍛えたらとんでもないことになった 桜井君JK @sakurai890

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