第35話 SNSって時に疲れませんか?

さとこは疲れていた。

しかしその理由がはっきりわからず、モヤモヤした日々を過ごしていた。

別に残業など働き過ぎているわけでもなく、激しい運動など特に疲れるようなことをしているわけでもない。


ある日、その謎が解けた。

人間関係に疲れていたのだ。

それはリアルな世界のではない。

SNSの中でだ。


非常勤というのは、大抵あれやこれや雑用を押しつけられるものだ。

学校の宣伝のためにSNSを開設することとなり、その担当がさとこにまわってきた。

「大崎先生くらい若かったらこういうの得意でしょう?」

年配の教師達はそういって逃げようとする。


やれやれ…


正直面倒だと思いながらも、写真や文章を考えるのは嫌いじゃない。

むしろ任せてもらえるほうが、中途半端に口出しされるよりもやりやすい。


老後同盟グループラインで

『忍と同じく私も学校のSNS担当にされちゃったよー』

なんてメッセージを入れ、


ファイト!

一緒にがんばろう


なんてスタンプが返ってきて励まされる。


根がまじめなだけに、家に帰ったあともいろんなSNSをみて、投稿内容を学んだり情報を吸収したりした。

最初は楽しかった。

フォロワー数が増えるのも、メッセージのやりとりをするのも。

しかし時折、心がざわつくのだ。

自分と同じような内容なのに、他の学校の投稿が注目されて数多く反応されたり、ネットニュースで話題になったりすると、嫉妬する気持ちが湧き上がる。

仕事の業務として行っているのに、担当者が自分だけだと私物化してしまい、その世界が自分のもののような錯覚をおぼえるからだろうか。

そしてわけのわからないことを言って悪意を込めた言い方で絡んできたり、誹謗中傷とまではいかなくても明らかに好意的ではなく、意地悪な書き込みをする人も出てきた。


他の先生に相談するも、

「アンチが出てくるなんて注目されてきた証拠ですよ。それか学校が気に入らなかった卒業生とかでしょう、ブロックして放おっておいたらいいですよ」

と人ごとのように軽くあしらわれた。


さとこの中では、学校の公式アカウントということで、感情的になってはいけないし対応に苦慮していた。

そんな中、

「最近SNS人気らしいですね、大崎先生。これからもよろしく頼みますよ。行事ごとの時は更新早めに頼みますネ」

校長や理事長からのプレッシャー。

気が抜けなかった。


一部の保護者からは

「うちの子より◯◯ちゃんのほうが目立ってるなんておかしい」

と文句を言われ、

学外行事の写真を載せると

「うちの家が写ってるから迷惑だ、削除しろ」

とクレームが来たり。

細部にまで気をつけてはいても、何かしら言われる日々。


用心深いさとこだから、誰か特定の児童だけ特別扱いしていることはないし、誰かの家だと特定されるような投稿はしていない。

言いがかりがほとんど。

そのひとつひとつに対応しているうちに

「疲れた…」

となってしまったのだ。

基本保護者のアカウントとは相互フォローもしている。

その投稿の中で繰り広げられる、キラキラ合戦。


家族で旅行に行きました!

パパからのすてきなプレゼント♪

息子が誕生日におてがみ書いてくれた〜


「もううんざり…」


昔はスマホもパソコンも普及していなかったから、

今みたいに盛んにSNSが行われていなかったし

こんなに情報過多になっていなかった。

知りたい情報があれば本屋や図書館で調べたり。

今はネットで検索すればすぐに何でも出てくるが、余計な情報も目にしやすい。

脳は常に刺激され、人間関係は画面の中で必要以上に繋がっている。


なんか


全部


投げ出したい時がある。



成功をアピールしてる人。


フォロワー数が多いのを自慢してる人。


リッチな暮らしを晒している人。


そんな人たちに嫉妬するってことは、


自分もそうなりたいって思ってるのかしら。



わからなくなる。


世間の、他人の物差しで生きていると。


いいねやコメントの数が


すべてではないのに。



私は何を求めているのだろう。


何を望んでいるのだろう。



………



恒例の、趣味のお寺での座禅瞑想。


ざわつく心よ、静まりたまえ。



ザワザワ…ザワザワ…


心が平静を取り戻すと、庭の笹の葉ずれの音がよく聞こえる。


風が、気持ちいい。



ピーチチ…



小鳥のさえずり。



ワタシの心情がどうであれ、世界は日々、美しい世界に包まれている。



とりあえず、スマホの電源を切ったら

気持ちがスッキリした。


SNSは現代に必須の大事なものであると同時に、

やりすぎたらメンタルを確実に破滅する諸刃の剣。


上手につきあっていくために、

疲れたら休んだらいい。


遮断して、意識を画面の中から

空の彼方へ。


いかなる時も、日は昇り風はそよぐ。


これが、普遍なこと。


どんなに世界が猛スピードで変化しても、

生きとし生ける者の真理はいつ何時も変わらない。


食べて、寝る。


シンプルにそれが土台。


映えるための食事、寝る間を削っての動画鑑賞や投稿。


それにお金や時間を費やすことに、持ちうるエネルギーのすべてを費やす人もいる。


それはそれで、その人の生き方だからいいでしょう。


だけど


自分がやってみてしんどくなったら、距離をおいていいのだ。

そして、やりたくなったらまたしたらいい。



スゥ~…


深い呼吸が、体内に入る。


ストレスを感じていると、呼吸が浅く息苦しくなる。


私の世界はネットの中ではなく、目に映るこの現実の世界だ。


もう、惑わされない。



SNS疲れを自認し、距離をおいたことで

心が軽くなったさとこさん。


例え仕事の業務の一環だとしても、

無理せず楽しくやれたらそれが一番ですね。


とりあえず休みの日は、

カラダもオフ、

スマホの電源もオフ。


解き放て、電波の鎖。


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