第7話 : 旅行 [1]

今日は提灯祭りがある日だ。 暗い夜の川に数多くの花火が刺繍されている。 空の星よりもっと燦爛と輝く炎が水流に沿って流れてきている。 灯り一つ一つには誰かの願いが込められていると思うと、価値がさらに胸に響くようだ。 私は流されてくる灯りを一つ取り出して、その中に込められた文字をじっと読んでみる。


「会うことさえできるなら…」


真心が込められている祈りの表現だが、このようなことで現在の私を慰めることはできそうにない。 懐かしさを募らせるだけだ。 しばらくその光景をじっと見ていて、ふと現実を直視しては、この感情を必死に払い落として家に帰ろうとする。 もう少しぐずぐずして電車に遅れると、これもこれもできない格好だ。 疲れた体を引きずって電車の駅に向かう。


閑静な川辺を抜け出して高くそびえるビルの森に入ってくる。 精神が混迷するほど明るい光とあちこち行き来する人々の間で黙々と道を行く。 少しでもよそ見をすれば時間通りに到着できないようで焦るだけだ。 あれこれ気にする暇がない。


「心の赴くままに足を運ぶと、いつのまにか駅前に立っている。 駅は確かに閑散としているのに、訳もなく慌ただしい雰囲気だ。 私の心境を代弁してくれるような気もする。 落ち着かないのは気のせいに過ぎない。」と、わざと無視して終電の出発時間を確認しに行く。 遅れるのではないかと不安で足が自然に速くなる。


列車の時間を確認すると幸い遅くはないようだ。 安堵のため息をつく。


終電の切符を切る頃、列車が数分以内に到着するという放送が静かな駅に鳴り響く。


たびたび足で列車乗り場に行き、まもなく騒がしい音を立てて列車が到着する。


列車に乗って席に着くから余裕を取り戻してもよさそうだ。


緊張がほぐれると体がだるくなり、疲れが押し寄せてくる。


さっきの灯りを見ながら、そわそわした気持ちをようやく落ち着かせることができるようだ。


あてもなく流れていく川のような現実で、私をどこかに導いてくれるのは今乗っている列車だけだ。


列車に身を委ねると雑多な思いがする。


苦労して複雑な心境を整理しようと周りを一度見回してみる。


静かな列車の中にいる何人かの人々も、ただ私のように無表情な顔でどこかに到着するのを待っているだけだ。


どうしてもこの雰囲気にその考えを振り払うことができないようなので、むしろ自分自身を楽に任せることにする。


そっと目を閉じて過ぎ去った日を回想してみることにする。 記憶は薄暗くなり、漠然とした懐かしさだけが残っている。 何か懐かしいけど、正確に何を懐かしんでいるのか分からなくてもどかしいだけだ。 時間が経つにつれ古い記憶が次第に曇っていくのは当然だが、大切な思い出まで錆びさせた歳月が残酷なだけだ。


無理やり思い出を振り返ると、頭が痛くてまた目を覚ます。


物静かな雰囲気を感じて周りを見回すと、案の定列車に残っている人が誰もいない。


余計なことをして時間をどれだけ過ごしたのかさえ分からない。


私一人で降りる場所を逃したのかもしれないという不安感に襲われる。 列車が私の恐怖に気づいたかのように、ある駅で止まって、するするとドアを開ける。 まるでここがまさに私が降りなければならない場所だと催促するようだ。 このままぐずぐずしていたら降りる機会を逃してどこかもっと変なところに行きそうだ。


私が急いで立ち上がって列車を小走りで抜けると、列車はドアを閉めてまたどこかにさっと去ってしまう。


「はぁ…」ため息が出る。


「ここは…」駅に設置された時計に書かれた日付を確認して何か変な気がするが、このままじっとしているからといって答えが出るわけでもない。 いっそ動いたほうがいいと思う。


駅から出ると、華やかな桜の香りが私を包み込む。 びっしりとそびえている灰色のコンクリート建物の代わりに、さわやかな日差しが降り注ぐ広々とした風景が目を引く。 まるで夢のような光景にそわそわする。 空虚な心の片隅にピンク色の生気が回ると慰められるようだ。 力を得る私は記憶をたどって歩く。 道の片隅に流れる川に沿ってゆっくり駅から遠ざかる。


分かれ道で花の香りがもう少し強い方に惹かれる。 路地に入ると懐かしいにおいが鼻をつく。 何かに取り憑かれたようにもっと深く入って、ある家の前に立つ。 ところどころペンキがはがれた鉄門から歳月の跡が感じられる。 一握りにも満たない土から根を下ろし、自然に育った雑草が迎えてくれる。 雨と風で塀も削られて美しさが一層増す。


慣れに磁石のように引かれて家の前に立っていて、こっそりドアを押してみる。 さびた鉄の音とともにするすると開く。


庭の真ん中に立ったまま周辺を見回して、どこからか吹いてきた花風に目覚める。 このようにぼんやりしていると変な人に追い込まれ警察署に捕まりそうだ。


懐かしい場所から抜け出そうと振り向くと、ある少女が私をじっと見つめている。


「えっと…」


「どうしたんですか?」


「あ、ごめん…」


「謝罪ではなく理由が欲しいのですが?」


「そ…何て言えばいいんだろう… 何かに惹かれたというか?」


「もしかして、何に惹かれたのか教えていただけますか?」


「だから…」 慌てずにはいられない。 望む答えがあるようなのに本音を読むことはできないので、下手に何とも言えない。 知らないふりをした方がかえってましだ。 無駄な推測は雰囲気だけが変にするだけだ。


