第13話 女子、画策する。

《ナンセンが、奔放な都市になった。ゲームのなかでナンセンは清廉潔白な紳士と淑女の村であったが、あちらこちらでナンパや露出、おかしなプレイが横行し、それを皆が温かく見送るような大らかな人々が溢れるようになった。明らかにクソゲーの舞台とは異なる世界が構築されたといえよう。しかし、まだまだ気を抜くことは許されない。なぜならこのヨルドという星の上には、麗しの美少女アストリットを悪役令嬢呼ばわりする候補がまだ5人もいるからである。》


 今から12年前…お父様とお母様自分が一番最優先だった人と一緒に来た時は、一面の荒地と崖、荒れ狂う海にでろでろした精霊&妖精軍団、ショタコン吸血鬼と引きこもりエルフエロフご一行しか見当たらなかったのに…、ずいぶん、めちゃめちゃ、ド派手に変わった…このナンセン。


 そびえたつシンボルタワー詳細表示不可、モザイク無しの看板、町行く自由人裸族に各種パフォーマーいわずもがな、野外公共マッチングスペース青カン大歓迎、モンスター化した魔法カスを詰め込んだダンジョンストレス発散場、各種アミューズメントパチスロ麻雀カード他に余った食材を使った食べ放題ミールサービスフードロス対策、精霊&妖精軍による入浴サービス全身なめまわしその他もろもろ……様々な性癖に対応した、どんな人でも必ず興奮を体験できる夢の楽園としてノシュクルイチの観光名所と相成ったのである!!!


 も~村人気がすごくてさあ、王家への献金もハンパないんだよね!!

 それだけでも王様の印象はいいのに、まさかの本人直々にお忍びで遊びに来てたりしてのぞき放題とかさあ!!

 前王様なんてここで腹上死しちゃって大変だったんだよ?!

リョナーの極み精霊にお願いして乗り移ってもらって、わざわざ王都で倒れてもらったりして…いやー、あの時はやばかった!!うちの一番の売れっ子泡姫バブルプリンセスに要人殺害の容疑がかかっちゃうとこだったよ!!


 まぁ、今の王様はお父様と親友だし、同い年で若い上に自分が攻めたり実践するよりも眺めてうっとりしたい人だからね、しばし平和な治世が続くと思われる。


 ……思われるのだけれども!!!


 最近ナンセンの人気を妬んで良からぬことを計画するやつが…いる!!


 王様と懇意にしていて、誰にでもへらへらと笑顔を振りまき適当な返事をかましては丸く収めてしまうお父様ナンセン辺境伯をどうにかして失脚させようと目論む陰険根暗へタレ乙・・・アルフだよっ!!!


 お父様のママンお母様ぬっころ展開がなくなったから失脚の道もなくなったよね~♪ってさ、一安心してたんだよ?!ナンセンが荒れなければアルフもここの辺境伯に抜擢されることはないだろうし、縁が切れた人としてスルーでいける…そう思っていたのにさ!!


 お父様人気に嫉妬の炎が燃え上がり、どうにかして人気者の座から引き摺り下ろして自分がその地位に納まろうとあれやこれやと情報収集をしている真っ最中とかもうね、ホント勘弁してー!!!

 なんやねん!この嫌いな人の事はとことん知り尽くして全部に突っ込んで言いがかりをつけて徹底的にこき下ろそうという流れは!!


 ……アルフ・ノルトヴェイトは、本っ当にタチが悪くて、攻略対象に選ばなくても他の攻略者ルートに図々しく乗り込んでくるキャラクターなんだよね。あれこれ詮索してはいらんおせっかい焼いてそそのかしてさあ。並大抵のことではその縁を断ち切ることはできないらしくて…ゲームの強制力なのか、聖女を呼び出す流れが…消せそうにない。はぁ~、頭痛い……。


【アナくれ】は、数々のおかしな性癖をもつイケメンと聖女が悪役令嬢に邪魔されながらプラトニックラブを貫く乙女ゲー。シナリオを進めると、現代日本のオタ街に転生を目論んだ聖女が星を大爆発させて二人の愛よ永遠に…で終わってしまう。


 聖女は『異世界転生』という技術を知っているラノベ脳乙なので、スキル【ソウゾウムソウ】で気軽に世界を滅亡させちゃうんだよ。つまり、聖女が召喚されてしまったら、この星が滅ぶルートが発生する可能性が非常に…高い!!


