第18話 結婚願望の強い女と、結婚願望のない男

咲希は、老後同盟の友人達と出会った高校時代から結婚願望が強かった。

理由のひとつに、親との関係があまり良くなく早く家を出たいのもあった。

そしてギスギスした家庭を見て育ったため、反面温かい家庭にあこがれる気持ちもあった。


若い頃からつきあう男は結婚とは縁遠い人ばかり。

夢を追って経済力がないとか、以前のように既婚者だったとか。

現在の恋人柴田は、離婚歴のある独身。

年収1000万を超え、経済力も申し分ない。

しかしこの男、結婚願望がなかった。

お見合いでもないし、若い頃なら最初から結婚を意識してつきあうことは稀だろう。

けれど咲希は40歳。

恋愛=結婚を考えるお年頃。

子供を考えるなら尚更だが、子供は望まなくてもいいと考えていた。

理由としては育ってきた家庭環境と、身体の問題。

生理不順やホルモンバランスの乱れなど婦人科系の弱さもあり、子供はいなくても夫婦で楽しく暮らせていけるのが願いだった。


結婚を望む理由として他に、家事が好きなこともあった。

料理、掃除、洗濯、家のことをするのが楽しくてたまらない。

それなら家政婦でも家事代行でもやればという話だが、仕事でするのではなく、あくまで自分の家庭のためにすることが夢なのだ。

だから結婚して、専業主婦になることにあこがれている。


柴田に結婚願望がないことを、つきあい始めから知っていたわけではない。

おたがいを知っていくうちに、本音が垣間見えたのだ。


まず同棲について。

柴田が咲希のマンションにも度々訪れるようになり。

近くにおいしいお店が多く、少しローカルな地域で混雑がないところを気に入り(タイム・イズ・マネーで待つのが嫌いな人なので)

「この辺に住みたいなー、いい物件あったらマンション買おうかな」

と冗談交じりではあるが話が出たので、

「一緒に住みませんか?」

と思いきって尋ねたところ、返事は

「ひとりのほうが好きなんだ、家で仕事することも多いし、誰かいると気が散っちゃって」

とやんわり断られたこと。

この時はショックで自宅でひとり泣いた。


次にお泊り。

つきあって好きならば一晩中一緒に過ごしたい、と思うこともあるだろう。

咲希は柴田の部屋に泊まりにいき、

まだ帰りたくない、朝までいたい。

と言ったことがある。

普通の男ならば、彼女にそんなこと言われたらどうする?

そのまま朝まで過ごすのではないだろうか。

しかしこの男、

「他に人がいると寝れないんだ、ごめんね」

とあろうことか彼女の願いを退けた。


その頃から、この男は結婚願望がないんだと薄々感づき始めた。

咲希は迷った。

このまま付合っていていいんだろうか、と。

私は結婚したいけど、この人はその気がない。

こういう場合どちらかが折れなくちゃいけない。

今なら傷は浅いし、別れようかと考えたこともある。

結婚願望のある人を探したほうがいいかもしれないと、婚活アプリに登録もしてみた。

けれど、もしかしたら彼の気持ちが変わるかもしれない。

そう思わせるくらい、咲希に対する愛してるのラブコールは熱烈だった。

そのため、わずかな可能性を信じてみようと思い直したのだ。


しかしそんなんでよく旅行に行けるものだと思いませんか?

実際、離婚後一緒に旅行した恋人はいないらしい。

だけど咲希を溺愛するあまり、己のポリシーを曲げ出したのだ。

それもあって、もしかしたら将来私となら結婚してもいいと考えてくれるかも。

と淡い期待を抱く。


一度、ダイレクトに本人の口から出たことある本音。

「結婚してた時も、家に誰かいるのが嫌だけど我慢してた。で結局うまくいかずひとりになって、やっと本当の自分らしく生きれると感じた。だからわかったんだ、オレは結婚には向かない男だって。だから一生誰とも結婚する気はない。咲希のことは大好きだけど、何も結婚なんかしなくてもずっと仲良くつきあってたらいいよね」

笑顔でそう言われた時は、ひきつる笑顔で返すしかなかった。


そんな柴田が、旅行先で言った。

「今まで誰かといるのが苦痛でしかなかったけど、咲希となら変に気もつかわないし、自然体でいられる。これからもいっぱいいろんなところへ行こうね」


よっしゃ、もう一押しだ。




「…とまぁこんな感じで、元々結婚願望ない人がここまで意識変わってるから、のちのち結婚考えてくれればって思うんだけど…」

咲希の話を聞いて、さとこと忍はあ然。

「なんか…お金持ちの人って私達庶民とは感性が違うのかな」

「私はもう結婚はいいかなーって思うから、逆にそういう人がいいのかなぁ、もしこの先つきあうなら」


結婚願望のある者とない者がつきあっていくなら、そのハードルは高い。


どこかで、どちらかの気持ちが変わる場合もある。

どちらも変わらなければ、平行線のまま。

しかし行き着く先が幸せなのか不幸なのか、それは誰にもわからない。

けれど長い時間が経ってからでは、女性の子供問題のように取り返しのつかなくなることもあるから、早めに話し合い結論を出しておいたほうがトラブルは少ない。


生物が伴侶をもち巣をもつのは、子育てし種を残していくための本能であり、結婚願望もそこに当てはまる自然なことだろう。

親から離れたコミュニティをもち、自分の安らげる場所を求めるのは、遺伝子の記憶かもしれない。

人間は便宜上結婚が制度になり、子供については各自の生き方で選べる時代。

多種多様な考えがあり、柴田のような生き方ももちろんいいのだ。

問題は、パートナーと気持ちが同じかどうか。


柴田は以前自身をこう語った。

「オレは基本人間嫌いだし、ひとりがいいんだ。でも彼女はいてほしい」


それって、彼女がただ性欲を満たすための、自分に都合のいい存在になってませんか?


結婚という夢のゴールを目指す咲希は、そんな心の声に蓋をした。


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