第5話 魔女狩り

その世界には、剣と魔法の学園がある。

学生達は国を守る為に学び、力をつけ、時に友情を育み、やがて戦いに出る。

これはそんな世界での話。


街外れの森の奥、岩山の洞窟には魔女が住んでいる。

討伐に行った者は帰ってこない。

しかしごく稀に、神の気紛れか、容易く魔女を葬る事が出来るという。

近づくな、情けをかけるな、一気に攻めて、骨の髄まで燃やし尽くせ。

何度殺しても、魔女は蘇る。


その地に伝わる伝説を覆す為、学生の有志で構成された討伐隊が岩山へと向かう。

律儀な事に魔女は毎日散歩の時間を決めていて、今なら洞窟にいない筈。


森が途切れ、ぽっかりと口を開けた洞窟の前で、いくつかのグループに分かれて結界を張る。


「少しずつでいい、何度でも攻撃しよう。

 物理攻撃なら結界が守ってくれる。

 奴の身体が光り出したら散り散りになって攻撃を避けるんだ。」


リーダー格の若い騎士が仲間達に告げる。

最も剣技に優れた騎士がおとり役を買って出た。

全員が結界の中にいては、魔女を取り逃がすかもしれないからだ。


自信に満ち溢れた彼の姿に鼓舞されて、他にも数人が結界の外で引き付け役となった。


程なくして魔女は現れた。


年の頃は二十歳前後に見えるが、実際はその数百倍も生きているのだろう。

眩いばかりの白い肌、薔薇色の頬、柔らかに巻いた金髪、全てを見通すかのように澄んだ青い瞳。


肉感的な身体にぴったりと丈の短い服を纏い、薄紅の唇には悪戯な笑みを浮かべて。


地響きを立てて森から姿を現した彼女の姿に、誰もが絶句する。

……大きい。


「行くぞ!!」


若い騎士の声に、呪縛が解けたように皆それぞれの持ち場につく。

騎士は雷を纏わせた剣を構え、魔道士は詠唱を始めた。


無防備に歩み寄る魔女に何度も斬り付け、雷を撃つ。


時折、気紛れに、魔女が拳を振り下ろす。

口元の笑みはそのまま、瞳だけをギラリと光らせて。

思わず身を竦めた少女の目の前で、巨大な拳が弾かれる。

結界のおかげで届かない。

気を取り直して再び雷撃を放つ。


少しずつ、少しずつ、魔女の力を削いでゆく。

削いでいる、筈だ。

魔女の表情は変わらず、魔法もまだ使ってこない。

緊張の糸が焼き切れそうだ。


「くらえ!!!」


始めにおとり役を買って出た騎士の剣が、魔女の露な太腿を一閃。

赤い筋が横一文字に走った。


魔女の動きが止まる。

血は流れない、倒れる事もない。

ただ身をかがめ、斬られた脚をまじまじと見て、それから、

ガラスを引っ搔くような甲高い笑い声を上げた。


「やってくれたわね!痛かった!すうーっごく、痛かったんだからあ!」


とてもとても楽しそうに頭を抱えて。

とてもとても楽しそうに、自分に傷を負わせた騎士を値踏みするように見た。

風も感じさせず、ふわりと手が伸びて…逃げ場が無い、彼を掴み上げた。


「お返しよ。それと、私にここまで近づいたご褒美…魔女にならせてあげる」

妖艶な笑みを浮かべ、騎士の左足を太腿の中程から摘んで、ゆっくり、ゆっくりと外側に。


「っ…やめろッ!やめ、あああああああああああああああ」


ごきりと嫌な音がした。

騎士の身体からぐったりと力が抜けても、そこで終わる筈もなく。

もう一本……。


そこで興味を失ってくれれば良かった。

けれど魔女は言ったのだ。

魔女に「ならせてあげる」、と。


その日、討伐隊は帰還しなかった。


今日も討伐隊が森へ行く。

魔女の隠れ住むという洞窟へと、鎧や武器の耳障りな金属音を鳴らしながら進む。

やがて最深部に辿り着き、汚らしいローブを着た人物と遭遇する。

その人物は何も言わない、喉を潰されたから。

その人物は逃げられない、脚を折られたから。


彼らはただ、それが何者か、男か女か、確かめる為に近づく事もできず。

不気味に蹲るだけの「彼」に、魔女よ滅びよと、一斉に武器を振り下ろす。

それが何者か、男か女か、わからないただの肉塊になるまで潰して火をつける。

そうして歓声を上げながら街へと戻り、歓声をもって出迎えられるのだ。


街外れの森の奥、岩山の洞窟には魔女がいる。

討伐に行った者は帰ってこない。

しかしごく稀に、神の気紛れか、容易く魔女を葬る事が出来るという。

近づくな、情けをかけるな、一気に攻めて、骨の髄まで燃やし尽くせ。

何度殺しても、魔女は蘇る。


その世界で語り継がれる伝説の、これが一つの真相。


【完】

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夢中劇場 基維ひなた @hinamo

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