残念ながら、私はただの魔術士だよ
それは生まれつき与えられるものだ。まるで魔術のような効果を及ぼすため『固有魔術』と呼ぶ人もいる。
私が行使する魔術のように様々な事を出来るわけではないけど、例えば触れたものをただ凍らせる力、例えば空を飛べる力、例えば相手を眠らせる力、例えば記憶が良くなるだけの力、その姿かたちは
ただ、人類平等に与えられるものではないから、天恵を持つ者は重宝される。特にその天恵を魔術で再現したとしても、その一点だけの威力であれば、天恵に軍配が上がるのだ。
もちろん術者の力量にも寄るものだけど、より一つだけを極めるのであれば、天恵は効果的だ。だから冒険者が肩を組もうとする時に必ず確認する項目だろう。魔術士と同じくらいには歓迎されるはずだ。私は確かにそれを記載していなかった。
「残念ながら、私はただの魔術士だよ」
暗に持っていないと伝えると「分かってた話さ。答えてくれてありがとう」ガイは肩を竦めておどけてみせた。
「じゃあ次はアタシだ」
赤髪の女性は不敵な笑みを浮かべている。
「第五級冒険者のネネだよ。この中では一番等級が高いだろうねえ。まったく情けない男たちだと思わないかい。こんなに可愛いレディよりも弱いんだからさ。なあ、キキョウもそう思うだろ」
「私はそう思わないかな」
「ああ? そんなわけないだろ。男は女を虐げたがるくせに弱いんだ。アタシはアタシの身体目当ての男を何人もぶち殺してやったぜ。お前だってそうだろ。魔術という恵まれた力を持っているんだから」
「どうだろうね。十分な距離があれば魔術は有利だろうけど、その魔術を発動するための時間がなければ非力だよ。私はあまり侮るのが好きではなくてね。仮に相手が赤子の姿でも、内なる牙を警戒するようにしているんだ」
「フウン。魔術士様は臆病なんだねえ。ガッカリだよ」
「なんと言われようと魔術士は入念に準備する。ガッカリさせてしまって済まないね」
「ネネ様。早く質問を」
マリーが身を乗り出しているネネを咎めた。
「まあよく考えれば、アタシと真逆の奴の方が都合がいいだろうからね」
ネネは椅子に座りなおした。
「質問というよりは言いたいことが一つあるだけさ。アタシは常々遠距離攻撃を行える人材が欲しかったんだ。そんな時に魔術士が現れた。これは導きだ。だからアタシのパーティーに入れ。細かいことは構わねえ、アタシが言いたいのはそれだけだ。分かるだろ、この中でもっとも強く、もっとも稼げるのはアタシのとこだ。同性ってのもやりやすい。だからアタシのパーティーに入れ。アタシとお前なら、もっと上を目指せる。書いていただろ、色々な景色を見るために等級を上げていきたいと」
「そうだね。私は第一級冒険者になるつもりだ。君とならそれが叶うと?」
「もちろんだ。少なくともこの場ではもっとも可能性がある」
「ネネはこういう風に言っているけど」
私は他の冒険者を見渡した。
「彼女がこの中で一番等級が高いのは純然たる事実だ」
答えてくれたのはガイだった。彼はずっと淡々と話している。
「実際のところ、一対一でやりあった場合誰が強いのかは分からないけどね。体格が少々良かろうと、所詮は女だ」
まだ挙手していなかった冒険者の一人が言った。隅っこで貧乏ゆすりをしていた男だ。ネネはその冒険者を睨めつけた。一触即発の雰囲気が漂い始める。
「その続きをするのであれば、退出していただきますよ」
すぐにマリーが釘を刺した。
「この場の趣旨から遠ざかっている。仮にネネが一番強いとしても、キキョウがそれだけを基準に選別するかどうかはまた別の話だろう。
俺は何よりも規律を重んじたい。その点で言えばキキョウは問題がないように思える。そして魔術は有用だ。噂程度に聞いた話だが、ガーメイル教官と真正面からやりあったらしいな。それが本当なら大きな力になる。
この場に居る時点でキキョウを欲しがっているのは俺も同じだ。それは皆そうだ。あまり強引な勧誘は謹んでもらおう」
エリクセンが言った。ネネが大きく舌打ちする。
「ガーメイルは最初の魔術を待ってくれていた。対等な戦いとは言えないさ」
「それでも概ね事実のようだ。彼は教官で君は新人だ。それは当然の処置なのだから卑屈になる必要はない。もし俺たちと組むことになった場合、ガーメイル教官が待った時間くらいは作ってあげられる」
「てめえだって勧誘してるじゃねえか」
今度はネネがエリクセンに唾を向けた。
私は冒険者たちの様子を興味深げに眺めている。結局のところ個としての主張が強いのが冒険者という存在のようだ。私が明確に決めない限りは、こういう風にけん制を続けあうことだろう。
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