第33話

ベルは固く決心して鎌を取り出し,空に高く舞い上がる。


ベルが全力で鎌を振り回すと、すぐにデミスが鎌を抜いて止める。


2人のエーテルが猛烈にぶつかり,四方に散らばる。


「確かに成長したね。 長年の師としてその努力はほめてやる。 アイギスがこの光景を見たら、果たして何と言うか気にならない?」


デミスと鎌を突き合わせているベルの手がぶる震える。


「黙れ。」


「でも!いたずらはここまでだ。」


デミスが気合を入れて鎌を大きく振り回すと無気力にベルが崩れる。


デミスが余裕のある笑みを浮かべながら苦痛に苦しむベルに近づく。


「神の力を振り回す英雄を直接相手にしてみた感想をちょっと聞きたいな。」


ベルは冷笑的に笑いながらゆっくりと立ち上がる。


「感想?何が神の力で、誰が英雄だというのかさっぱり分からない。」


「何?」


「まあ、そんなことはどうでもいいよ。 私は単純で無知で英雄の深い意味が込められた説教などは全く理解できないんだ。 好きなように考えて。 好きなように。」


「死ぬのは怖くて虚勢を張りたいのか? そうじゃなければまだわかっていないのか?」


デミスが眉をひそめる。


「そうだね、果たして何だろう? 君こそこの場で私の手に死ぬのが怖くない? 実は、あなたの目標が私の手に挫折するのではないかと怖くないか?」


「今言いたいことがせいぜいそれか? 神の権能を振るう今の私が、なぜお前を恐れるべきなのか?」


「私は最初から最後まで君の計画通りに動くやつじゃなかったからだ。」


「え?」


「私はお前が準備したすべての試練と罠を克服した。 お前の同僚はみんな私の手に死んで、今はあなた一人だけ残ったでしょう?」


「何のしどろもどろを言っているのか分からないね。」


「もう盾にする者もいないし、逃げ場もない。」


「…」


「何度も座り込んでもお前の首を狙う。 どんな手を使うにせよ、まさに君を斬るその瞬間までね! これこそリッパーとしての私の最後の任務。」


ベルが鎌を握りしめ、高く飛び上がってデミスに向かって叩きつける。


ベルは再びデミスと鎌を突き合わせて叫ぶ。


「1回じゃだめなら、2回じゃだめなら、3回やればいいんだよ!」


ベルの透明なエーテルがさらに強くなり,デミスを少しずつ押し付ける。


「そして断言しますが! 今の私は絶対負けない! この戦い、私が絶対勝つ。」


デミスは気持ち悪いほどきれいなベルのエーテルに負担を感じてやっと振り払う。


「自分の身の程も知らずにふるうほらを聞くのも疲れるね。 これで終わらせてやる。」


デミスは神経を集中させ,鎌に虹色のエーテルを集める。


ベルもやはりこの攻撃で終わると直感してはそっと目を閉じて切実な祈りを捧げると、彼女の祈りが皆の記憶を目覚めさせ、同時に現時代に向けた皆の切実な願いがベルに伝わる。


「響いてる… 耳元に… みんなの願いが。」


願いに反応してベルの透明なエーテルがさらに明るい光を放つと、デミスの虹のエーテルが不安定に揺れる。


デミスが鎌を持ち上げてベルに飛びつくと、ベルもやはり切実な祈りを込めて大きく鎌を振る。


ベルとデミスの鎌がぶつかる時、神殿全体をきらびやかな光で満たす。


地面が割れ、空が崩れるような衝撃で四方が大きく鳴り、まもなく光の中心から誰かが満身創痍になった状態で飛び出す。


まさにデミスだ。


彼は大声を出しながら地面を転がる。 よろめきながら立ち上がろうとするが、すぐ無気力に崩れる。 一目で見ても虹のエーテルが消えたみすぼらしい姿であるうえに、本人が戦う意志さえ折れたのか、自分の鎌を拾おうとする考えさえしない。