 聖女を召還するのはアルフなんだよね。お父様の人気を妬み、恨みをつのらせていたところに失脚という大喜び案件が舞い込んで、ノリノリで後釜に居座ったはいいけれど政治全般がうまくいかず、その責任を前任者とその娘にマル投げして自分の無能を棚に上げて非難ゴーゴー道に邁進まいしんし、どうにもならんわと腐った結果、藁にもすがる気持ちで『すべてをリフレッシュさせる』という伝説の聖女を呼び出すことを決め、破滅の元凶が能天気にこの地に降り立つことになるという。


 このところのナンセンの人気急上昇&さらに加速中は明らかにアルフの心を逆なでしているわけで、そろそろ手を打っておかねば聖女召喚が早まってしまう可能性すらある。


 ゲーム内で聖女が召喚されたのは・・・私が15の年だ。

 聖女の召喚は、魔力の消え去る日(青い月の出る晩)と魔力が放出される日(白い星の出る日)が重ならないと行うことができない、とされている。N極とS極が弾きあうのを無理やりまぜたら大爆発が起きるみたいなノリで世界のゲートをこじ開けるんだけど、実は重ならなくても大丈夫だという事実があったりして。……バレたら大事故になる事必至!!!


 神の作ったシステムにひびを入れるのは愚かな行為って考えが根付いてて、部分的な知識しか伝承されていないからよっぽど大丈夫だとは思うけど…。やっつけ仕事が横行しているこの世界のことだ、何がきっかけになって無理やりねじ込んでくるかわからないっていうか。

 怒り心頭が災いして大暴走した挙句、ひょんなところから召喚の仕組みを解明しちゃって即聖女呼び寄せ…なんて事になったら目も当てられないよ!


 できればアルフをつぶしておきたい。

 とはいえ、殺めてしまうのもよろしくない。ヘタに怨恨を残して精霊化してしまったらじつに厄介だ。


 拗らせきった大人のクソへタレをどうにかして改心させる方法……。


 アルフはわりかし毒っぽい親に育てられて性格が捻じ曲がってしまったから、生き様をがらりと変えるような展開がないと方向転換は難しそうなんだよね。

 完全に自分の行動パターンを『悪を見つけてそいつを成敗=正義の証/自分の存在意義』みたいに決めちゃってるから、ある意味すべてをぶっ壊してイチからはじめることができる聖女がぴったり…いやいや!!たった一人のために星を犠牲にするわけにはいかない!!


 そもそも、几帳面すぎる性格が問題なんだよ。やることなすこと全部チェックする親に育てられたから仕方ない面もあるんだろうけど、毎日きっちり日記をつけていて、そこに詳細な恨みを書き込んであって…読み返しては書いた時の怒りを何度も噛み締めて、いつ仕返しをしてやろうかと目論んでいてさあ。


 お母様をおかしな道に引き込んだのもアルフの画策だったりするんだよね…、地味にイケメン連合のパンフ送ったり無料チケット渡したりお父様の羽目をはずした写真無記名で送りつけたり。几帳面で底意地の悪い計画をさせたら天下一品なんだよ、この人は。


 友達が一番仲のいい人は誰って聞かれた時に自分を選ばなかっただの、人気の男子ベストテンに入らなかったのはぶさ男の裏工作のせいだだの、自分のナニが小さいことを林間学校で指摘されただの、自分をうっとり見つめていた女子がもっさい男と付き合っただの、もうさあ、いちいち書き留めてしっかり思い出すようなことじゃないじゃん……。


 私なんか未だに友達いないし、誰にも選ばれないし、人気投票なにそれおいしいのって感じだし、この青い目をキモイって言われてはぶられたし、憎々しげに見られることなんか慣れっこになっちゃってるんだよ?

 なんかさあ、めっちゃ贅沢じゃない?友達いっぱいいるくせに!!まあ、比べるようなもんじゃないんだけどさあ!!


