ただ、少々ガッカリだったかな

 今日はエリクセンと依頼をする日だった。


 彼は厳格な効率主義者である。

 朝早くから街を出発すると、黄昏の荒野を目指した。そこで仲間と目覚めの一杯をやった。つまり我々は空が真っ暗な時分に行軍したのである。黄昏の荒野にある高台で朝日を眺めながら、専用のサイフォンを持つエリクセンの一杯は、確かに至高ではあった。


 私がエリクセンを気にしたのも、彼からは珈琲の香りがしたからだ。それから依頼を始めるのが日課ということだった。まるで貴族のような振る舞いである。ただ、彼は正真正銘の一般市民のようだった。


 ある意味、十全な準備と言えるだろう。常に同じ行動をすることで、成功している状態を引き寄せる。古来より伝わる気の整え方だ。


 エリクセンのパーティーは七人組の大所帯だ。私が関わってきた中では最も多い。彼らの美学があるのかは分からないけど『鉄血戦線てっけつせんせん』という振る舞いとは正反対の、暑苦しさ満載のパーティー名だったりもする。冒険者は様々な名を冠するから、その発想の広さには感服するばかりである。私が文章を書くに当たって、もっとも不得意なのは、何かに固有名詞を与えることだった。


 エリクセンは重厚な全身鎧を纏っている。無骨な大剣と合わせ、その威圧感は冒険者の中でも折り紙付きである。あらゆる状況を求められる冒険者の中では、こうした重い装備は好まれなかった。


 移動だけで疲れてしまいそうだ。ただ、エリクセンはその問題を解決する術を持っていた。彼は持ちなのだ。『身体に触れた無機物の重さを変えられる力』を持つ。


 彼は鎧を地面を穿つほどに重くすることも、羽のように軽くすることも出来る。天からの恵み……魔術士泣かせの力だ。ゆえに、他のメンバーは凡庸な冒険者のスタイルを持っている。


 皮鎧と剣や槍などの武器。ある意味エリクセンの為のパーティーだ。どこまでも突き進んでいく彼をサポートするためのメンバーが六人控えている。彼らの戦い方は特殊だった。


 大剣を高速で振り回しながら敵を倒しているエリクセンの、邪魔にならないような位置にいる。あれでは連携もあったものではなく、私の魔術も差し込めなかった。ある種の負い目というか、エリクセンの力で成り立っている状態に、もし私がその立場だったら辟易へきえきするだろうけど、彼らメンバーはそれに満足しているようだった。


 私はエリクセンには興味を持つけど、パーティーメンバーには落胆していた。振り回されるような激しい葛藤や大志を抱く情熱、挫折に達成、あらゆる起伏を拒み、ありふれた日々を享受している。それは楽なことだ。ただ心が躍らない。それは本当に生きている意味があるのだろうか。そんな人生は、物語の中に収めてみると、きっと背景にしかならなかった。


「俺のパーティーに入りたくなっただろう」


 休憩中にエリクセンがそう言った。


「まあ、規律を重んじたいという意味は分かったよ」


 顔合わせの際にエリクセンが言った言葉である。


 俺の邪魔をせずに、俺の為に動く規律。確かにそれは重要だ。しかし、仲間が無能であった場合に限る。


「ただ、少々ガッカリだったかな」


 私はこれ見よがしに肩を竦めて見せた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る