一方、ベルは体から輝く虹のエーテルが実感できないように戸惑った表情で眺める。


「これは。」


デミスもやはり自分が敗北者と烙印を押された状況が信じられないのか躊躇しながら自嘲的なため息をつく。


「足りないことは何か。 一体何が違ったというのか? 七つのクリスタルの力を全部持った私がどうしてこんなに… この世は落ち着かなければならない。 これが皆が望んだものではなかったのか! 世の中がそうなるべきではないのか!」


ベルがデミスの嘆きを聞いて、デミスの凄惨な姿を眺めながら眉をひそめる。


「まだ息がついているとは…」


デミスは突然虚しい笑みを浮かべ,またばたばたと倒れる。


「こんなに…これで終わりというのか…」


ベルが鎌を片手にしっかりと握ったままゆっくり近づいてくれる。


デミスはベルの顔をちらりと上げ,苦笑いする。


「本当に惨めだね。」


「そうだね。これで本当に終わりなのか疑わしいほどだよ。」


「何だろう?敗者をからかうってことかな? 本当に面目ないね… 君にとっても、アイギスにとっても、清治一族にとっても、この世においても…」


「いや、最後の挨拶をしに来たんだ。」


「最後の挨拶か… 私をもっと惨めにするということだな。」


ベルは何の表情も変化なくデミスに向かって鎌を持ち上げるが、デミスはやはりこのような反応を予想したかのように話し続ける。


「あなたと鎌を突き合わせて、あなたの透明なエーテルが私の虹のエーテルを圧倒したときに感じた。 私はあなたを怒りに捕らえられた復讐鬼にしようとしたが、その試練を乗り越えたあなたは私が相手にできない存在になったということを。 本当に悔しいね。 これを今になって分かるなんて… そしてありがたいね。 最後に悟らせてくれて。」


ベルが鎌を振り回す前に、デミスが目をジャガイモの煙のようにエーテルで消える。


ベルは警戒を緩め,鎌を下ろす。


ちょうどその時、カディヤが再び目を覚ます。


ベルはカディヤに駆けつけ,心配そうな表情でカディヤの顔を撫でる。


「カーディ!大丈夫?」


カディヤはベルの手を握りしめ,にっこり笑う。


「ベル様… 私は大丈夫です。」


ベルはようやく安堵のため息をつき,カディヤを抱きしめる。


「よかった。」


カディヤは咳払いをしながらベルの背中を叩く。


「ケッ…ケッ… ベル様のせいで死にそうです… 息が詰まるんです…」


ベルは気にせず,さらに抱き締め,喜びの涙を流す。


「もう全部終わったよ。 全部。」


ベルガ·カディヤと幸せを分かち合っていたところ、すぐ後ろでそっとエルマが近づいてくる。


ベルは気配を感じて起き上がり,エルマをにらみながら鎌を振り上げる。


「…」


「…」


ベルとエルマの間に気まずい静寂がしばらく流れる。


ベルは大きなため息をつき,鎌を地面に放り投げる。


「私が今あなたに鎌を立てても何の意味もないじゃない? そうでしょ?エルマ、もう正直に 言ってもいいんじゃないの? 結局、君は一体何だっけ? あなたが単純にデミスのためにこんなことをしたとは思わない。 確かに違う理由があるんだよね? だよね?」


「すでに正直に言ったじゃないですか。今更言うのがちょっと恥ずかしいです。私は神の意思に従う存在。私は確かに嘘を一言も混ぜていないとしました。」


「これが君の言った目的だということ?」


「はい、そのとおりです。」


「どうしてこんなやり方を選んだの?」


「人間の感情とは本当に不思議でした。 統制しようとするほど暴れ、手なずけようとするほど反抗するのでした。 人間の感情はいつか必ず世の中に危機をもたらすと予想されましたが、同時にその危機とは人間の感情ほど予測しにくいものでもありました。 アイギスは未来の主人に決定を任せたいと思っていましたが、本当にこの強力な力にふさわしい賢明な選択をする主人になるのは簡単なことではありませんでした。 真の主人が神の力を受け継ぐこと、そしてあなたを真の主人として覚醒させることが私の役目でした。」