 結局…、人生なんて、自分の体を使って楽しめたもんがちなのに。


 いちいち気分の悪い部分に反応していたら、気分のいい部分に気がつけなくなるって…なんで気がつかないんだろう。

 自分の好みが他人にとっての不快なんてことはよくあることだし、誰かの愉快が自分の不愉快という考え方は…すごく、残念というか…悲しいよ。喜んでる人をぶちのめしてうれしくなるなんて…どんどん悪意を広げて行くだけじゃない?


 人は人、自分は自分。

 自分に手が届かないものを、他人が余裕で扱っているのを見て恨むのは…筋違いだ。


 自分が手に入れたいと願うのであれば、自分が努力をして手に入れる過程を楽しむべきだよね。悪意を向けられたからと言って、それを倍返しにしてスッキリしていたらいつまでたっても終わらないじゃない。

 この世界にはたくさんの人がいるんだから、キモイって言う人としか遊べないわけじゃないんだからさ、別の優しい人を…気の合う人を探しにいけばいいんじゃない?


 全人類に好かれるなんて‥無理だよ。

 ……一人でも、大丈夫だよって、好きだよって言ってくれる人がいたらそれでよくない?


 この人…こんなんだけどさ、ゲームの中ではとても三十代には見えないピュアキャラで、わりと人気はあったんだよね。

 尻の下まで伸ばしたウグイス色の髪の毛を聖女の作ったミサンガで留めて、コレが切れたら一緒に星を爆発させよう、新しい世界で出会うまでは清らかな関係のままでいるからねと誓いを立てるような…最後まで手も握らないで満足しちゃうような真面目さもあるっちゃああるんだよ。

 基本自分に甘いから、好きになった人にもめっちゃ甘くて優しすぎるし、繊細で傷つきやすいから守ってあげないと的な流れもあってさ…。


 今は恨みが頭の中のおおよそを占めているから当然フリーだし、まわりにはおっさんと気に入らないと認識した同世代ばかりで出会いの要素が微塵もない状態だけれども。

 ……一人でいいんだよ、誰か…アルフに要らんことを考えさせる時間を持たせないような、不快感を与えずに振り回してくれるような存在がいれば…って!!


 …そうだ、アルフには、とびきり陽気でがさつな誰かを紹介したらいいんじゃない?!


 幸いアルフは見てくれは最高だし、人見知りのくせに寂しがり屋のかまってちゃんで、初対面の人には気を使ってしばしいいヒトづらして様子見をするクセがあるから、知り合っていきなり即閻魔帳行きと言うことはない。

 おっぱいの大きなロリ臭のする元気はつらつ女子を送り込めば…そうだなあ、うちの精霊たちを思いっきり乗っけて送り込もう、そしたら雰囲気に流されて既成事実を作ることだって可能だ。正義感の強いアルフのことだ、おそらく己の信念に基づいてきっちりと一夜の過ちの結果の責任を取ること間違いない!!


 よーし、まずはうちのパワフル精霊陣エロネタヒャッホゥ民を収集して、人材探しに出会いセッティング、シチュエーション固めに体力の調整、細胞の活性化に…よーし!!俄然やる気出てキター!!!


 私はこぶしを握り、青い空に向かっていい笑顔を向け!!


《…一人丘の上で物憂げに考え込んでいたアストリットは、華奢な手を握りしめ、空を見つめて…笑顔を作った。この恐ろしいまでの己の運命に翻弄されなければならない宿命…不安も多いことだろう。しかし、それを口にできるような友達は…いない。孤独な少女は…遠くではしゃぐ同級生達を見下ろしながら、無理やり笑顔を作っている。》


 おうふ…ナレすけの勘違い実況が始まったみたい。

 この人は状況を見ることしかできないから、ぼんやり考え事をしている私の胸のうちはわかってないんだよね~。たまに盛大に思い違いをしては勝手に喜んだり考察したり落ち込んだりしてて、なんか悲劇のヒロイン的な感情にどっぷり浸っちゃって盛り上がっちゃってはおかしな言葉遣いでナレーションを始めてさあ、思わず笑っちゃって…落ち込んだ気持ちが吹っ飛ぶこともあったりするという。


