第8話 : 再会した運命 [1]
「手紙の配達が来ました。」 幻想のような奇跡は何の予告もなく訪れる。
「手紙?」退屈なある日に突然飛んできた手紙一通が私をときめかせる。
「長年の約束を果たします。 少女があなたを思い出の場所で待っています。」 封筒を開けると、手紙と一緒に汽車の切符が一枚入っていた。
「これは…これはあり得ないことだ。」 自然に胸がドキドキして手が震える。
このような劇的な招待に遅刻することは大きな失礼に違いない。
もし遅れるのではないかと思って列車の時間を確認し、急いで時計を取り出してちらりと見る。
すぐ出発しないと時間通りに到着できないようだ。 ためらいながら時間を無駄にすると列車に乗り遅れるだろう。
突然このような幸運が訪れたことを疑うのが正常だろうが、期待感に膨らんでじっとしていられない。 奇跡を信じたくはないが、体が勝手に動く。 すでに感情にとらわれた自分にすべてを投げ捨てて行く価値があるかどうかを問い詰めることさえ無意味だ。 このような嬉しい機会を運命だとすれば、従うのが当然だ。 本能に忠実になった私は、まっすぐ駅へ向かう。
活気に満ちた足取りにふさわしい晴天だ。
行き来する人がいない閑静で小さな田舎の鉄道駅の無味乾燥な雰囲気も今日に限って特別に感じられる。
列車の席に座って窓の外を眺める時、通り過ぎる風景は小さな田舎町から山へ、山から海へ、海から港町に変わり、ただ席にじっと座っている私が実はどこかに旅立っているということを実感させてくれる。
到着したところは海の香りが迎えてくれる港町だ。
長い時間汽車に座っていたのがかなり退屈だったのか、汽車から降りるやいなや体を立てながら伸び悩む。
無意識に都市駅のにぎやかな雰囲気に流されようとする瞬間、どこからか古い記憶を刺激する声が聞こえる。
「いつ来るか分からなくて、ただ待つだけで、とても大変だった!」
私が首をかしげると、彼女は喜んで歓迎している。
「うん、そうだよ。」 すぐ目の前に立っている彼女が本物なのか、ただ戸惑う。
「待つのにとても大変だった。」 これが夢なのか現実なのか見分けさえまともにできない私を安心させようとするようににこ笑いながら愚痴をこぼす。
「ごめんね。」 ただ明るく笑っている彼女を見ていると、そのような疑いが何の役に立つのかという気がする。
「さあ, 出発しよう。」 彼女は私の手を握って強く引っ張る。
「どこ?」再会の瞬間に感じる劇的な気分が結局、一瞬の幸せに過ぎなかったというのが信じられないからかもしれない。 このような甘い感情を感じてみようとここに来たと思ったが、いざこの感情が彼女との出会いの本質ではなかった点というのが当惑するだけだ。 あっけない私は彼女の手に力なく引っ張られる。
「まさか忘れたの?」 彼女は眉をひそめ,失望感をあらわにした。
「えっと…」 実際に何をすればいいのか分からず、ただぐずぐずしているだけだ。 嬉しくて一歩で走ってきただけで、明確な目的があったわけではない。 感情にとらわれてここに導かれた自分がバカだったと自責するが、結局取り戻すには遅すぎた。 目の前で彼女が期待と失望を行き来するのをすでに見てしまった以上、変わることは何もない。
「今日私たち会って一緒に賭けをすることにしたじゃない? 勝てば願いを叶えることに!」彼女は首をかしげながら問い返す。
「そうだ!今になって思い出したようだね。」 正確に何の賭けかは分からないが、一応知っているふりをしながら納得することにする。 直ちに状況を免れるためだ。 いざ賭けというと漠然とした不安感がして、雑多な考えが通り過ぎる。
「あ、何だ。忘れていたなんて… がっかりだよ。」
「あ… ごめん。ごめん。」 古い記憶の中で眠っている色々な対話を無理に引き出そうとすると、訳もなく頭だけがより一層痛くなる。 単純に考えて彼女の言うとおりにすれば賭けというものが何なのか分かるだろう。 今は複雑に悩むのがかえって損だ。
「楽しみじゃない?」彼女はまるで私がこう反応するのを待っていたかのように指で観光地図を指す。
「うん。早く行ってみよう。」彼女の言うことに従うしか選択肢がない。
汽車の駅を出てホテルに行く。 部屋に荷物を解いてから動こうとする。
彼女と私はエレベーターに到着する。
自然にエレベーターのボタンを押して1階に降りてくるのを待つ。
1階に到着したエレベーターのドアが開き、彼女が先にぴょんと飛び込む。
私もついて行こうとしたが、びっくりして止まる。
すべての面がガラス張りで、外の風景が見えるエレベーターだ。
「なんで?入ってこないでそこにぽつんと立っているの?」 彼女が早く来るように手招きする。
「もしかして外が見えないエレベーターはないの?」
「なんで? 開けた港町の風景を見ながら登ると、気持ちがすっきりしていいんじゃない?」
「あ、ただちょっとくらくらして…」
「ええと、外が見えないエレベーターはあるかな? ないかな?よく分からない。」
私はエレベーターに乗らずにただ立っている。
彼女はその様子をじっと見てため息をつき,エレベーターから出る。
「わかった。それでは階段をのぼろう。」
「階段?」
「そう!階段!そんなエレベーターを探すよりは、直接階段で上がった方が早いと思う。」
「大変そうだけど…」