「本当に私を試したんだね。 そして、その本当の意味を実現するために真実を隠さなければならなかったということだ。」


「私が言ったでしょう? いつか必ず理解する日が来るだろう。」


ベルもその日、神殿でアイギスが同じことを言ったのを思い出す。


「…」


「ベル様は立派に課題を果たしました。 アイギスもきっと喜ぶでしょう。 その方の選択は確かに未来を生きていく人に与えられる試練でしたが、それを克服したこの世界は喜んでその価値を享受する資格があると言えます。」


「もう選ぶ時間です。 虹のエーテルがベル様をご主人として受け入れた以上、ベル様の決定が神様の決定です。 リッパー一族の長年の念願であるエーテルの平和が、今ベル様の手にかかっています。」


「決定はもう下したよ。 鎌が重すぎて、少し置いて休まなければならないようだ。 前に言ったことあるじゃない? 覚えてる?今がまさにその瞬間だよ。 確信できる。」


「それは…」


「最初から私がこの旅行を始めてここまで来たのも極めて個人的で利己的な欲のためだった。 今さら世の中を救おうとしたということは、私がしてきたことを正当化する卑怯な言い訳に過ぎない。 ただ復讐のために誰かの大切な父親を殺し、家族の尊い望みを破り、ある村の切実な祈りを込めた神を殺し、私の唯一の友人を殺した。 これまでしたことに対する許しを得ようとする選択だ。 こうしたからといってすでに犯したことを元に戻すことができるわけではないが、このようにでも適当な罪の代価を払うのが楽だと思う。 これもやはり私が下す選択だし、ただ最後までやりたいようにするだけだよ。 私はこうしてこそやっと心がほぐれる頑固者だから。」


「ベル様…本当に後悔はないですか?」


「命がけで戦って得た願いなのに、本当に虚しい願いだよね? 私も知ってる。でも後悔はない。 リッパーとして、そしてセージ家の一人としてすべき唯一のことは、感情に染まった反逆者を処断することであり、もう終わっただけだ。 このまま私がこの世の最後の反逆者として残るなら、思い残すことはない。 悲しむ必要もない。 デミスを言い訳に後回しにして、いざ本当に去る時になって、格好つけようとする言葉だから、ただそうだと思って。 今は疲れて思う存分寝たい。」


「ベル様…」


「自分で深い眠りにつくことを選ぶことで、虹のエーテルは直接封印する。 この強力な力を望む他の人が現れないように守ることが自分自身に与える罰だ。 未来をどうするかを選択するのはこの世の主人として生きていく人間たちになるだろう。 私はこの戦いを終えて新しい出発のための機会を開いてくれる責任があるということだよ。」


「やっぱりそうですね。 このような神の権能を得ても本質がベル様であることは変わらないということですね。 最初から最後までベル様はただベル様らしい決断をするだけです。」


「私に何を望んでいたの?」


ベルがにやりと笑う。


「特に何かを望んだわけではありません。 ただどこにいようが、そして何をしようが、本当に一途な方だということを改めて悟っただけ。」


「ふん… それが今別れる人に最後の挨拶として言える言葉だと思う?」


「こんな一言まで本当にベル様らしいと思います。」


「これがまさに私がこの世で望む最後の願いだ。」


「ベル様の気持ちは本当によく分かりました。」


「じゃあ、迷う必要はないじゃない? 恥ずかしいだけだよ! 早く行こう!」


長い旅を終えたベルは自信のある足取りで直接出発点に戻る。


「結局、ここに戻ってきたね。 エルマ、お願い。 分かるよね?」


「はい。」


ベルは鎌を下ろして自分が眠っている壇上に上がると楽な姿勢で横になる。


エルマは直ちに拘束魔法を詠唱し、壇上周辺で召喚された魔法陣から現れた鎖がベルの体を巻きつける。


ベルもやはり自分の体に流れるエーテルが拘束魔法の影響で徐々に止まるのが感じられるので、寝る時間だということを実感できる。


次第に重くなるまぶたをあえて拒否しようとしない。 慣れた感じでむしろ心が楽になり、ただ緊張をほぐして自然に受け入れるだけだ。


「本当に終わったね… 久しぶりだね。この朦朧とした気分。 恋しかった。」

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最後の反逆者 @Song1

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