第12話 アンタはそんなに偉いのか

咲希は仕事柄、相手の人となりを常々よくみている。

表向きは優しくていい人そうでも、本性というのは随所で垣間見えるのだ。


恋人柴田は見た感じはどこにでもいるような50代。

いつもスーツを着ているので、カジュアルな服装などみたことない。それくらいの仕事人間。

代表取締役社長として従業員十数名を抱え、経営コンサルティングや株の投資、企業買収などを手掛けている。

出会った当初は穏やかで控えめで、優しそうな印象だったので、咲希も交際をOKした。

そりゃあ年収1,000万のタワマン暮らし、外車付き社長に好意を抱かれ交際を申込まれたら、その時フリーなら第一印象がよほど悪くなければとりあえずつきあってみようとか思わないか??


ところがこの第一印象というのは曲者で、大抵あてにならない。

そもそも最初からまだ知り合いたての人に自分というものをさらけ出したりはしないだろう。

少なからず好印象をもってもらいたくて、自分のいい部分を無意識にアピールしているものだ。


違和感をもち出したのは、まず一緒にコンビニで買い物をした時。

レジ担当は外国人の若者だった。

多少ぎこちない日本語だが、笑顔で一生懸命働く姿に咲希は好感をもち、応援したくなった。

そこで柴田が放った一言。

「かわいそうになぁ、わざわざ日本まで来てこんな安い時給で働かされて。レジ打ちなんてレベル低い仕事くらいしかないんかな。でも外国人だと計算間違えてないか心配になるし、オレだったら備品盗難とかされたくないからそもそも雇ったりしないけどなぁ」


えっ?


笑いながら話してはいるが、明らかに外国人を侮辱した発言。

加えて職種で差別し、見下している。


咲希は不愉快でしかなかった。

自分もコンビニのバイトをしたことがあるが、確かに賃金が安いわりに宅配便の受付や公共料金の支払いなど、業務は多岐に渡り大変な仕事だ。

長時間立ちっぱなしの接客、肉体的にも精神的にも楽ではない。

外国人留学生のアルバイトが増えているということは、日本人でもあまりやりたがらない仕事なのだ。

それなのに…


この人は、自分の仕事こそが尊くて立派だと思ってる。

だけど、世の中いろんな仕事でまわってるんだから。

レジしてくれる人がいなかったらコンビニで買い物もできないのよ。お店の人には感謝だわ。


「怒りや悲しさを覚えたのはそれが最初かもしれない」

「いやだよね~、そうやって他人を見下す人。しかもお店の人とか老人子供とか、社会的に弱い立場の人に対して攻撃的なのって、人として最低! あっ、ごめん、咲希の彼氏がサイテーってわけじゃないけど」

「いいよ~気ぃ使わなくて。私もそう思ったもん。それとさ、海外旅行行った時もね…」



入出国の手続きの際、長い行列ができることがある。

柴田は待つことが大嫌いと公言している。なぜなら時間を奪われるからだ。同じ理由で電話も嫌いで、交際していても咲希は電話したことがない。そもそも電話番号も教えてもらっていない。

イタリア旅行へ出かけた際、春の旅行シーズンでかなり混雑しており、明らかに柴田はイライラしていた。

前方を見ると誘導の係員がよそ見をしながらダラダラ指示しているため、人の流れが止まっていたのだ。

それを見て柴田は言った。

「あのクソ野郎、不真面目な仕事しやがって。オレだったらもっと効率良くまわせるのに。ルーズだから外人って嫌いなんだよ」

「……」

小さなことで憤慨する彼氏を見て、咲希は情けなくなった。



「あれは引くわー…」

「咲希の彼氏さんてもしかして外国人嫌いなの?」

「そうかも…戦時中の日本人みたいな考え持ってるみたいで。自分でも愛国心の高い人間って言ってた」

「それなのに海外旅行は行きたいんだね、矛盾だらけだ。ウケるw」

さとこは普段真面目なのだが、咲希の恋愛の悩みを結構笑い流してくれるので、時々それが救いとなる。

「あの人見てるとさ、時々思うんだよね。アンタはそんなに偉いのか!って。そりゃあ従業員を抱えて、その人達の生活も守っていかなきゃいけないし、大金を動かしてそれはすごいと思うよ?そう簡単にできることではないし。だけど基本は同じ人間なんだから、立場や収入で見下して馬鹿にする権利なんてないと思う。そんなこともわからないなら、いくら一流の国立大学出ていても、たくさん稼いでいても頭悪いよ!」

「そうなのよねー、そういう人として大切なこと、わかんない人が多すぎるのよね」


こんな男でも別れないのは、旅行?プレゼント?

多少のことに目をつぶればおいしい思いができる。

それもあるが、今の柴田は彼女に夢中で、咲希に対しては暴言や不謹慎な言葉を言うことはないし、もちろん手を上げることもない。

仕事第一ゆえ浮気もしない。

好きだよ、愛してると、心地よい言葉をささやいてくれる。


それだけで充分なのだ。

誰かを愛するより、ただ愛されていたい。

自分を愛してくれる人を、離したくないだけ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る