第28話 マウントという差別

世の中は平等ではない。

例え法律が男女平等を唱えようが、差別のない明るい未来を作りましょう、なんて広告が流れようが、見えない格差に人は苦しめられるものだ。


咲希や忍が仕事に打ちこんでいる中、さとこの心中はモヤモヤしていた。

PTAのまとめ役を担っているのだが、要は正規雇用の教員達は忙しさを理由に非正規のさとこに任せていた。

しかし保護者の中には、そんなさとこを軽視し話を聞かない者もいた。

中でもボス的な存在のPTA会長は何かにつけてマウントをとり、さとこが話をまとめても最終的に

「大崎先生のようなパートの先生じゃらちが明かないので、クラス担任の先生を呼んできて」

と他の保護者の前で見下す始末。


何度屈辱を味わい、涙を飲んだことか。

悔しくて眠れないこともあった。

けれど教師という立場上、感情を抑え理性的に接するほかなかった。

教師といえど、人間なのにね。

何を言われても冷静になんて本音ではいられない。


学校側としてもこのボスママは卒業生で、家が裕福なこともあり多額の寄付金を納めていることから逆らえず、言われるがまま結局ベテランの教師にまとめさせるため、さとこの立場はなく面目丸つぶれだ。

それならその先生をPTA担当にしてくれと校長に頼んでも、

「担任もってる先生は忙しいから、フォローだけで勘弁して」

と取り合ってもらえない。

同じ教職員でも、正規と非正規では待遇でも違う。

賞与にしろ後の退職金にしても、大きく差が出る。

職場内でも肩身は狭く、何の権限もない。

自主的に行動したり意見を述べる機会も少なく、ただ言われたことをこなすだけ。


望んで非正規雇用を選んでるわけではない。

少子化で子供の数も減っている昨今、枠が狭くやりたい仕事をするためにはこれしかなかった。

能力ややる気があっても、空きがなければ入れない。


ただそれだけなのに


諦めているわけでもなく、毎年正規雇用の募集を探し、応募しチャレンジしている。

けれど優先的に採用になるのは経験豊富なベテランか、大学を出たばかりの極端に若い人材。

中堅といえば聞こえはいいが、中途半端な40歳。

産休の代理や欠員対応などに重宝されるのみ。


どんなに真面目に働いても、パート勤務というだけで社会的信頼が下がる。

地位、収入、職種、性別。世界は形のない見えないもので人を区別し縛る。

高度成長を遂げた現代日本ですら、大昔から残る価値観、風習に左右されがちだ。

その渦中でもがき、あがき、自分だけのアイデンティティを模索する日々。

同僚や先輩教師達からは、

「大崎先生は見た目も若いし独身だからなめられるんですよ。保護者の中には子供いないくせに児童心理の何がわかるとか思ってる人もいますからね。まぁそういう人は子供産んだ自分はえらいだなんて考えてるんでしょうけどね」

そんななぐさめなのか忠告なのかわからないアドバイスをくれる者もいた。

「そりゃあ確かに子育て経験はないですけど…。でもだからこそ私は保護者さん達にリスペクトもしてるし、自分の知らないことの人生の先輩ですから、敬意を払って接してるつもりです。目の敵にされるようなことはしてないつもりですよ」

「こちらがそういうスタンスでも、相手に伝わるとは限りませんからね。むしろ何いい子ぶってんだって反発されかねませんよ。世の中の大半は大崎先生みたいな清い心じゃないってことですよ」


そういうものか


人はなぜ差別するのだろう

道徳の時間、そんなテーマで5年生に作文を書いてもらった事がある。

いろんな意見が出た。

そのほうが都合がいい人がいるから、とか

人間の心は弱いから、自分より弱い人がいることで安心できるから、とか。

大人顔負けの回答を出す子もいた。


マウントするあの保護者も、なぜ他者を見下し上にのし上がろうとするのか。

考えてもその人の気持ちなんて理解できるものでもなく。

PTAの会議がある度に、気が重くなる。


常日頃子供たちをも見守っていると、幼少期からマウント差別は始まっていることに気づく。

ガキ大将は頂点へ登りつめ、自分より弱い者を踏み倒していく。

それがエスカレートするとひいてはいじめにつながるわけだが。


この縮図は変わらない。

日本でいえば士農工商穢多非人、インドでならカースト制度。

人が人である限り、マウントの構図や差別は未来永劫あり続けるのか。

そんなことを考えてしまう。


だけど


人間我慢の限界というものがある。

さとこはこれ以上、黙っていられなかった。

いつまでも年下のボスママの言いなりになんてなれない。

庶民は過去何度もお上に立ち向かった。

一向一揆のように、虐げられつづけた者は奮起し反旗を翻る。


逆らってクビになっても構わない

それならせめて、言いたいこと言って辞めよう


覚悟を決めると女は何事にも強いもの。

「次の総会が楽しみだわー!!オーホッホッ」


さとこさん、疲れすぎてか壊れ気味です。


お仕事だけでも大変なのに、マウントとられるとか人間関係で苦労されてる皆様、

本当に日々おつかれさまです。

どうかご自愛ください。






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