第6話 : 計画 [3]

「それで!みんな文化祭の準備はうまくいっているのかな? 本当に近づいてる! その日が!」祐希は会話のテーマを変えようとする。


「実は私たちにできることは待つことしかないじゃない?」桃香が淡々とした口調で答える。


「そうだ!そうだ! すべてはこの二人次第だよ」紗耶香も相槌を打ちながら弘と栞奈を抱き締める。


「私たちも楽しみにしているよ! こうなった以上隠すこともないでしょう?」紗耶香は話を続けながら二人に目を通す。


「それでもう文化祭があまり残っていないのに時間通りに完成できそう?」祐希はやはり淡々とした口調で尋ねる。


「はい!」


「はい!」


二人同時に自信を持って答える。


「ところで本当に私たち二人の中で一人だけなるんですか?」弘は二人の中で一人が離れなければならないというのが残念なだけだ。 できれば、栞奈と一緒に部活動をしたい。


「あ!本当に難しい質問だけ選んでやるんだよ~ 何をそんなに悩むの? イチゴケーキも食べたいし、チョコレートケーキも食べたければ、両方とも食べたら…」 紗耶香は茶目っ気の混じった口調で元気よく答える。


「そうだよ。2人のうち1人だけなんだ。」桃香は冷たく答える。


「桃香?」紗耶香は桃香をじっと見つめる。


「これは最初から立てた規則だよ。」桃香は紗耶香の視線を無視して話を続ける。


「誰が勝っても2人とも入ってくるのなら、勝負という意味がないじゃない? そもそも意欲的にする必要がないじゃない? 気持ちは分かるけど、一度考えてみて。 今になって二人とも選ぶというのは話にならない。」



「君たち二人の間で優劣をつける必要もないし、勝者を決める必要もないと思うかもしれない。」


「しかし、これは厳然たる賭けだ。 勝負で勝者がいないというのは話にならないということだ。」


「単純に君たち二人の間で賭け事じゃない。 私と祐希の間に賭けでもあるよね。 私たちも考えてあげないと。 これは私たちの自尊心がかかった問題だ。 これのために君たちを選んだだけで、今まで来たんだ。 少なくとも私たち二人の間で勝者を決める必要はあるということだよ。 今さら残念だからといって変わることは何もない。」


「結果を待っているのはあなたたちだけではない。 私たちも同じだよ。 だから結果が出るまでわずか数週間しか残っていないのに、そんな気の抜けたことは言わないでほしい。 最後まで自分の役割に最善を尽くしてほしい。 今までそうだったように。 結果を待つ私たちに失望感を与えないためにもね。 これは礼儀上の問題だ。」


「おお……今日はこれくらいにして帰ろうか? もしもっと言いたいことがある?」祐希は雰囲気が突然おかしくなったことに気づき、急いで対話を終えようとする。


「いいえ、特にありません。」 弘もやはりその雰囲気を感じてはなぜか胸の片隅が不便になる。


彼らは何も言わずに校門を出てばらばらになる。


桃香は家の方向が同じ紗耶香と一緒に下校する。


紗耶香が先に桃香に言い出す。


「おぉ!モモ。」 紗耶香は桃香のわき腹を突く。


「急にどうしたの?」桃香は紗耶香に目を向ける。


「今日あなたの新しい姿を見た!」


「何が? 褒めるの?」その時はただ吐いた言葉なのに、実際に言ってみると自分がそうしたというのが恥ずかしい。


「弘と栞奈に言った言葉。 先輩として迫力溢れる姿! はっきり見守っていたと!」


「あ… まあ、ただ気に入らなかったんだ 桃香は努めて平気なふりをする。」


「それで!どう?こうして二人のことを知ったと思う? さっき見たら2人とも受け入れたいって言ってたけど。」桃香は会話のテーマを変えようとしている。 紗耶香にこんなことを言われるつもりはなかった。


「そうだな……まだよくわからない。 本当に二人とも私の心に合う人だったらいいな。 そうしたいんだけど、正直まだよく分からない。 特に二人の中で一人が。 何かチョコレートケーキが… 欲しいのはダークチョコレートなんだけど、これがダークチョコレートなのかホワイトチョコレートなのか分からないっていうか。 何かチョコレートはチョコレートではあるんだけど。」


「それはどういうこと?」


「私もよく分からない。 後になればわかるだろう。 未来が現在にとどまる私たちを待っていると! 少し鳥肌が立つ言葉だったかな?」


「まあ… とにかく。」 桃香は紗耶香の言葉をきっぱりと切り捨て、自分が言いたいことを言おうとする。 今この瞬間が真心を伝える最も良い機会だと思う。


「私はこうしてよかったと思う。 こうやって全部明らかになってから正直に言うのもちょっとおかしいんだけど… 最初はただ勝ちたくてそうだったのは事実だ。 ただ私が正しいということを祐希に認めさせる唯一の方法だと思ったから敗北を認めることができないようだった。 良心に少し呵責を感じたのも事実である。 ずるいと言っても、悪意的だと言っても私は言うことがない。 認めるよ。」


「そうなんだ。」


「しかし、今は少し違う。 どんな結果が出ても受け入れられると思う。 これは君のおかげだよ。 ありがとう。」


「違うの?」紗耶香は首をかしげる。


「そう、違う。 一度見たい。 その可能性ということだよ。」桃香も自分がどうしてこうすることにしたのか打ち明ける人が必要だったところだった。


いつの間にか空は夕焼けに染まっていて、二人で暮れる日を眺めている。


「私が勝利欲だけにとらわれていたら、弘を祐希の味方にするように紹介してあげたという事実を打ち明けもしなかっただろう。 じっくり考えてみて。」桃香は正直、自分がひどいことをしたという気もするが、漠然と悪党に追い立てられるようで気に入らない。