 …ああなんだ、しばらく黙り込んでたのは私が孤立しているのを見て…悲しみに浸っていたからかぁ。ふふ、相変わらず……やさしいね。


《アス……さびしいよね、つらいよね、一人ぼっち…ああ、今すぐ抱きしめて大丈夫だよって、わかってくれる人はいるんだよって伝えたい…なんでみんなわかってやれない?自分のことばかり優先するくせに、他人が自分を優先するとここぞとばかりに攻撃して!!ドレほどアスたんがみんなのためにがんばってるのか知りもしないくせに、どれだけ傷ついて笑顔を向けてるかしらないくせに、自分勝手すぎるじゃないか!!あーもー!!なんで、なんで誰も寄り添うことができないんだ!!なんだこの世界!!馬鹿じゃん!!はぅ、はぅうううう!!》


 ・・・ナレすけが、怒りを爆発させている。

 どうやら少し前に…私が同級生達にこっぴどくいじめられたのを思い出しているらしい。


 何とか意思疎通の兆しが見えてきた同級生たちその他もろもろのみなさん、授業参観や運動会なんかのイベントの時はなかよしを装ってくれるんだけれど、普段は…完璧に、壁ができちゃってるんだよね~。

 せっかくハイとイイエ以外にもゆっくりだったらぼそぼそと話せるようになったのにさ、楽しく愉快にスピーディーにしゃべれない私を蔑む同級生は多くてさ!悪意にビビって何も言い返せない私に全部の責任押し付けて逃げる子も多くてさ!黙り込んだ私に思い込みのフォローという施しをして満足する子とかもいるしさ!媚びを売るためにでろんでろんの不満を抱えて私と一緒にいるようなのもいるしさ!!


 も~さ、ホント子供時代って…大人になり切れないくせに背伸びする世代ってほーんと、めんどくさい!!あと打算しか考えない大人もね!!


 でも…私には、大好きな人たちがたくさんいるからね。


 ……だいじょうぶ。

 仲間外れにされたって、ひどいことされたって、平気だよ?


《ああ、アストリット…君の悲しみが伝わってくる。無神経でドストレートな子供たちの声に傷ついている君の心が心配でならないよ。今、君は一人ぼっちで丘の上にいるけれど…決して、孤独なんかじゃないんだ。僕はいつだって君を見守っているんだからね?!君が見ている世界を共に望んで、同じ景色を見て、一緒にこの星の上で、未来に続く今を感じている。ああ、愛らしいアストリット。君は一人じゃない、僕がいる!!傷ついた君の心を思うだけで…僕は、僕だけは、君と一緒にいる。いつだって一番近い場所で君を思うよ。がんばれとか、元気を出してとか、そんなことは言わない。なぜなら、君が一生懸命頑張っていることを知っているから。君は、今、十分頑張っているんだよ。今はただ、君の頑張りに気が付いていない人がたくさんいるだけなんだ。これからたくさん、君の事を理解して、愛してくれる人はたくさん現れるんだよ。君が、今の優しさを持ち続けていれば、必ず出会える……》


 ああダメだ…ナレすけが自分の言葉に酔って……ドハマりしている!!


 この人ホントこう、ええかっこしいというか、良い事を言おうとするというか、なんていうかちょっと微妙に足りないというか残念というか決まらないというか大暴走しがちというか!!


 …でも、……でも、私は。


 ナレすけの、まっすぐな気持ちを受け取るの……嫌いじゃ、ない。


 …ああ、今、私……、ナレすけに、山崎要やまざきかなめという青年の真心に…抱きしめられてる。私を思う優しい気持ちに、包み込まれている……。


 ……私、寂しくなんか…ないよ?


 全部見ているあなたがいるもん。

 私には…ナレすけがいるもん。


 私の頑張ってるところも、落ち込んでいるところも、みっともないところも、全部見てきたあなたが。


《アストリット…ダイスキ、大好きだよぉおおおおお!!!泣かないで、泣いちゃ、ヤダあああアアアアアアア!!!神さま!!どうかアスを、アスをお守りくださいぃイイイイイいい!!!!》


 あなたが、私を、好きだと…言ってくれるから。


 私……大丈夫だよ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る