第8話 : 再会した運命 [2]

「さあ、私が用意、どんと言えば出発するんだ。」


「分かった。」 彼女の断固たる要求を受け入れたので、新しい心構えで真剣に準備する。 少し前は恥ずかしい姿を見せたが、今回は何か違うだろうという期待感に訳もなく緊張する。


「競走の時…」彼女は私がどんな表情をしているかを調べながら灸を据える。


「よーい…」


「どん!」私はその声に身をすくめながら前に飛び出そうとする。


「と言えば始まりだよ!」 彼女はその姿を見て大声で笑いながら叫ぶ。


「ああ…」私はすぐに立ち止まる。


「おぉ!勝利欲いいね! 関心がないふりをしても、実は勝ちたかったんだねか? よし!よし! そんなに積極的に飛びかかってこそ面白い!」彼女は私の目を見る。


「ああ、ふざけるな。」彼女の茶目っ気あふれる表情を見ていると漠然とした緊張感が雪が溶けるように消える。


「そうだね、真剣にやるよ。 タン!」 彼女のいたずらで私が緊張を緩めている間に本人が飛び出る。


「あっ!また!」 私は慌てて彼女を追いかける。 さっきと同じやり方にやられて、訳もなく悔しい気持ちになる。


「なんで!ふざけるなって言ったのに!」 彼女はにこ笑いながら矢のように駆けつける。 こんなに一生懸命走る姿を見ていると無神経になりたくない。


30階に展望台まで競走するのがあまりにも疲れてそのまま放棄する考えもしたが、実際にしてみるとやる気が生まれている。


私も彼女を追いかけようとしているが、あふれる意欲で速く走る彼女とは距離を縮めることができない。 先に飛び出した彼女を見ながら始める時は愚痴をこぼしたが、いざ階数が上がるほど口数が少なくなる。 5階、10階、15階、20階。息切れして足が痛くてぐずぐずする余裕さえない。 少しずつ足が遅くなるたびに、明らかに遠ざかる彼女の後ろ姿に焦るだけだ。


このまま行けば、再び敗北するだろうと直感し、弱くなる意志を引き締めてみようと思う。


そのように厄介な状況に高まる怒りで歯を食いしばって追いつこうとするが、体がついてこない。


足の力が抜けたままよろめきながら登る時、目の前に亀のようによろよろと歩いている彼女の姿が見える。 ぼやける視線に幻影が見えるのか錯覚するほど遅い。


だらりと垂れ下がった彼女の後ろ姿をじっと見ていると、最初からあまりにも速く走って展望台の階にほとんどたどり着くと疲れてしまったのが明らかだという気がする。


決勝点まで残りわずかのところですっかり元気が抜けてはぐずぐずしている彼女に追いつくことに成功する。


私もやはり力を出して彼女を抜いてしまって展望台の階に彼女より先に到達する。


勝利を直感した私が達成感を満喫しようとした時、両目に港町の全景が入ってくると突然めまいがする。 気が狂って自然に足がぶるぶる震える。


その時、彼女がついてきてとぼとぼと上がってきて、私がどっかり座り込むのを見たのか、それとも見なかったのか、たださっと通り過ぎて到着地点に入る。


「わあ!勝った! すごくきれい! 海と都市が一目で見えるって!」 彼女は自然と都市が調和した横浜の全景を華やかに鑑賞する。


私を怒らせる挑発なのか、それとも勝利を満喫しようとする自慢なのかは分からないが、ただめまいがして何も言えない。


実際に戻ってくる返事がないので、何か変な感じがしたのか、私にゆっくり近づいてくる。


「どうしたの?」喜びに満ちた歓呼は跡形もなく慌てた声でぐっと突きつけて尋ねる。


「ただ頭痛が少し。」 努めて気を引き締めてすすり泣く声でやっと答える。


「何で?」


「めまいがする…」私はこのまま座っていると頭だけ痛くなるような気がするので、立ち上がろうと思う。


「お前大丈夫?」 彼女も私がこうするのがかなり心配ではあるのか助けようとする。


「あ…すぐ降りてもいいかな?」 彼女の助けを受けて辛うじて両足で立つが、四方に開いたガラスに見える光景に気が狂ってすぐよろめく。 目をどこに置けばいいのか分からず、一生懸命階段の方を眺める。


「そ… そうだ… 今降りよう。」


私はそのように階段で視線を固定したままゆっくり降りてくる。


地上に到着してさわやかな空気を吸うと、いつの間にか気分がよくなる。


「ごめんね。せっかく上がったのに…」 達成感を満喫する前に降りてきて。」 いざ展望台で正気に戻ることも大変で、こんなことまで気にする暇がなかったのに、彼女が私がこうしていることのためにすぐ降りてきたというのが一歩遅れて思い浮かぶ。


「大丈夫!とにかく勝者は私だよ!」


「そうだね。」私がこうしたくてこうしたのではないと努めて合理化しようとするが、だからといって結果が変わるわけではない。 放棄しないで努力したのは結局何の意味がなかった。 数百個もの階段をあんなに熱心に上がっておきながら、実際に決勝点に到達する直前に座り込んで勝利を逃したのが残念なだけで、辛うじて勝利を勝ち取った彼女をまともに祝ってあげられなかったのが申し訳ない。


「それにしてもお腹空いてない?」 彼女は雰囲気を変えようとしているようだ。


「そういえば何も食べたものがないね。」 もしかしたら普段よりもっと大変に感じられたのがこのためだったのかもしれないという気がする。 いざ賭けに勝つことに夢中だった時は知らなかったが、こうやって空腹に階段を上るととてもお腹が空いた。


