アマチュアMMAの試合

市姫さんのおかげで勉強の効率がグンっと上がった。頭いい人はやっぱり違うな。

格闘技もそうだが、効率のいいやり方というものがある。なぜか勉強は詰め込むしかないと誤解していたが、そんなことはなかった。

しかも1人でやるのと違ってお互いが監視しあってるようで集中できる。


おかげで練習でも集中できている。

最初は手も足も出なかった30代のおじさん(格闘技歴2年のアマチュア)相手でも勝てるようになってきた。

試合まであと少し。

楽しみだ。




今日はジムが休みのダラダラ日。

梨衣花ちゃんからのお誘いでデートだ。

とはいっても勉強会である。

ちょこちょこやり取りしてるLINEの中で、友だちと定期的に勉強会をすることになったと伝えたら自分も教えてほしいと言ってきたのだ。


まあ最近はちゃんと勉強しているし、2歳も年下だ。流石に分かるだろと思い了承。

勉強しながらかわいい後輩とデートとはお得だ。

図書館デートだからリーズナブルだしね。


人に教えるのも基礎の復習になっていいなあと思いながら進めること1時間。

いったん休憩となった。

そこで試合の話になる。


「そういえばせんぱいの試合まで後1週間ですね。勝てそうですか?」


「いやー、プロと違ってアマチュアの試合は相手のプロフィールもよくわからないんだよね。

まあでも勝てるように頑張ってるよ」


プロMMAとアマMMAでは全然違う。

団体ごとにルールは違うが、俺の出る試合は鉄槌(*1)無しで、顔面に肘と膝も無し。

関節技も審判の判断で危ないと思った瞬間止められる。ヘッドギアもレガースも付けるから動きも制限される。3分2ラウンドと短いからフィニッシュはかなり難しい。


「そうなんですねえ」


言いながら上の空の梨衣花ちゃん。

興味ないなら無理に話さなくていいのよ?


「……えーっと、

応援とかって行ってもいいんですか?」


「え、来てくれるの?」


「迷惑じゃなければ……」


正直ありがたい。

かわいい後輩の応援があれば心折れそうになっても頑張れそうだ。

でも、


「ありがたいんだけど、入場料かかるんだよね」


「えっ、そうなんですか?」


「うん、千円かかるの」


セコンド以外の応援はお金がかかるのだ。

こっちだってお金払って出てるのに、客からも取るというね。まあ会場費も設営費もタダじゃないし仕方ないんだけど。


「うーん、分かりました」


「ごめんね」


「行きます!」


「……って来るの!?

無理しないでいいよ?」


中学生に千円は高いでしょ。


「無理してないです。

少し興味もあるし」


ニコっと笑う梨衣花ちゃん。

天使かよ。

本当の彼女だったらよかったのに。


「ありがとう。

それならジムの人に話しておくね」


「はい!

わたしの応援でやる気出ます?」


「もちろん!

めっちゃやる気出たよ!

これは負けられないなあ」


「わたしも応援頑張ります!」


「ありがとね」


これは素直に嬉しい。

よーし、頑張るぞ!





試合当日。

梨衣花ちゃんは本当に来てくれた。

白いゆったりとしたワンピースなのだが、腰の高い位置をベルトで締めているので、何がとは言わないが強調されてしまっている。

その格好大丈夫?

とりあえず帰りは送っていこう。

心配だ。


そんな梨衣花ちゃんは俺の彼女だと自己紹介してしまったのでジムの人たちに質問攻めにあっている。ごめんねうるさい人たちで。

でも悪い人はいないから安心してね。


一方俺は試合待ちだ。

試合は予定の時間になっても始まらない。

アマチュアあるあるらしい。


遅れること30分。

ようやく名前が呼ばれた。

曲がかかることもなく、名前がコールされることもない。レフェリーから注意事項だけ受けて、合図と共に試合開始だ。


まずは構えて距離を測る。

ジャブは振らない。

反射神経が良くないのでカウンターを合わされるからだ。

相手はパンチとキックを大振りで放って俺をリングの角に追い詰めようとする。

キックボクシングが得意なんだろうな。

相手のパンチを防いだ手がジンジンする。

練習と違って手加減なしなのだ。

怖い。

でも、いかなきゃ。


タックルのフェイントをしてみる。

相手はちょっと下がった。

それに対して距離を詰めて右フックを打ち、

そのまま両足タックル。

右フックをディフェンスさせるつもりだったが、

避けられてしまったのでタックルも逃げられた。

でも足には触れた。

ということは、そんなに反応良くないな。


相手が再び打撃コンビネーションを繰り出す。

攻撃から逃げながらもう一度タックルフェイント。

タックルで下がった頭を狙ったのか、

ミドルキックを放ってきた。


キャッチしようとするが逃げられる。

距離が遠いのだ。

最初と違い、打撃の威力が落ちてる。

つまり、タックルを警戒して相手の腰が引けてる?

これはチャンスだ。


相手の攻撃に合わせて両手で顔を守りながら強引に胴タックル。

キックボクシングで言うところのクリンチだ。

双差し(*2)になっているのでクラッチ(*3)を組んで相手の脇を潜って、

バックを取る。

そのまま持ち上げて地面に叩きつけてテイクダウン。

相手は背を向けて逃げようとする。

それは悪手だろ。

多分、打撃で圧倒する作戦だったんだろうな。

寝技の対応がお粗末だ。


逃げようとする相手をシートベルト(*4)でキャッチして四の字で足を組み、後ろから顔面を殴りながら隙をみてバックチョークの体勢に。

そのまま締め上げて試合終了。


1分30秒

バックチョークで一本勝ちだ。


終わった瞬間一気に疲れた。

メンタルの消耗が激しかったらしい。


チラリと梨衣花ちゃんの方をみると飛び跳ねて喜んでくれていた。

申し訳ないけど、試合中は彼女の声は聞こえなかった。でも応援してくれていたんだろうなというのは分かる。


レフェリーが俺の腕を掴んで持ち上げる。

誇らしい。

虚勢を張るために始めた格闘技だが、すごい達成感だ。本当にやっててよかった。


俺はリングを降りて相手のセコンドとうちのジムのオーナーに礼を言う。

そして応援してくれていたジムの面々にお礼を言い、最後に梨衣花ちゃんのところに行く。


「今日はありがとう。

おかげで勝てたよ」


「おめでとうございます!

せんぱいが頑張ったからですよ!」


言いながらスマホを見せてくれた。

試合の動画を撮ってくれていたようだ。

めっちゃ気が利くなあ。


防具をつけたまま梨衣花ちゃんとツーショットを撮ってジムの面々に再びお礼を言って会場を後にした。

もちろん梨衣花ちゃんは家まで送っていった。


あー疲れた。

でも楽しかったな。











*1:正拳と同じ握りで手の小指側の面で振り下ろす攻撃。危ない。

*2:両手を相手のわきの下に通して抱き着いている状態。凄く有利。

*3:種類は色々あるが、今回は自分の両手で握手をするように組んだ。

*4:片手を脇の下、片手を首の横から通してシートベルトのように固定する。

  バックポジションの時はこうしないとすぐ逃げられる。

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