ひとつ言えることは都合が良いということだ。
ネネのところのバーバラが失踪したらしい。
彼女たちが帰ってきてから一週間後のことだ。私の時からそうだったけど、ネネとバーバラの仲たがいは続いていて(私がそれに拍車を掛けさせたのだけど)、今回の遠征も芳しい成果は得られなかったようだ。
むしろ第四階層でアルタイルが怪我をして、やむを得なく帰還したという経緯だった。命に別状はなく、二週間ほど安静にしていれば完治するほどのものだ。ただその怪我をした時に、ひと際大きな喧嘩を二人がしたらしい。ネネがバーバラの能力のなさを責めたのだ。帰りはとても和やかに会話が出来る雰囲気ではなく、そのまま別れたものの、こうしてバーバラの行方が分からなくなった。
私には彼女たちの関係性の深さは分からないけど、ひとつ言えることは都合が良いということだ。
要らない人間が思惑通りに居なくなった。とはいえ、出会った彼女らは沈痛な面持ちをしていて、まだ色々と整理が必要だった。姿を消したバーバラの捜索も難航している。聞き込みによって街を出ていないことだけは分かっている。
すぐに冒険者組合と憤怒の雷共同で、組合談話室に対策本部が設立された。正直なところ、冒険者が失踪するというのは珍しい話ではない。命を懸ける仕事に嫌気が差して街を去る者、魔宮で死んだ者、愛を育み冒険者を辞めた者、とりわけ悪い理由だけではなく、他者からの見え方として失踪したと捉えられるだけであることの方が多く、今回のことも仲たがいした末に解散なんてよくある話の、より性急過ぎただけの状態なのだろうと、組合も見解を示していた。
ただ、ネネは物事をハッキリさせたがるたちであるから、この別れ方はとても不本意なようだった。私としてもバーバラは要らないものの、禍根を残すことで判断が鈍ることがあるのなら、それは頂けない話だ。ことを綺麗サッパリにする手伝いをすることにした。
張り込みをしているから街からは出ていない筈だけど、更に一週間経てども姿はない。
組合も割いていた人員を回収した。緊急事態にはこうして力を貸してくれるものの、一人の人間に大きく肩入れすることはない。例外として五級より下の階級は唯一性を認められ、一級ともなれば貴族待遇である。残念ながらバーバラは有象無象の一人に過ぎなかった。
それでも憤怒の雷は捜索を続けた。薄暗い路地裏まで隈なく探したけど、恐らくは個人の領域に引きこもっているのだろうという結論になった。バーバラが使っていた宿は既に引き払っている。ということはその宿を変えたか、あるいは誰かの家に転がり込んでいるのか。
ネネたちの知る限りだと恋人関係にある男がいるようだった。本人が名言したわけではなく、言動や行動などから暗黙の了解的にそう思っているという具合だ。バーバラは自分の事をあまり話さないようで、その私生活は謎に包まれていた。
それから更に三日が経った頃に、ようやくバーバラの行方が分かった。彼女は散歩でもするような軽い足取りで組合にやってきたのだ。組合職員から連絡が入った憤怒の雷と私は、すぐに駆け付けた。
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