初アルバイト

燃え尽き症候群。

ということもなく、勝ったおかげでモチベは上がっている。

梨衣花ちゃんのことで質問攻めにあったが、偽装なので特に照れることもなく卒ない回答をした結果、つまらない奴との評価をいただいた。

知ったこっちゃない。


MMAで勝ったから次は柔術の試合出ようかなと思い練習をしていたが、柔道着では試合に出れないらしい。


というわけで柔術着を買おうと思い調べてみると、安くても1万円はするらしい。

ジムに置いてあるやつは3万とかだから安いのは分かるが、それでも学生にはきつい。


どうしたものかと考えていると梨衣花ちゃんがアドバイスをしてくれた。

なんと日野くん、アルバイトをしているらしい。

ライブハウスの受付とのこと。

未経験歓迎の職場らしい。

そういうことならと面接を受けてみる。

主な仕事内容はチケットのもぎりと受付でのドリンクの注文受付、警備、物販の補助など。

日雇い契約OK。


条件は最高だ。

知り合いもいることだし、働いてみた。


ライブハウスといってもその日の内容によって客層は違うらしい。

若い女の人が多い日は物販が大変だし、男の人が多い日は酒がよく売れるとのこと。


酒を飲めば暴れる人もいる。

スタッフをナンパする迷惑客もいる。


そういうのは適当にあしらって手を出されたら取り押さえる。

意外と荒っぽい職場だ。

まあでも普通に楽しいな。


「今日は大変だったな」


仕事が終わり、日野くんと会話。

初バイトは忙しい日だったらしい。


「あ、忙しかったんだ?」


「いやそうじゃなくて、

お前絡まれてたじゃん」


「そんなもんじゃないの?」


「ないない、珍しいよ。

基本マナー良い人ばっかだから」


そうなのか。

どうやらハズレを引いたようだ。


「でも、ナンパされてたスタッフの人、

結構すごかっただろ?」


「え?なにが?」


「いや髪の色とかピアスとかエグかったじゃん。

ちょっとビビっただろ?」


確かに。

明るい緑色のショートヘアにはびっくりした。

身長も170cmくらいあるし。

けど、ビビったりはしない。

慣れてるから。


「あー、なるほどね。

いつも刺青のオジさん達と殴り合ってるから、なんかそういうの慣れちゃったわ」


「やば」


ケラケラと笑う日野くん。

話だけ聞くとやばいよね。


「顔はいいけど、ちょっと無理かなあ。シンプルに口悪いし。

あとスレンダー過ぎるよな」


おっと真正面からの悪口。

外見も悪く言ってる。

どうしたどうした。


「珍しいね、人のこと悪く言うなんて」


「あの人トラブルメーカーなんだよ。

今回みたいな暴力沙汰は初めてだけどさ、クレームは結構多いの。

とばっちりもくらうし、そりゃあ嫌いにもなるよな」


「なるほどね」


それなら納得だ。

迷惑をかけられているなら陰口程度許してやるべきだろう。俺だってブレイキングダウンに憧れた勘違い野郎がジムに来て、試合前なのにそいつの相手しなきゃいけない時はイライラする。

ボディ効かされた程度で来なくなるし。


「それじゃあな」


日野くんは帰っていった。

ライブハウスはお互いの家の真ん中らへんなので現地解散なのだ。

というわけで俺も帰る。


と、帰り道。

先ほど話に上がった女の人がいた。

なんか男の人と話している。

彼氏かな?


ちょっと気になって聞き耳を立ててみると、どうやらもめてるらしい。

男の方は酔ってるな。

支離滅裂でお互いの関係性がよくわからん。


うーん、どうしたものか。

周りに人はいない。

流石に怪我したら可哀想だな。

助けるか。


そう思い近づくと、先に女の人の方が俺に気づいた。

そしてそのまま俺の手を掴み、腕を組んだ。

おや?


「あたしはこいつと付き合ってるから!

もう関わってくるな!」


「てめーふざけんな!」


最悪過ぎる。

しかもこの男なぜか俺につかみかかってきた。

信じたのか?

酔いすぎだろ。


とりあえず怪我しないように優しく投げて、ニーオン(*1)で押さえつける。

怪我させたら面倒なことになるしね。


「くそっ!!

離せガキが!!」


「これで分かっただろ!

あたしは年下の強いやつが好きなの!

分かったらさっさと諦めろ!」


「……めんどくせえ」


いまだに2人の関係がよく分からんが、巻き込まれたことだけは確かだ。

最悪である。


「くそっ!!

最初から狙ってなんてねーよブス!

てめえみたいなビッチだれが相手にするか!」


「だせー!

年下の男に押さえつけられて負け惜しみかよ!

だったらさっさと消えろ!」


「おいどけっ!

もう行くから!」


と言うので離してあげた。

また暴れたら取り押さえればいいしね。


「クソが!」


と捨て台詞を吐いて男の人は走って行った。

良かった問題解決だ。

マジで最悪だったな。

さっさと帰ろ。

と、女の人に背を向けて帰ろうとすると、ガシッと掴まれた。


「待て、

……いや、待ってください」


「えーっと」


早く帰りたい。

でも振りほどくのは危ない。

爪長いし。

折れたら可哀想だ。


「ありがとう。

お礼にご飯奢るから付き合って」


……それはちょっと嬉しい。

お小遣い少ないから外食は魅力的だ。


行っちゃうか。

美人局でも走って逃げればいいし。

というわけでホイホイとついていくのであった。












*1:相手の肋骨辺りを膝で潰しながら抑え込む技。極め技に繋げやすく、体格差が無い場合は方法を知らないと逃げられない。

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