私にはよしておくれよ

「本日のご用件は」


「冒険者に成りたいんだけど」


「でしたらこちらを記入してください」


 カウンターに置かれた羊皮紙ようひしには、私の個人情報と冒険者における必要な情報を記載する欄が書かれていた。


 それらを順に埋めていく。冒険者として、どういう役割が出来るかというところには、盾役タンクと書いた。もちろん、その用途に魔術を用いる事も。受付の女性は、ジッと私の書く文字を追っていた。表情の変わらない美人な女性だ。眼鏡をかけているからか、知的な印象があった。


「お預かりします。では適性試験を行います。冒険者として問題なくやっていけるかを見るための試験です。半刻ほどしたら、裏の広場にいらしてください。持ち物はありませんが、武器を使用するのであれば、それをお持ちください」


 受付の女性がそう告げると、私はサッサと列を追い出されてしまった。思ったよりも淡白な扱いだ。しかし、後も控えているから忙しそうだった。仕方がないので、暫くの間時間を潰すことにした。


 併設された酒場でミルクを貰った。本来なら書庫に行くのだけど、今はまだその資格がなかった。時間になってから裏手の広場に向かうと、そこには各々鍛錬たんれんに励んでいる冒険者たちがいる。一人、私に向かって手を振っている男がいた。背中に大きな斧を背負っている。スキンヘッドの頭が印象的で、簡単な皮鎧に身を包んでいた。近くで見ると、頬のあたりに消えそうにない傷があった。


「おまえがキョウか」


「そうだよ。イントネーションが違うけどね」


「そんなことはどうでもいいんだ。何をするかは聞いているな」


「冒険者としてやっていけるかどうかを見てくれるんだっけ」


「その通りだ」


 大男は腕を組んだまま、大きくうなずいた。


「俺はガーメイル。その適性試験の担当官だ。やることは単純で俺と模擬戦闘を行うこと。そのあとは談話室に向かって筆記の試験がある。それだけだ。特に俺との模擬戦闘はその場で合否を伝える。別に勝てというわけではなく、ただ魔物と戦っていくだけの力量が示せればそれで構わない」


「よろしく、ガーメイル。委細いさい承知したよ。物分かりは良い方でね」


「そうか、俺も物分かりが良いやつは嫌いじゃない」


「それは良かった。私も冒険者に成れるかどうか不安でね。ゴマの一つや二つスることが出来たのならありがたいところなのさ。正直の話だけれど」


「残念ながら審査に影響は与えないが、それで十全に振舞えるのならそうするといい。お前には必要なさそうだが」


「そんなことはないよ。そんなことは」


盾役タンク志望の魔術士と聞いている。間違いはないか」


「間違いないよ。私は地属性のルーンを刻んでいる。特に学んできた流派が防御魔術の多い流派でね。仲間を守ることに長けているというわけさ」


「地属性だと? あまり聞かないな」


「魔術士がそもそも秘匿性が高い存在だから、そんなに数がいないというのは大前提の話だとしても、とりわけ地属性は地味でね、基本的に一つしか刻むことの出来ないルーンをわざわざ地味な属性に使う奴がいないというわけだよ。あるいは、攻撃手段として今一つであることも周知の事実さ。悪くはないんだけどね、地属性はどうしても攻撃に実体を持ってしまう。地面を隆起させたり、鋭利な岩を飛ばしたりね。そうすると、それらを破壊できる手段を持つ相手には効果的じゃなくなる。逆に火や風のような実体を持たない攻撃が出来る属性は、相手が高い攻撃力を持っていても対処し辛いだろ。そういうわけさ。結論は状況次第、使い方次第だとは思うのだけど、兎に角不人気な理由はそんな感じだよ。私は結構好きだけどね。それは後から付いてきた感想だけど」


「なるほどな。少し楽しみになってきた」


 ガーメイルは背中にあった戦斧を構えた。その威風堂々たる姿は歴戦の戦士を思わせる。私は一つ言っておかなければならない事に気が付いた。


「その物騒な得物を振るうのは勝手だけど、私にはよしてくれよ。魔術士は得体の知れないところがあるかもしれないが、そんなものが身体に当たったら、いともたやすく消し飛んでしまうからね」


「お前は敵に向かっても、そう言うのか?」


「もちろんさ。それで止めてくれるのなら一番じゃないか」


「食えないやつだな。安心しろ、ちゃんと手加減はしてやるから」


「それは良かった。ホッとしたよ」


「……では模擬試験を始める。初手はお前からだ。好きにするといい」

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