自分の目で確かめるのも一興かなって

 私たちは食堂を出ると、冒険者組合に戻った。


 ガーメイルの仕事は私のような新入生の試験官と、試験は通ったけどまだまだ戦闘技術に乏しい人たちの戦闘指南役だ。午後ももちろん仕事の彼は広場の方へと向かっていった。


 私は今朝対応してくれた眼鏡のお姉さんのところに並んだ。

 愛想はないのだけど、冒険者たちからは人気のようだ。男が多いのだから、美人の前では当然の摂理だった。


「試験の結果を聞きにきたよ」


「キキョウ様ですね。適性試験は合格でした。おめでとうございます」


 やはり抑揚よくようなくお姉さんは言った。


「それはよかった」


「お手数ですが、また談話室の方に進んでください。そちらの方では冒険者組合における規則の説明や貸与たいよ品や贈呈品の支給、筆記試験の解説などを行います。必ず受講しなければ、冒険者組合が管理する依頼を受けることが出来ません。ただ、この後の都合が悪い場合は後日に振り返ることも出来ますが、どうされますか」


「今からしてほしいな」


「左様ですか。であれば、私についてきてください」


「お姉さんが対応してくれるの?」


「そうです」


「へえ、お名前は?」


「申し遅れました、マリーと言います」


「マリー、よろしくね」


 談話室での説明は退屈なものだった。ガーメイルのようなオッサンではなく、美人なお姉さんが説明役ということだけが救いだ。


 要点を抑えると、冒険者組合は戦闘能力の持たない一般市民たちとの仲介業務を行っている。それは魔境や魔宮産の素材の回収が主である。あるいは指定地域の調査や魔物の間引きなど、組合が直接依頼を設けている場合もある。兎に角私たちは内容に沿った依頼を達成する事で報酬が貰える。


 それともう一つ、組合に対する貢献度が存在するらしく、それに応じて等級が上がる仕組みになっている。


 等級とは、冒険者が自分に見合った依頼を選別するために設けられた制度であり、より高い等級が求められる依頼は受注することが出来ない仕組みになっているようだ。十等級からはじめ一等級まで存在する。つまり私は十等級ということになる。この等級を上げなければ、行動できる範囲も広がらない。


 ただし他の冒険者とパーティーを組んだ場合、その中で一番大きい等級に準ずるため、自分の等級よりも上の依頼を受けることが出来るようになる。貢献度は自分の等級相応のものとする。


 つまりパーティーを組んでよりむつかしい依頼を受けようとも、ランクアップの速度が上がるわけではないということだ。


 探索した先で得た戦利品などは当事者のものとなる。また冒険者組合は勤務中にがあっても一切の責任を取らない、つまり死んでしまっても自分の責任ということである。


 細かな説明などは書庫に保管されたマニュアル書に記載されており、それの熟読を義務付けるものとする。記載の要項に抵触した場合、知らないでは通らない。注意すべき点、あるいは必要最低限の部分はこんなところだった。マリーは常に一定のトーンで話すから眠くなる。


 貸与品として等級を示す鉄のプレートが渡された。


 冒険者としての身分を示すものでもあるため、特殊な刻印が施されている。竜と剣の刻印は知らない者はなく、冒険者としての象徴を表すものである。背面には私の名前と等級が刻まれている。


 このプレートは再発行に罰金が必要らしく、冒険者を引退するときは返却が求められる。依頼を受けるときも提示が必要だ。贈呈品は少量の冒険に役立つ物の詰め合わせだ。傷薬や携帯食料、水筒、ナイフが背嚢に入っている。あとは書かされた契約書の原本、筆記試験の答案なども返ってきた(私の筆記試験の具合に関しては、わざわざ特筆すべくもないのである)。


「キキョウ様はおひとりで活動予定ですか」


「まさか。仲間を集めるつもりではあるよ。私は非力だからね」


「でしたらパーティー募集用の掲示板がございますのでご活用ください。コチラの紙の項目を埋めていただければ、私の方で掲載させて頂きますが」


「じゃあ、お願いしようかな」


 私に何が出来るのか、あるいは仲間に何を求めているのか、冒険者活動をする上での目標地点などが設定されている。あまり高望みしたってしょうがないだろう。色々な人と関わるのもひとつの経験だ。


「あの、これではかなりの応募が予想されますが」


「そうなの?」


「魔術士というだけで引く手あまたですから。仲間に求めるものは『特になし』と書かれては皆が応募できる事になります」


「まあ、それならそれで自分の目で確かめるのも一興かなって」


「でしたら明確に期限を設定しましょう。とりあえずは明日の正午まで。それでも十分応募があると思います。冒険者は朝方ここにやってきますから、パーティーメンバーが足りていない人たちは必ずこれを見る」


「その辺はマリーに任せるよ」


「分かりました」


「じゃあ私は明日の正午にまた来たらいいね」


「ええ、それでよろしいかと」


「分かった」


 談話室を出ると、グッと背伸びをする。


 本当は今日から冒険者として活動していこうと思っていたけど、あまりにも時間が微妙すぎるから止めておくことにした。


 今日は街の書店でも寄って読書の日と定める。


 しかし、書店を探すのに苦労とした。

 幾つかの冒険譚を買い込み宿に帰る。


 冒険者になった事をミランダに報告すると「そうだろうね」と言った。今から読書をするから御供に珈琲を淹れてくれと注文した。「厚かましいやつだよ」と愚痴りながらも用意してくれる。


 部屋に戻ってからは、珈琲の香りが充満した中で読書に没頭した。やがて私は、物語の渦の中でまどろんでいる。

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