然るに、私は冒険者となったのだ。

 マリーが場を進行させてゆく。こう見ると彼女は有能だ。自分の役割を理解し、状況に応じて適時それを全うしている。


 まるで有能な秘書のようだ。一通り私への質問が終わると、今度は私が皆に質問していく番になった。


 それぞれの戦闘スタイル、構成人数、等級、私を欲した理由、どこを目指して何を成そうとしているのか、加入した際のメリット、さまざまな事を問うていった。私が気になっているのは、エリクセン、ガイ、ネネの三人だった。この中ではとりわけ面白そうな部類だ。


 私にを提供してくれるかもしれない。しかし、具体性があるかと言われたら、ただの直観でしかないのである。仮に彼ら三人に絞るとして、誰を選ぶのが最善なのか分からなかった。


 今日のところは、顔を合わせるだけにとどまった。


 とりあえずはお互いの事もまだよく分からない段階だから、それぞれと一度魔境に行く約束をした。これは気になっている三人以外の七人とも平等に機会を作った。私が出来るだけ色々な人と関わりたいからである。


 パーティーを組む際にお試しでというのはよくある話のようだから、落としどころとしても妥当だ。


 そして今日も依頼は受けなかった。


 集まっていた面々の中には、今から仕事をする者もいた。時間は有限だから、出来る限り頑張らないといけないらしい。冒険者の寿命は短い。これは死にやすいということではなく(それもそうだが)、年齢を重ねると肉体的な強度が落ちるからだ。私のような魔術士は年を重ねるにつれて老練していくけど、戦士は活動できる期間に明確な限りがある。


 故に一秒も無駄には出来ないというわけだ。


 私はそういう世界に足を踏み入れたのである。


 とはいえ、それで自分のペースを乱すことはなく、私は今日も珈琲を飲みながら、昨日買った本の読書に勤しんでいる。


 冒険者はまた明日。次の作品は何を書こうかな。私の中で文字がワルツを踊りはじめ、楽しそうに跳ねている。早く出たいよお、と叫んでいる。やがて世が更け始めると、世の無常が馬鹿馬鹿しくなってきた。私は感情の波を理性で押し返しながら眠りにつく。


 冒険の原点とはなんだろうと考える。


 今日出会った彼らにも目的があった。富と名声を得んとする者、辿り着きたい目的地がある者、あるべき居場所がなくそれを作る者、自らの力を知らしめたい者、彼らは目的は様々でも等しく危険を冒すのである。


 それらには蜜のように蠱惑こわく的なドラマティックが存在しているはずだ。誰もが幸福を享受きょうじゅするべくもなく、彼らのほとんどが何かしらの不幸を経験する。


 それは一粒の香辛料だ。私はその得難い味を余すことなく舐めとると、それをよく咀嚼して飲み込む。


 そうする事でしか喉奥の渇きが潤うことはなく、まるで亡霊に取りつかれたように、一心不乱に、文字を追うのである。


 然るに、私は冒険者になったのだ。

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