第20話 想定外

 また、バックで15mまで近づく。

 そこで、亜美さんが車を降りた。車にへばり付くように立つ。魔物は動かない。車スレスレはゾーンの有効範囲のようだ。

 助手席のヒナタさんが、運転席に移動。

 姉ちゃんは、前回と同じ、半身乗り出す。

 銃を構えた。

 ここからが、違っていた。

 撃った弾丸は同じ散弾、でも音が、

 特に当たった音が凄かった。

 魔物の半数以上が吹っ飛んだ。姉ちゃんを安定させるために支えてた俺と、俺が抱えているアイちゃんが触れた状態で発砲。

 アイちゃんの『ブースター』が炸裂した。

 魔物は慌てている。

 姉ちゃんと亜美さんも、こんな凄いとは想定外、一瞬計画に間ができた。

 が、亜美さんがすぐに動いた。

 残りの群れへ斬り込んで行く。

 姉ちゃんは、優勢で行けそうなら車から降りて援護する予定。

 最初の魔物を亜美さんが、斬り捨て、

(えっ?!)

 アレ?!

 ガードに入った魔物の腕ごと斬り捨てる予定だったが、

 跳ね返された。ゴムのように、亜美さんの剣を弾いた。

 想定外だ。

 飛びかかっていた亜美さんがバランスを崩す。

 そこへ、魔物がもう一方の手で攻撃してきた。

 間一髪!

 動きは亜美さんの方が上だったので、もう一方の剣で防げた。

 しかし、剣では倒せないと分かると、

 撤退の合図だ。

 ヒナタさんが車を出した。亜美さんも追いかけて走る。

 それを魔物が追ってきたが……やはりすぐ諦め、また門の守りに戻った。

 亜美さんも足を止め、

 非常時用に所持していた石を取り出し、魔物に投げた。

 顔面にヒット!魔物が消滅した。

(ありゃ?!)

 これも想定外?石でどの程度効果があるか見たかっただけで、倒せたのは想定外。

 途中で止まった車まで駆け寄ってくると、

「よし、食事にしよう!」

 一時撤退となった。


 食事して、戻ってきた。

「スマン……想定外だ。」

 魔物集団が守る場所へ、バックで近づきつつ、運転席の亜美さんが謝った。

 サチちゃんが能力で確認し、今、亜美さんの視界にも入った。

 魔物の数が復活している。50体に戻っている。

「アイちゃん、ごめんな。」

 ブースターで半数以上減らしてもらったのが無意味になったと、寝ているアイちゃんに謝った。

 でも、心の中では想定内、そんな風にも見える。作戦決行に迷いがない。

「任せて下さい、ヒットアンドアウェイ作戦2」

 乗り気の姉ちゃん。

 そして、また15mまで近づいて、止まった。

 亜美さんが降車、ゾーン有効範囲のスレスレを移動。助手席のヒナタさんが運転席へ、ここまでは一緒。

 このあとブースターで半数減らしたアイちゃんは寝ている。

 前回半身だけ身を乗り出した姉ちゃんが、今回は完全に降りた。

 車の屋根に上がり、腹這いになる。車の上から伏せ撃ちする準備だ。

 魔物は動かない。感知されていない。

 姉ちゃんは、大事なことを3つ言われた。

「焦らないこと。」

「逃げる時、ライフルは落としてもいい。自分は落ちるな。ライフルは拾ってやる。」

「落ちてしまっても慌てるな。必ず駆けつけて抱えて逃げてやる。」

 惚れ惚れする言葉だった。

 彼氏がいないという亜美さん。彼女なら出来そう……何て言ったら怒られる?今の時代ならありかな?

 姉ちゃんの、射撃開始!

 一発で3体を仕留めた。散弾が命中したのはその倍以上、でも煙になった3体以外は戦闘可能、軽症のようだ。

 車に向かってきた。

 亜美さんが飛び出す。

 敵を引き付ける動き。左手にバッグ、その中身を1つ、投げつける。

 石が顔面にヒット!1体が煙になった。

 そのまま、車と別方向へ走る亜美さん。防衛大臣の屋敷の向かいの塀に飛び乗る。

 ここで、亜美さんではなく車に魔物が迫ったら、逃走するよう指示されている。

 亜美さんの方へ、一斉に魔物が動く。

 姉ちゃんの、車上からの2発目!

 また3体を消した。

 注意が車に向くが、亜美さんの投石で、また標的が移る。食事でここを離れた時、石をたくさん拾ってきた。作戦は順調だ。

 魔物の腕がゴムのように伸びて、次々亜美さんを襲う。上手くよけているが、ちょっと厳しい。石を投げる余裕がない。

 姉ちゃんが連射、しかし、一度に2体程度しか倒せない。魔物集団が亜美さん側に行ってしまったこともある。少し遠くなってしまった。

 バックが苦手な運転席のヒナタさん。

「近づかなくていい」と指示を受けている。いつでも逃げれる準備だけが、彼女の役目。

 亜美さんが道路へ戻ってきた。

 一斉に狙われる。

 しかし、敵が車に近づいた。

(上手い!)

 姉ちゃんが狙いを定める。

 それを、俺が止めた。

 姉ちゃんの右足を引っ張って止めた。

 その後で、

「亜美さん、上へ!」

 こちらを一瞬確認し、亜美さんが塀に飛び乗る。

 車上から地上に降りていた姉ちゃんが発砲。

 さっき一度だけ聞いた、あの凄い音がした。

 アイちゃんのブースター!

 我々の食事中に目を覚ましたので、ミルクをあげた。またすぐ眠ったアイちゃんだったが、

 さっき目を覚ましたので、また行けるかもと、姉ちゃんの足を引っ張って知らせた。

 見事に決まった。

 残り11体。

 ブースター射撃で混乱している隙に、亜美さんの石が2体の頭を潰した。

 これで9体、ここからは気合。

 姉ちゃんは逃げずに弾丸を装填、亜美さんと連携して……を繰り返し、

 門前の、魔物を一掃した。

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TRICK er’ S(トリッカーズ)/異世界(がーるず)サバイバー 草石 仁王 @nioh9314

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