私の為にお集まり頂きアリガトウ

 次の日、案内された談話室には人が溢れかえっていた。


 視線を彷徨さまよわせると、十人も居るようだ。昨日に引き続き案内役のマリーによると、これでもリーダーだけが集まっているのだから驚きだ。要は十個のパーティーが私に目を付けたということである。


 冒険者たちは無規則に話しかけてくる。私が憮然とした表情を浮かべているとマリーが仲裁に入った。


「この場は私が進行役を仰せつかっておりますから、私の指示に従えない場合は速やかに退出くださいませ」


 その一言で皆は椅子に座りなおした。


 部屋は私が筆記試験に使った部屋よりも倍は大きな部屋だった。私たち合わせて十二人が余裕で入るくらいだ。十人の冒険者たちは親し気に話している者もいれば、隅っこで貧乏ゆすりをしている者、険悪な視線を投げあっている者、ジッと私を見ている者もいる。


 十人中の一人だけ女性がいた。その女性は濃い赤色の髪をハーフアップに結っている。健康的な小麦色の肌をしていて背丈が高かった。勝気そうな瞳と快活な笑顔が印象的だ。彼女は隣の男性冒険者と楽しそうに話していた。


「では、キキョウ様。自己紹介を」


「私の為にお集まり頂きアリガトウ。名前はキキョウ。知っているとは思うけど、地属性のルーンを刻んだ魔術士だよ。


 主に防御魔術と拘束魔術が得意かな。パーティー上の役割としては盾役と書いたけど、もちろん私が盾を持つわけじゃなくて、土や岩から作ったゴーレムを盾役にすることが出来るから、という意味だからね。


 もうひとつ注意点があるんだけど、それは環境に左右されてしまうところ。一から岩を生成することも出来るけど燃費が悪く、効果を及ぼすのに時間が必要になる。元々岩や大地がある場所の方が本領発揮出来るかな。もっとも逆に言えば、火属性だと一から形作るのがほとんどだから、燃費が悪いと言われているし、そこも良し悪しではあるんだけどね。


 兎に角、多種多様な環境になる魔宮に入る時は、その辺の注意が必要だと思っている。魔術士と組むときの注意点はこれくらいかな。あとは連携を擦り合わせていきたいね」


「ありがとうございます。では質問がある方は挙手を」


「では俺から」


 手を挙げたのは、金色の短髪の男だ。軽装だけど隣に巨大な剣を立て掛けている。青い瞳が私を射抜いた。


「第六級冒険者のエリクセンだ。キキョウは魔術士だが、それ以外に何が行えるのかを教えてもらいたい。冒険には様々な能力が必要だ。何も出来ない、何もしないではパーティーの関係性にも関わってくる」


「野営の経験はある。料理はむしろ一家言持つくらいさ。些細な雑用ということなら大抵のことは熟せるつもりだ。君は魔術士に偏見を持っているようだね。私たちがよくお高く留っているから、ふんぞり返らないか心配なんだろ。安心しておくれ。私がパーティーに加入したあかつきには特別扱いは無用だよ」


「それは良かった。悪いね、疑ってしまって」


「構わないさ。リーダーとしては当然の懸念事項だと思うよ」


 また一人挙手があった。青色のくせ毛、黒い肌。そして槍使いのようだ。


「第七級冒険者のガイだ。記載がなかったのを理解した上で聞くが、キキョウは『』を得ているか」


「それはアタシも知りたいねえ」


 その隣に座っていた、赤髪の女性が言った。

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