まあ、そういう事かもね
「久しぶりね。みんな」
にこやかに笑みを浮かべながら、バーバラは言った。一週間も姿を消したとは思えない気軽さに、当初見つかったらぶん殴ると言っていたネネもその勢いを失っている。怒りよりも困惑が優っているようだった。
「どこ行ってたんだ」
ネネが言った。
「ちょっと考え事をしてただけよ」
「何を考えていた」
「もちろん話すわ。ただ、恥ずかしい話なの。ネネだけでも良いかしら」
ネネは皆に目配せをした。皆は頷いた。
「ああ、キキョウも残って。貴方も関係あることだから。ちょっと三人で出かけましょう。そうね、わたしたちのよく行く場所に」
私は首を傾げながらネネを見た。
ネネも首を傾げたけど、了承を得て同行した。
バーバラの言うよく行く場所というのは、黄昏の荒野の事だった。時刻は昼過ぎた頃合いだ。ここなら確かにユックリ出来るはずだ。高台に登ってしまえば、そんなに魔物も来ない。
こういう時に私は先の展開を読んでしまう癖がある。
私は思案しながら進んでいると、バーバラはようやく足を止めた。その高台には先客がいた。ああ、そうだな。街まで抜けてまで話をすることなどあるだろうか。街の静かなところでは駄目なのだろうか。私は前方を見据え、叙述に惑わされている事に気が付いた。
いや、わざと騙されたのだろう。私のことだから。
単純明快なネネは戸惑いの表情を浮かべていた。余談ではあるけど、バーバラはメンバーの中で最も加入が遅いらしい。結局のところ、彼女の本質を理解している者など、憤怒の雷にはいなかったのだ。
その先客は明らかに物々しい雰囲気を持ち、明らかに私たちを待ち構えている。その横にバーバラが収まると、醜悪な笑みを浮かべた。
「冒険者っていうのは馬鹿ばっかりね」
「ああ、そうだな」
バーバラが言うと、隣の男がそう返した。スキンヘッドに、顔の左頬から目元に大きな刺青がある。鍛え上げられた肉体と自信に満ち溢れた表情や立ち姿、その足元には二本の斧が刺さっている。バーバラはその男にしな垂れかかった。
「何してんだ、ああ?」
ネネは静かに言った。その瞳は既に怒りに満ちている。ここまで来たら、その場の雰囲気で何となく理解できる。
「彼に鬱陶しいリーダーと新人を始末して貰おうと思って」
「頭イカレてんのか」
「イカレてんのさ。だが嫌いじゃあねえ」
割り込むように刺青の男が言った。
「前々から彼にはネネを連れてくるように言われてたの。美しい女には目がないから。こんな男のような女、気にしなくていいんじゃないって言ったのだけど、でもまあ、見た目だけは良いからねえ。どうしようかなと考えていたら、これまた見目の良い新人も増えたじゃない。それを彼に言ったら、ここに誘い込めって言われたの。私のこと散々使えないとか言ってくれたわね。虫唾がはしる」
「お前が使えねえのは事実だろ」
刺青の男はバーバラを突き飛ばした。「キャア」と声をあげ、地面に倒れる。私は何を見せられているんだという気持ちになったものの、こと男女間の諍いに関しては敏感であるネネには効果的のようだった。
短い間でも女が男に虐げられていることに嫌悪感を覚えているのは、何となく察していた。
「要はあの男をぶっ飛ばせばいいんだな」
「まあ、そういう事かもね」
私は肩を竦めた。
刺青の男は二本の斧をつかみ取る。
「見てくれの良い女は自尊心が高くていけねえ。なあ、簡単な話をしようぜ。俺の女になればすべて解決だ。痛めつけられる事もなく、抱くときも優しくしてやるよ。この女を見ろ。ブスの無能だが丁寧に飼ってやっている。女として強い男のものになるのは本望だろ? なあ、面倒なことはよしてベッドに行こうぜ」
「死ね」
「生憎だけど、自分よりも弱い男には興味ないね」
ネネは唾を吐き、私は嘲笑った。
「世間知らずは良くないな」
刺青の男は余裕の表情を浮かべている。
「彼は第三級冒険者なのよ。貴方たちで勝てるわけないじゃない」
「黙ってろって」
刺青の男はバーバラを蹴飛ばした。
「種晴らしをされちまったが、そういうこった。第五級冒険者や新人がどうこう出来る相手じゃねえのは分かるだろ?」
「やってみねえと分からねえだろ。階級なんて指標でしかねえ」
「何度も言うけど、私よりも弱い人に偉そうにされたくないんだよね」
私たちは暫く睨み合っていたけど、刺青の男はため息を吐き、次の瞬間には目つきが変わった。狩る者の目だ。確かにそこら辺の荒くれ者ではなさそうだ。第三級冒険者になるとトップレベルの冒険者だ。ガーメイルと同等の猛者である。奇しくも同じ斧使いだ。だが双斧という珍しい武器だった。
ネネも腰の片手半剣を抜きはらった。
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