第19話 最初からあきらめたほうが傷つかずにすむから

いつからだろう

期待することをやめたのは。


希望を持つことは、けっして悪いことではない。

未来に希望や目標を持つことで、進めることもある。


だけど、希望は叶わなかった時

絶望に変わる。

期待通りにならなかった時

落胆へと変わる。


最初から期待も希望も持たずにあきらめるのは、

これ以上傷つかないための防御策であり、

自衛の本能なのだ。


待つことに楽しみを見い出せるのは

学研の教材くらいか。


まだかなまだかな〜

学研の〜オバサンまだかな〜

というCMの歌。

(どれだけの人がご存知でしょうか…)


もしくは懸賞などが当たって届くまでの間。


いい知らせ、いいものが届くのがわかっているなら

これほど楽しみなことはない。


合否とか結果がわからないこと

相手の返事

良いか悪いか

Good or bad


良いことを期待してダメだった時のショックは大きい。


どうせダメだろう

ダメに違いない


そう考えておけば、

逆に良い結果だった場合はすこぶるうれしいし、

万が一ダメでも傷は最小限で済む。


老後同盟の3人も、

それぞれそんな想いを抱く岐路にたっていた。


さとこは、正規雇用の結果待ち。

咲希は応募した料理コンテストの結果。

忍は、社内のイベント企画プレゼン。


それぞれ解説しておこう。

さとこは毎年正規雇用を目指し、今勤めている学校だけでなく、他の学校にも申込みしている。

けれど少子化の現在年々枠は少なくなっており、正規どころか非正規でも求人は減っている実情。

さすがに実家暮らしとはいえ、無職では情けない。

そんなわけで毎年とりあえず職につけるなら、と自分を慰めている。


咲希はいつか自分の小料理屋を持ちたいとの夢を抱き、40歳の節目、思いきって全国規模の料理コンテストに応募した。

それは入賞すると試しに所定の地域のレンタルスペースを借りて一ヶ月出店できるもので、審査員とともにネットから一般ユーザーの投票でも決まるので、集計期間中は気になってつい自分の票数を確認してしまう今日この頃。


忍は外部の顧客を招いての社内プレゼン、各自ひとつはイベントの企画を出すこととなっており、自分は派遣だから関係ないと思っていたら、副社長の

「忍ちゃん、あなたも在籍期間はここの掟に従うのよ!」

鶴のひと声で、やむおえず参加することとなった。

採用されれば賞金の金一封が贈呈されるとのこと。

ボーナスのない派遣にとってこれはありがたい。


三人三様、結果の気になるチャレンジだ。


表向きは反応様々。咲希はなるだけいいこと考えてポジティブに、さとこはやるだけやったと腰を据え、忍は慣れないことに戸惑いを隠せないが、内心は皆初頭のような心境にある。


ダメもと、という言葉がある。


ダメで元々、気楽にやってみれば?

そんな感じか。


実際は気楽にダメもとできるのは、趣味程度のことだ。

人生かかってたり、高額の金品かかってたり、真剣に打ちこんでることなんて、そんな気楽にはできない。


40歳、世の中そんなにあまくないことを、過去の経験からいやというほどわかっている。


たくさん傷つき、涙し、乗り越えてきたからこそ、

覚えたのだ。

あきらめるという技を。


後先考えずに夢を追いかけるような若さは既に遠い過去。

何かにチャレンジするには何歳からでも遅すぎることはない、なんて声もちまたでは聞くけども、

実際は仕事の求人だって減るし、新しいことを始めるにはリスクが大きい。

新しい恋を始めるのも荷が重い。


それが40歳。


勇気を持って挑戦することも、

心のどこかで

きっと無理だろうと

あきらめながらやっている。


そのほうが都合がいいので。

自分への言い訳。


挑戦者より守りを固く。

アクセル踏みながらサイドブレーキかけてる。


そんな毎日です。

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