「そうだね。では今行こう。」 彼女が少し前にあったことは何ともないようににこにこ笑いながら私の腕をつかんで引き寄せる。


「どこへ?」私もやはり精一杯沈んだ雰囲気が気に入らなくて漠然とした罪悪感を努めて振り払おうと思う。 すでに終わったことに未練を持っても何の得にもならない。


「行きたいところがある。 早く行ってみよう!」


私はやはりその要求に惹かれて彼女の後を追う。


到着したのはカレー屋で、席に座ってメニューに目を通していると彼女が先に言い出す。


「さあ!ここで二回目の賭け!」


「何の賭け?」 不吉な予感がしてわざと知らんぷりをすることにする。 もしかしたら、ただ私が考えているのではないことを願う気持ちだ。


「この店で一番辛いカレーを食べるんだよ! もし君が先に食べ終わったら、勝者になるんだよ!」


私は何の返事もしない。 いいと言うには気が向かないし、ここまで来てどうしても嫌だとは言えない。 今この状況で何と言えばいいのかさえ分からない。 夕食を食べながらやっと一息つくと思ったが、やはりここに連れてきた理由があった。 なぜ急にお腹を満たそうと提案するのか疑問に思うこともあったが、その時はあらゆる感情にとらわれて実際そのような余裕がなかった。


彼女は私がそんなに口をつぐんでいることさえ気にしないかのように、一番辛いカレーを2皿注文する。


私の気持ちが気になるのは、とにかくこの賭けを受け入れるしかないと思うからかもしれない。


むしろ心の準備をして、この状況を受け入れたほうがいいかもしれないと思う。


彼女も私をじっと見つめるだけで、特に何も言わない。 私が何を考えているのか気になるかもしれないが、単純な試みさえしない。 挑発、応援、激励、慰労、何もない。


私は複雑な心境を隠そうと淡々とした表情をする。


平然と沈黙の中でしばらく待つと、彼女が勝手に注文したカレー2つが出てくる。


今度はむしろこの気持ちを維持して何気なくこの賭けに臨んでみることにする。 賭けに勝つために食べるのではなく、飢えたお腹を満たすために食べると思うと、ずっと心が楽になる。


「いただきます。」 私は水を一口飲んで,落ち着いてスプーンを持つ。


「いただきます!」 彼女はやはり賭けに勝つという意欲にとらわれているのを見せつけるかのように、カレーが出てくるやいなやスプーンをさっと持ち上げてがつがつ食べ始める。


彼女はカレーライスを大きくすくって口の中に押し込み,のどをめくる前にもう一口食べる。


口の中がひりひりするのを我慢できなくては、水を一口飲みながら彼女の皿と表情を交互に見る。 まるで数日間飢えた人のように、いつのまにか半分以上食べてしまった状態だ。 彼女の顔はまるでカレーに染まったかのように真っ赤になって冷や汗をたらたら流している。


まるで一匹のリスにでもなったかのように両頬をいっぱい満たしてもぐもぐしていた彼女が突然席から飛び立つ。


「あ…お腹が痛い。 めまいがする。トイレに行ってくるよ。」 彼女はよろめきながらトイレに向かう。


私は彼女の後ろ姿を見ながら、おそらく当然の結果だと思う。 始める時から速度をそのように出して限界を越えたことさえ無視し、ただ勝つという執念一つで辛うじて持ちこたえていたことは明らかだ。


私は彼女のスプーンが動かない間に早くやってしまいたいという欲が出るが、焦る心を頑張って整え、今まで食べてきた速度でゆっくり終わらせることにする。 急いで食べて胃もたれしたら、彼女と同じことになるに違いないと思う。


虚しく空いた隣の席を努めて無視し、私がもぐもぐする音に集中する。


しばらくすると、どうにかして皿を全部空けることに成功し、落ち着いてスプーンを置く。


彼女は席を外している。


「食べ終わった!」


いざいいのか、それとも悪いのかは分からない。 賭けに勝ったのは確かに気持ちいいが、まだトイレから出ていない彼女の状態が大丈夫か心配では歓呼することはできない。 私は立ち上がれないまま、彼女が入ったトイレだけを見つめている。


しばらくすると、彼女は私の待ち時間に反応してくれるかのようによろめきながらトイレから歩いて出てくる。 よかった. 彼女が自分の足で立っているのを見て初めて安心できる。


「今回は私が勝ったね。」 最後まで最善を尽くした彼女を嬉しく迎えてくれることにする。


「うぅ…悔しい!」 彼女が歯ぎしりをしている。


「早く外に出て風でも浴びよう。 散歩でもすれば気分が一層良くなるよ。」 私は彼女が食べ残したカレーをちらっと見る。


「そうだね。」 彼女も足をドアに向ける中でも、やはり残りのカレーから目を離すことができない。 最後まで我慢できなかったことを残念がっているに違いない。


夕食をそのように食べてからまた出てくる時は日が暮れている。


しばらく彼女と夕焼けに染まった空を眺める。


「大丈夫?」私が先に彼女の表情をちらりと見ながら話しかける。


「ああ…そうだと思う。」 彼女もやはり自分がそうしたことを恥ずかしがっているようだ。 彼女は頭を上げずに這い込む声で答える。


「よかった。」


「あ!本当に残念だ。 勝つこともできたのに。 いや、勝つべきだったのに!」 彼女は突然頭をもたげて虚しい結果を嘆く。

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