「特にありませんか?」


「ないよね…」


「うーん…」


「それではここにいらっしゃった理由は一体何ですか?」


「それもよく分からないけど、ただ好きなように歩いただけなのに、ちょうどここに来ていたんだ。」


「それでは、裏山に登ってみたらどうですか? 何か思いつくことがあるかもしれません。」


「そう。」 呆れるが、うっかり提案を承諾する。 なぜ彼女の言うことに従わなければならないのか分からないが、何か答えを得られるという期待が生じる。 漠然とした流れの中で目的が生じたわけだ。


家を出てすぐ町の裏山に向かう。


記憶を一度たどることにする。 このように漠然とした私に方向を提示してくれたその少女が少しありがたいだけだ。


曲がった道に沿って頂上まで登ってみるが、やはり何もない。 村を見下ろすことができるだけだ。


無駄な期待のために、落胆してきて山を降りてくる。行き場がなくて下した決定だったが、騙された気持ちがして気まずいのはしょうがない。


一応その家に帰ることにする。 何か思い浮かぶ考えがあるのか問い詰めることは明らかだが、何もないという話をするしかない。 無駄足ばかりしたようだと率直に言ったほうがよさそうだ。


その時、街角に隠れて反対側をじっと見る一人の少年を発見する。 どういうことなのか気になって少年に声をかけてみることにする。


「あの…」


その少年はびっくりして道端をちらりと見る。


私も彼の視線が行く方向についていくと、そこにその少女がいる。


私はその音に怯えた少女がこちらに首を向けるのに気づく。 瞬間的に彼女と目が合ったような気もする。 少年は再び角に隠れて、私の腕をつかんで強く引き寄せる。


「シッ…」


「む… どうしたの?」


「そこでそのように話しかけたらどうするんですか?」


「だめな理由でもあったの?」


「それは…」彼は答えるのをためらう。 どうやら自分がここに隠れて少女を見ているという事実をばれたくなかったようだ。


だんだん大きくなる足音が聞こえる。 少女が近づいているようだ。


「しーい…」彼もやはり足音に気づいたのか路地から素早く抜け出す。 私もどうしたらいいか分からず、足をバタバタさせて彼の後を追う。


いざ家の中に入ってくると、ここに来ようとここまで来たのか疑問に思う。 それが理由なら、ここでこのような漠然とした惹かれの根拠も見つけられると確信する。


「危うく見つかるところだったじゃないですか!」


「見つかるなんて、何を? その女の子に何か悪いことがあったの?」


「いいえ…そんなことは特にないんですが…」


「じゃあ、どうしてそこに隠れていたの?」


彼は急いで言葉を変えようとしている。


「まあ、それにしてもどうだったんですか?」


「何がどうだったの?」


「裏山に登って何か感じたことはありましたか?」


「いや、何も。」


「あ…そうですか?」


「そうだよ。無駄骨だけやったんだ」


「私が裏山に行ったことをどうやって知っているの?」


「それは…」


「盗み聞きしたの?」


「はい。さっきここで話しているのを聞きました。」


「ほう…」


「これは先に私の家に許可もなく入ってきたからです!」


「あ…ごめんね。 思わず… もう…」


「とにかく残念になりましたね。」


「それでは、出発の時間だね。」


「あの…」


「何で?」


「もしどこか他に行く所がなければ、ここで何日過ごしてもいいですよ。」


「あ、そうなの?」


「はい。」


「それでは…お世話になるよ。」


その日の夜、空に彩られた星を眺めながら、私がここで何をすればいいのかじっくり考えてみる。 カレンダーに書かれた日付は確かに古い思い出のあの時代を指している。 本当に過去に来たのなら、その理由が何なのか考えてみるのが順序が正しいと思う。 これを知ってこそ、元の場所に戻る方法も分かると思う。 単なるタイムトラベルだと思うには、何かに追われ続けるような気がする。 なぜよりによってこの時期に来たのか疑問に思わざるを得ない。


そのように一晩が過ぎて翌朝、少年が学校に行こうと足を急ぐ。


「ちょっと待って。」


「え?」


「今日雨が降りそうだから傘を持って行った方がいいと思う。」


「いい天気。」


「何か雨が降りそう。 受け取って。気遣えば役に立つよ」 私は片方の隅から傘を取り出して少年に渡す。


「あ、結構です。 そのまま行きます。 持ち歩くのが面倒です。」


「持って行って。雨が降るよ。 私の言うことを聞いたほうがいいと思う。」


彼は傘を受け入れないまま門を出る。


少年が学校から帰ってくるまで待っているだけでは退屈で時間ももったいない。 いっそ外に出て何かしたほうがいいと思う。 ただうろついているだけでも、また何の所得もなくても大丈夫だ。 確かにここに来た目的があるようだが、適当な答えはない。 村をぶらぶらしていて、ふと駅にまた行ってみたくなる。 努めて余裕を持とうとしても、流れる時間の前で焦るしかない。 今やっていることが現実逃避に過ぎないということを知りながらも、どうしても足を止められない。 責任を負わなければならない理由さえ分からない状況で、私自身が下した決定を無責任だと自ら罵倒するのがむしろ愚かなことだ。


締め付ける罪悪感を無視したまま列車に乗り込み、どこかに旅立つことを期待する。


やはりここに来る時のように列車のドアが閉まるからすぐ目を閉じてしまう。


どれだけ時間が経ったかさえ感じられないときに列車が止まる。


やはり期待感をいっぱい抱いたまま列車から降りるが、結局ここに戻っただけだ。


虚しい結果だ。


努めて楽な気持ちでその家を出たのもこのように一人で失望する状況を作らないようにしたものだったが、結局失敗した。


今これがどんな状況なのかさえ分からず、ただ愚かな期待をした自分を恨むだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る