「そうだね… 聞いてみればその話も一理あるね。」 あえてこのように釈明しようとする理由があるだろう。 何を言おうとしているのか一応聞いてみることにする。


「そう思うでしょ? 本当にこれが事実なら、あえて私が打ち明ける理由がないじゃない?」


「そうだね。」


紗耶香は急にそんなことを言われると恥ずかしくて何と言えばいいかわからない。


「ただ自分がしたことを合理化しようと何かもっともらしい意味を付与すると考えてもいい。 私は構わない。 少なくとも私は本気だよ。 君の話を聞いてから、そして弘と栞奈が交わす会話を聞いてから、私も弘と栞奈がどんな子たちなのか本当に知りたくなったってことだよ。 新入部員に対する祐希の理想をよく見せる小説を書く人がまさに弘だと確信してからは、その考えが本当に他の人に伝えられるのか気になった。」


「そうなんだ…」


「お前も正直、2人の中で誰がもっと多くの人の心をつかむのか気にならない? もしかしたら、この賭けに私と祐希の価値観の違いが投影されているのが事実かもしれない。 紗耶香、賭けを始めさせてくれたのはお前だけど、いざ考えてみれば祐希の味方に弘を送り、俺の味方に栞奈をすることで俺たちの意見の相違を投票で解決する賭けにしたのは俺だからね。 どういうことか理解できる?」


紗耶香は桃香の率直な告白に何を言えばいいのか分からなくて聞くだけだ。


「私はただ結果がとても楽しみだ。」


もう皆がこの因果関係の全てを知ってしまった状況で残ったのは栞奈と弘が書く小説と投票で決まる結果だけだ。


弘と栞奈もやはりその事実を知っているのでペンを取り出して心が言う言葉を盛り込もうとする。


その日以来、いつもと変わらない平凡な日常が流れていった。 皆が無感覚に受け入れる毎日を正確に計算するのは自然だけだった。 似たり寄ったりの毎日が繰り返され、一週間になり、一ヶ月になっては桜を散らせ、木に濃い緑色の葉が芽生えた。 春が去り夏が来るという話だ。 自然は時が来る度にそのような顕著な指標を見せることで、まるで同じ区間をうろついているだけの私たちの人生も時間とともに進み続けていることを知らせてくれる。 これは人生というバスに乗ったままではなかなか感じられない変化と進展を知らせるために、路線の部分ごとに置かれた一種の停留所と称する価値がある。 そのような意味で、私たちがすれ違う道に止まったバス停を偶然発見し、いつのまにかこのように遠い距離を来たという事実にびっくりするのは、もしかしたら極めて当然なのかもしれない。


雪が舞う晩冬に文芸部室で行った口論から始まった賭けは、桜が舞う時期にしばらく盛り上がり、その桜が散る初夏になって結末の気配が見える。


まさに今日の文化祭当日のことだ。


この日もやはり太陽が東から昇る。


弘がその日から数週間が経ったことが分かる証は、その時満開した桜が散り、木の葉が青々としていたという事実、そしてその時から書いた小説がいつのまにか数十ページものものになっているという事実だ。


彼は学校に向かう。


学校は、文化祭でかなり高調している。華麗に装飾された外見のみでなく、学生が漂う雰囲気を通じてまともに感じることができる。


これまで注ぎ込んだ努力の結果が今日出るという事実が実感され、心構えを新たにせざるを得ない。


弘は教室に着くと栞奈が歓迎してくれる。


「おはよう!」


「うん…そうだよ。 早く来たね」弘は栞奈が初日に遅刻したのを思い出す。 その時小説を渡し、これがまさにスタート地点だった。


「もちろん!当然だよ。 今日はどんな日なのに寝坊できるの?」


「投票の日だよ。」


「そうだね。」


「自信ある?」栞奈はこっそり弘を探る。


「うーん… 頑張っていると言ったが、みんな喜ぶかは分からない。」実は誰かの興味を引くのは弘の個人的な努力とは別の問題だ。 これは弘が好きなようにできることではない。


「そう?」栞奈の声は自信に満ちている。


「よし、とりあえず一緒に行ってみよう。」 栞奈は弘の腕をつかんで強く引っ張る。


彼らが部屋に着くと、裕樹は明るい表情で挨拶をする。


「おはよう!」このように5人が全員集まるのはその日以来初めてのことだ。


「待っていたよ。」 桃香もやはり弘と栞奈を歓迎してくれる。


「まあ…とにかく、今日結果が出るじゃないか? 2人のうち1人が落ちたら残念な気持ちにならざるを得ないだろう。 ところで… それが結果なら、私たちは受け入れなければならないじゃないか? そうだね。」 桃香もやはり弘と栞奈がもう固く決心してきたと断言する。


二人は何の返事もせずじっと聞いてばかりいる。


しばらくして、短い案内とともに本格的に文化祭が始まり、文芸部の手抜きで多くの人が集まって賑わう。


幸い、多くの人が2人の作品に関心を持ってくれて寂しいほどがらんとしているステッカーの欄を心配する必要はなさそうだ。


紗耶香は二人の真心と個性が込められた作品を持って騒々しい部室を抜け出してすぐ向かうのは図書館だ。


片隅に定着して集中できると思うと、どうしても期待せざるを得ない。

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