「この後にする賭けのための良い準備運動になるよ。」
「準備運動?」
「そう、準備運動。 賭けの練習をするつもりでやってみよう!」
「わかった。」
私は彼女と近くの階段の方に行く。
使用する部屋が何階にあるかをゆっくりと見ていると、彼女は階段を駆け上がる。
「さあ!私、先に行くよ!」
「あっ!待て!」 私もそれを見つけて慌てて追いかける。
「早く来いって!」
「なんで急に慶州になったの?」
「あ、遅すぎじゃない? これでは私に勝てるわけがない?」
「あ、待て!」 そんなに勝利欲を出すほどすごいことではないと思うが、いざ彼女の挑発に意地ができては自然に焦る。
静かな階段で騒々しい足音と荒い息づかいを出しながら走るが、彼女に追いつくのは失敗する。
「私の勝利だね!」
「これは君が先に飛び出したからだよ! 反則だって!反則!」もしかしたら大したことでもないことでそうするのが憎らしくてさらに熱を上げたような気もする。
「おお、そう?じゃあ、次は必ず勝ってみろ! 楽しみにしてるよ!」
「私は何ともない! その話はもうやめて、早く部屋でも見物に行こう。 どんなに良い部屋なのか気になるね。」 私は彼女をこのようにもっと相手にしても訳もなく悔しい気持ちをさらに刺激するだけだと思っては、努めて無視する。 何の意味もない口論だと思い視線を客室が並んでいる廊下の方に向ける
私は私たちが泊まる部屋にとぼとぼ歩いていくが、彼女は息を切らして席に座り込む。
私はその姿を見て心配そうな表情をしながら近づく。
「どうしたの?」しゃがんで顔を近づけて尋ねる。
「忙しなく走ったから、とても大変だった。 終わってから足の力が抜けてしまって一歩も動けない。」
「え?」 私はそれを聞いて慌てて頭だけ掻く。
「ああ、歩けない。 先に部屋に入ってて。 ここの階段で少し休んでからついて行くよ。」
「ああ… そうだ。仕方ない。 わかった。」
そんなに疲れて倒れた彼女をその場にそのまま置いて部屋に行く。
期待を抱いたままドアを開けると、宿の内部が一望できる。 きれいに整頓されたものが気に入る。
はるかに見上げなければならなかった高い建物がまるでおもちゃのブロックのように見え、矢のように走っていた車がまるでうごめく蟻のように見える。
青い自然の色を誇る海と調和したビル森の美しい光景に取り憑かれたようにじっと眺めていたが、ある瞬間突然気がついた時、高いところに対する漠然とした恐怖に襲われる。
また足がぶる震えてどたばたと座り込む。
努めてその光景を見ないように視線をそらすと、後ろから近づいてくる彼女を見つける。
「え?大丈夫?」と彼女は心配そうな顔をして尋ねる。
「あ… うん、大丈夫。 高いところから見下ろしたら少し怖くて。」
「私が見えないようにしてあげる。」 彼女は窓に近づき、カーテンを閉めてしまう。
「ああ、ありがとう。」 部屋の中に入ってきた光が弱くなったことに気づいてからゆっくりと再び頭を上げる。
「もう大丈夫ですか?」と彼女はまた私に近づき、背中をたたいてくれる。
「うん、いいと思う。」 カーテンの間からかすかに漏れる暖かい光が私の心を落ち着かせてくれる。
「それはよかった。」
「それにしても、部屋が本当にいい。」 私は心を落ち着かせて、すぐに席を立つ。 みっともない姿を見せるのが恥ずかしいだけだ
「そう!私も気に入った。 ここの銭湯も本当にいいというから、そこにもぜひ行ってみよう!」彼女もやはりそんな私の気持ちを分かってくれるかのようにやはり活気に満ちた声で答える。
「楽しみにしているよ。」 私を支えてくれる彼女に感謝を感じる。
私は荷物を宿に適当に片付けて彼女と一緒に外に出る。
「私たちが一番先に行かなければならない目的地はあそこだよ! 早く行ってみよう!」 彼女は遠くに見える高い建物を指差して走り去る。
「分かった。行くぞ。」 私は彼女をゆっくり追いかける。
暇で平和な夜遅く、海の香りを満喫しながら公園を歩いていると、いつの間にかその摩天楼の前に立っている。
「ここで何をすればいいの?」内心不安だが、少し前にホテルであったことで自尊心がまともに傷ついたので、努めて平然としたふりをしようと思う。
「階段で展望台まで上がる!」
「え?」漠然と予想はしたが、そびえ立つ建物をじっと見ているともうめまいがするようだ。
「先に到着する人が勝者だ!」
「ただエレベーターに乗れば楽じゃない? 面白くもないし、大変なだけだろう。」少し前に彼女が心配してくれたのがありがたかったが、結局こういうことをしようとしたのかもしれないと思うと少し違う気がする。 明らかに彼女は私のことを気にかけてくれたが,計画のほんの一部にすぎないようだ。 本当にずる賢い考えだが、そのように優しく接してくれたのがこのための罠かも知れないと疑う。
「ダメ!これが最初の試合だよ! そして、ここのエレベーターもガラス張りだけど大丈夫?」
「くぅ… 仕方がないのか… 分かった。」こうなったからには、ただ受け入れることにする。 ここまで来て嫌だと言いながら持ちこたえてばかりはいられない。 少し前に彼女が与えた親切を考えると、冷たく断って彼女に失望感を抱かせることはできない。
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