第17話 うらやましいと思うのはそうなりたいからだ
後日、モヤモヤを抱えた咲希は日曜日、友人達に事の経緯を説明しながら恒例のランチタイム。
本日はパンとサラダがおいしい、グリーンに囲まれた木材を基調とした癒やしカフェ。
窓辺に座ると、2階の窓から通りを行き交う車が見える。
もぐもぐ、ミックスサンドをわけわけして食べる。
ふんふん、なるほど。
こんな時、話を聞いてもらえるだけで安心する。
人は、共感されたい生き物なのだ。
「ゆるせないって思うことは、自分にとってそこが重点を置いてることなんだよね。私は公共のルールを守らない人に対してイラッてするんだけど、それは社会性を重視しているからであって。咲希はどうだろう?その場の空気を読まない無作法さにまず嫌悪感を抱いたんじゃないのかな。昔からマナーにはうるさかったもんね」
教師をしているだけあって、さとこの講釈はとてもわかりやすい。
「そうなんだよね~。うちは親の躾が厳しかったのもあったし、その価値観が身についてしまってるんだよね。あと服は好きだしTPOは大事だと思ってるから、その場にふさわしくない雑な格好をしている人は嫌だわ。あんなんじゃ高級なレストランも台無しになっちゃう。街の定食屋じゃないんだから、その場にふさわしい服装でいくことは、その店への敬意でもあるんだから」
咲希の熱弁にごもっとも、と首を縦に振るふたり。
「かつその人と距離があれば関わりない他人なのでよかったけど、ヘタにしゃべったりして顔見知りくらいにはなったもんだから、余計意識しちゃうと思う」
そうそう、まさにその通り。
「場をわきまえてないくせにインスタで称賛されてるのが納得いかない。なんでちゃんとやってる私がないがしろにされなくちゃいけないんだ。そんな感じか」
「はい、まさにおっしゃる通り。そしてそんな人に負けた感がある」
「いいねの数は勝ち負けじゃないよ。そんなふうに思ったらしんどいし。楽しみながらやるのがいいと思うよ。咲希の投稿いいなーって私はいつも思ってる。そんなふうに思ってる人、きっとたくさんいるよ。そのシェフも今は開店準備で忙しくて目を通しきれてないけど、いつか咲希の投稿見たら喜ぶはずだよ」
忍のフォローは、いつもやさしくてやんわり語りかける。人柄がにじみ出ている。
「要は咲希も自分の自信の投稿を、シェフに反応してもらい認めてほしかったのよね」
忍の言葉にうなずきながら、さとこ先生が続ける。
「そりゃあね、がんばったもん」
「要はその人のことがうらやましいわけだ。うらやましいと思うのは自分がそうなりたいのに現状そうなってないからだよね」
ギクッ
「まぁ、そうだよね…。一度でいいから何かでバズってみたいと思うし。有名な人に反応してもらえたら、自分もすごい人になったような気になるし」
「ネットでの称賛、いいねって麻薬みたいなものよね。見ず知らずの人がただで自分をほめてくれるんだもん。快感になってもっとほしい、もっと目立ちたいってなっちゃう」
「私も最近その気持ちはわかってきた」
「えっ、忍も!? インスタ始めたの??」
予想外の発言に驚くふたり。
「いや、自分のではないけど。新しい派遣先でSNS担当まかされちゃって。会社のといえど自分の投稿にいいねとかコメントあるとうれしくなって、もっとがんばろうって最近思ってきた。あれは中毒性あるね、やばい」
「でしょう〜?だから怖いので私はやらない、SNS」
「咲希はあれだよね、彼氏が服装に無頓着でデートでパーカーにジーンズとよれよれのジーンズなんかで来たら食事しないで帰るタイプ」
「そうよ、だって結婚して家族としてならそれで牛丼食べにいくとかでもいいけど、同棲もしてない新鮮なつきあいならもうちょっと気合入れていいとこみせてほしい」
「幸い今の彼氏さんはいっつもブランドのいいスーツで決めてると。よかったね~」
さとこは紅茶を飲みながらにんまり。
「たしかにそれはいいけど、逆にスーツ以外の服見たことないしカジュアル服持ってなさそう。俗にいう私服ダサいタイプかもしれない。休日スーツ以外で会ったらオシャレセンス0でひいた〜、とか女性誌にもデート失敗談よく載ってるし。スーツは基本仕事着だもんね、または社会で戦う戦闘服。心を見せない鎧みたいなもん。遊びの服で初めてその人の内面がわかる」
「まぁ咲希の彼氏さんは365日全部仕事って感じだもんね…。スーツ以外いらないのかも」
「まさに、忍の言う通りだ!」
「老後同盟組んでても案外咲希は結婚していずれ抜けたりして。そういう話とか出てないの?咲希は結婚願望高いよね?」
「あー、それも実は厄介なことが…」
「何なに?? 相手の子供が反対してるとか??」
さとこが好奇心旺盛に首を出してきた。
「そこは親権もないしいいんだけど…問題は彼自身よ」
今日の女子会は夜の二次会まで続きそうな勢いに突入した。
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