柔術の試合

夏休み最終日。

宿題はすでに終わっている。

というか市姫さんとの勉強会が始まってから1週間で終わった。

今はもう2学期の予習も終わりそう。

完全に市姫さんの影響だ。

誰と仲良くなるかで本当に変わるもんだな。

びっくり。



今日は柔術の試合。

また梨衣花ちゃんが応援に来てくれた。

今回は入場料がかからないので申し訳なさもない。

普通に嬉しい。


今回は打撃が無いので親も応援に来ようとしていたが断った。

梨衣花ちゃんのこと説明できないし、こっちは普通に恥ずかしい。


俺はジュヴェナイル(*1)のフェザー(*2)の白帯(*3)で出場。

参加者は4人のトーナメント方式だ。


そして一回戦。

開始と同時に投げられそうになる。

柔道経験者か。

腰を引いて耐えつつ相手に飛びつく。

飛びつきクローズドガードだ。


耐えられると駅弁みたいになるのだが、無事相手がバランスを崩した。

柔道経験者相手に立ち技は不利なので強引に寝技に持ち込むのだ。

柔術はMMAと違い打撃が無いので、下になっても不利ではない。


相手がバランスを崩して手を地面に着いたのでキムラロック(*4)でキャッチし、

そのまま極めようとするも、帯を掴んで耐えられる。

そういうことならと相手の鼠径部に足をフックし、

持ち上げるようにして後転してマウントを取る。

そのまま3秒待って(*5)サイドポジションに移動し、

相手の体を起こして相手の頭の上に座り、キムラロックを極める。

勝った。


これはジムでよく先輩にやられる一連の流れだ。

もう何十回もやられた。

悔しくてめっちゃ練習したのだ。

試合で出来てよかった。


一旦体育館の端に戻り、梨衣花ちゃんから水筒を受け取る。

めっちゃ汗かくと分かっていたのでポカリだ。


「おめでとうございます!」


「ありがとう。

すごかった?」


「なにがなんだか分かりませんでした」


あははと笑う梨衣花ちゃん。

素直でよろしい。


「でもすごい数ですね。

この間の格闘技より全然多い」


人の多さにびっくりしている梨衣花ちゃん

打撃が無い分参入障壁は低いし、一日に何試合でも出来るので、

柔術の試合は結構な人数が集まるのだ。


「しかもブラジル系が多いでしょ?」


「そうです!

びっくりしました」


「向こうでは空手みたいなもんだからね」


しっかし、今日の梨衣花ちゃんはいつもと違う。

いつもはゆるふわーって感じの服にヒールの靴を履いているのだが、

今日はジーパンにスニーカーに帽子だ。珍しい。

上はいつものフワッとした服だが、動きやすい服装なのはなんで?

格闘技始めるの?


と、そんなことを考えているとアナウンスが鳴った。

名前を呼ばれている。

次の試合だ。


梨衣花ちゃんに御礼を言って会場へ。

決勝だ。


試合開始。

先程の相手とは違い体勢が低い。

強引に引き込むのは無理そうだ。

同じ理由でタックルも厳しそう。

というわけで襟と袖をつかみガードに入れようとする、

……が足を捌かれて抑え込まれる。

ヤバいと思って相手との間に膝をねじ込もうとするが、

間に合わずに袈裟固めのように抑え込まれる。

そのままニーオンザベリーに移行されて、

起き上がろうとしたタイミングで腕十字を極められた。

これは無理だと判断してタップ。

圧倒されてしまった。

めっちゃ強いなと思い相手をよく確認すると、白帯がボロボロになっており、

ストライプ(*6)も4つ付いていた。

2年はやってそう。

完全に実力負けだ。


肩を落として観客席に戻る。

悔しいな。

もっと練習しなきゃ。


「お疲れ様です!」


梨衣花ちゃんが水筒を手渡してくれた。

純粋な笑顔に負けた心が癒される。


「残念でしたね。

でも2位ですよ2位!

銀メダルです!」


「はは、そうだね。

ありがとう」


まあ実力負けだしね。

仕方ないね。


その後、黒帯インストラクターからアドバイスをもらった。

試合中も色々言っててくれていたようだが、

MMAの時と同様試合中はなにも聞こえなかった。

もうちょっと平常心で試合に挑めるようにしないとな。


その後簡単な授賞式でメダルを貰った。

本当はこの後も残って別の人の応援をするところだが、

中学生である梨衣花ちゃんを家まで送るという使命があるので、

早々に帰宅させて頂く。

というわけでジムのみんなに挨拶をして会場を後にした。


その帰り道。

梨衣花ちゃんが俺の手をとってこういった。


「せんぱい!

駅前でお祭りがやってますよ。

せっかくだし寄って行きません?」


あ、本当だ。

暗くなるまではまだ時間がある。


「いいね寄っていこう」


了解して梨衣花ちゃんについていこうとした時に、

ふと気づいた。


「もしかして珍しく動きやすい恰好をしてるのは……」


「バレちゃいました?」


てへぺろする梨衣花ちゃん。

かわいいじゃん。

応援してくれたお礼に出店で色々買ってあげよう。
















*1 16~17歳

*2 道着込みで61.2kg以下

*3 柔術には白青紫茶黒帯の5種類ある。白が一番下。

*4 孤独のグルメのやつ。柔道でいう腕がらみ。

*5 柔術はポイント制なのでテイクダウンしたり、下の人が上下をひっくり返したり、マウントポジションを取ったりするとポイントが入るのだが、その為には3秒間その体勢を維持する必要がある。

*6 段位のようなもの。0~4段まである。多くのジムで取り入れられている制度。対戦相手は白帯の4段。今回勝ったので青帯になる可能性が高い。

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