私は怠惰を誇りに思う生物
しかしながら、天命の守護者は優秀な三人組だった。
サンサは自分の立ち位置を常に取り続け、私は極めて安全だった。その後は退屈にしていたエタがその剣技を振るったけど、素人目に見ても美しい所作だと分かった。魔狼が綺麗に三等分になった時は肝を冷やしたものだ。幾ら皮膚の柔らかい魔狼といえども、ああいうふうになるものなのかしら。
一方のガイは堅実さが印象的だった。魔物に最も早く気づき、最も早く槍を構えている。如何にも経験豊富そうな佇まいだ。常にメンバーの立ち位置を確認し、間を埋めているような動きをしていた。
彼らは確かに役割を持ち、今まで三人でやってきた自負を持っていた。ある意味私は異物だっただろう。とはいえ、私の力量を試すという趣旨なのだから当然である。出しゃばる必要があったのだ。ただ、ハントマンの時もそうだったけど、私の魔術は意外にも不評である。
途中からはあまり何もさせてもらえなかった。魔術を使うのであれば効果的であるべきだし、それは覿面だったように思うけど、何事にも匙加減というものが必要らしい。
確かにパーティープレイはその必要があるだろう。
よくよく思い返してみれば、砂塵を巻き上げたりなんてすると、こちらからの視界も悪くなるのだから良くなかった。魔狼ではなく、もっとタフな相手だとむしろ奇襲に利用されかねない。
私は帰ってからそのことを反省した。しかし魔術とは連鎖が肝要だ。巻き起こした砂塵を素材とすることで、岩石を素早く生み出す工夫がある。今回の場合だと視界を奪いながら、それが出来るからとの判断だった。私は戦闘の判断材料に奥行きが生まれ始めていることに喜びを感じていた。そして世の中には様々な力の種類があるようだった。
天命の守護者と活動した次の日は休みになっていた。
私は
群狼の森はそろそろ見飽きてしまった。あれほどの深さを感じる森も中々ないけど、登場するのが魔狼くらいだ。私は朝早くに目覚め、筆を走らせていた。文字や言葉が浮かんでは消え、沈んでは消え、空に飛び立ち、地を這っている。規則性はなく、筆者すらも読者であることが肝要だと教えてくれる。
狼たちの躍動感、木々のさざめきの不吉さ、神経を張り詰めた人の呼吸の音、刃が肉を切り裂く生々しさ、ひとつひとつの光景をそのまま移すように、丁寧に……。そこには一切の感情がなく在るのは事実のみだ。事実に感情を乗っけるのが私の役目である。この時だけは、筆者でも読者でもなく、当事者でなければならないのである。
ふと、お腹の鳴る音で我に返った。気が付けば昼だ。
私は階下に降りると、無理を言って朝食を作ってもらった。木枯らし亭のシェフはミランダの旦那である。寡黙と言えば聞こえはいいけど、この夫婦は揃いもそろって愛想がないわけなのだ。
先行きが不安である。もちろんそれを伝えると「余計なお世話だよ」と怒鳴られるだろう。私は怒られるのが嫌いなのだ、小市民だから。少し腹ごなしの休憩を挟んでから、午後は街に出かけることにした。
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