パーティーはもう決まってるんだ
私は懐から紙を取り出すと、それを地面に投げた。緩慢なる土くれの人形が出現する。私が魔術士であることは、バーバラが報告済みのようだ。特段驚いた様子がなかった。
「行くぜ」
ネネが小さく言って駆けた。
同時に刺青の男も駆ける。その速度はネネよりも数段速かった。ただネネはイン・ファイターではなかった。その動きは前衛職に見せかけるためのフェイクだろう。途中でバックステップを踏む。
私は両者の間に緩慢なる土くれの人形を割り込ませた。ネネは長剣を水平に構えると、その刃は煌めき弾けた。緩慢なる土くれの人形の脇を、飛ぶ鳥のように長剣が横切る。
ネネが長剣を投げつけた訳ではない。長剣の剣身が伸びだのだ。ネネもまた、触れた物を伸縮させる天恵を持つ。その力はこと対人戦のおいては初見殺しも良いところだが、しかし刺青の男はそれを斧で弾いてみせた。
というよりは、これも知っていたのだろう。俯瞰してみている私には、バーバラが笑っているのが見えた。ネネは剣身を元に戻して距離を取る。緩慢なる土くれの人形が腕を振り上げた。だが、刺青の男の移動速度の方が速い。その脇を抜け、私たちに肉薄した。
「略式詠唱」
「さまよえる砂手」
無数の腕が地面から這い出てくる。それらは刺青の男の足を捕まえるべく蠢きはじめた。刺青の男は、水たまりを避ける子供のような軽快さでそれらを交わしていく。ただ本当に捕まえたい訳ではなく、足場を不安定にすることが狙いだった。また、刃が煌めいた。
伸びた剣身が刺青の男の肩をめがけて進んでいく。そしてまた弾かれる。ガーメイルもそうだけど、これくらいなら当然のように対処してくる。それも素の肉体能力だけで。天恵持ちと魔術士の組み合わせは、その手数の多さは折り紙付きである。少なくとも近付けさせていないだけでも御の字なのかもしれない。
とはいえ、第三級冒険者が特殊な能力を前に、打開する能力がないわけがないのだ。魔宮に潜っていれば、初見殺しなんて沢山あるはずだ。それを裏付けるように刺青の男は余裕そうな表情を浮かべている。少し弄んでいるような風だった。色々な手段が脳裏に通り過ぎていく。
「記述詠唱」
「断罪する無機質な墓標」
岩で創られた墓標は刺青の男を殺すために追随する。
生者に墓標は必要ないからだ。ネネは長剣をもう一本取り出した。彼女は長剣を限りなく短くして携帯している。手数が足りない時にこうして取り出すのだ。刺青の男は伸びてくる剣身を躱しながら、落下してくる断罪する無機質な墓標を斧で打ち砕いた。私の魔術の中でも結構硬度のあるやつなのだけど、やはりこのレベルになると競り勝ってくるようだ。
「略式詠唱」
「ほとばしる茨の束縛」
「略式詠唱」
「ほとばしる茨の束縛」
無数の茨が地面から飛び出した。
「魔術士ってのは厄介だな。パーティーメンバーとして迎えてえくらいだぜ」
刺青の男が茨を薙ぎ払いながら言った。
「パーティーはもう決まってるんだ」
私は軽口を返した。
「これは無理だな」
刺青の男は大きく距離を取った。
「何言ってるの」
バーバラが情けない声をあげた。
「勘違いすんな。今の状態では攻められねえってだけだ。あまりにもジリ貧だわ。茨は増えるみてえだし、あいつの魔術は追いかけてくる。魔力がどれだけ持つのかも分からねえ。ああ厄介だぜ」
「魔術士は厄介さが売りでね」
「ただ、俺とは相性が悪そうだ」
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