第14話 女子、悪役令嬢とおさらばする

「アスサマー、一緒にあそぼ!!」

「あすたま、おりがみおしえ、て?」

「あーん、あすさまー、おしっこでちゃったー!!!」


 いつものお気に入りの丘の上でのんびりとしている私のまわりには、お友達…にはちょっぴり若い子供達が、ひいふう、みい…五人ほど。

 春に新入生入学準備のお手伝いをして以来、ちびっ子たちになつかれてしまって…お昼休みに囲まれるようになったんだ。


 学校に入学したばかりの、みんな五歳児。ずるい事や意地悪な事も考えつかないような、ピュアな子供達ばかりですごくかわいいの!!

 私が今年卒業の最高学年という事もあり、上級生のお姉さんとして尊敬のまなざしを向けてくれるうえに、ありがたくもかなり相当慕ってくれていて、最近毎日学校に来るのが楽しくなっているんだ~♪


 10歳年下だから、お友達というよりは妹や弟のような感じなんだけど、子どもってあっと言う間に育つでしょう?五年後に親友になってくれたらいいなという気持ちで精いっぱいお世話をさせていただいているというか…うん、ただ単に、かわいいなって思う部分の方が大きいかな?


 私はほら、一人っ子で、いつも大人ヘンタイの中に一人子供がいるような状態だったから、小さい子純真無垢な存在が…すごく新鮮で、楽しくて、愛おしくて!シリエもこんな気持ちでお漏らしした私のお世話をしてたのかなー、なんて思ったり。まあ、私は頭のにおいくんくんはしないけれども。


「アストリット様、次の調理実習…一緒に行きましょう」

「……。リーネも、いく」


 便所紙の妖精に折り紙を折ってもらいつつ、生活魔法で手早くお漏らしの処理をしていると、声をかけてきた…女子が、二人。


「呼びに来てくれたの?ありがとう!!」


 同級生のマグニスさんと、五つ年下のリーネア…この二人は、数少ない私の大切なお友達なんだ!


 実は二人とも、【神の呼学園】を退学して途中入学してきた子供で、仲間外れにされているのを見かけて…声をかけずにはいられなくって。それ以来縁ができて、仲良くしてもらっているというわけ。


「ごめんね、もう授業にいかないといけないみたい。みんな…また明日、お昼にね!!」

「「「はーい!!」」」


【瘡蓋はがし】スキルを持っていたマグニスさんは二年前、【貧弱な産毛】スキルを持っているリーネアは一年半前にここにやって来て…なんというか、同じ境遇で苦しんでいる人を助けたいという気持ちも確かにあったんだけど、そのぅ…めちゃめちゃ使えるスキルじゃない?!って飛びついたという背景があったりして…。

 なんだかんだ私も打算的な部分を持ってるじゃないってね、若干落ち込んだりしたんだけれども、まあ、切っ掛けなんだしと割り切ってね?!

 だってさあ、【瘡蓋はがし】はシミ取りやタトゥー消しのスペシャリストだし、【貧弱な産毛】はどう考えても剛毛でお困りの皆さんをすくう神!!

ああ…学校卒業したら絶対に二人ともうちのエステグループに就職してもらおう……。


 いよいよ卒業が近いという事もあって、最近はもっぱらいじめも落ち着いて、わりと平和な毎日を送れるようになったんだ~。

 王都に行って勉強する子や就職する子、家業を手伝う子など色々いるんだけど、基本的にノシュクルでは15歳になった年に学校を卒業したらもう大人の仲間で、いつまでも子供じみたことをするような人は少なくなるんだよね。


 …そりゃ、大人になっても子供じみた発想や言動をする人もたくさんいるから、中にはしつこくいじり倒してくる子もいるんだけども。学校を卒業しないでやめちゃって、いつまでも幼いことしてる連中も少なからずいるしね。まあ、いずれにせよ…大幅にメンドクサイ子の数は減って、すごく楽になったのは事実。


 《赤毛の三つ編み少女と肩を並べ、黒髪の幼女の手をつなぎ…調理室へと向かうアストリットの表情は実に明るく、溌剌としていて、ああ‥眩しいよ、幸せそうなあちゅ♡よかった、よかったよぉおおおお友達ができてぇえええ!!!はうぐっ…グスン、グスン…今までいじめ抜いてたくそどもにはちゃんと足の裏が水虫でボロボロになる呪いかけといたからね、安心してね!!あと他にもたんすの角に足の指ぶつけるとか割り箸が変なふうに割れるとかあと……》


 この、思い出したように友達ゲットを喜ぶナレすけが少々うっとおしいけれども!!し、幸せであることにはまあ、間違いないから、うん…。

 てゆっか、地味にいやな呪いかけてるなあ、効くかどうかはわかんないけど…って、なんだ効いちゃうのね。98人の同級生達…ご愁傷様……。


 友達もできたし、学校に癒しの場所も見つけたし、自分でも最近すごく明るくなったって思う。笑顔がステキになったってお父様にも言われるようになったし!!

 シリエも喜んでくれて、毎日お友達と一緒に食べる用のおやつを持たせてくれてるんだ。すごくおいしくてついつい食べすぎちゃうのが困りものでねぇ、お父様なんかつまみ食いしてたせいで10キロも太ってしまって…幸せ太りだよなんて言って笑っているのだけれども。


 ……今、私が心から笑えているのは。

 一番の心配が解消されたって事も大きいんだよね!


 なんとめでたい事にこのたび…聖女の召喚が完全に

 ナ ク ナ ッ タ ――(゜∀゜)――!


 ヒャッホー!!!


 屈折15年、ようやくこれでこの世が滅ぶ元凶を排除

 デ キ タ ――(゜∀゜)――!


 今年、聖女召喚の絶対条件となる、青い月の出る晩と白い星の出る日が重なったんだよね~。魔法が暴走するわ、精霊たちが分裂するわ、モンスターがいきなり巨大化するわでてんやわんやの大騒ぎになって、ホント大変だったんだけども!!その裏で…最後の【アナくれ】の呪いが消滅したのですよ!


 白い星ってのは楕円形の軌道で回ってるめったにお目見えしないレアな星で、およそ80年に一度ヨルドに接近しては人々をパニックに陥らせる絶妙に厄介な存在なんだけれども、実は秘術的な伝承にぼちぼち出てきてて、別世界とつなぐための必須条件になっていることが多いんだよね。

 引力の関係で魔力の濃度が引っ張られる事でバランスが大幅に崩れて、世界の境目がもろくなってしまうのを利用するんだけど、【アナくれ】ゲームの中ではそのパワーを利用して…聖女を召喚する流れになっていたのですよ!!!


 アルフの先祖が大昔に聖女を召喚することに成功して、その時の事を事細かに記した書物が残されていてねえ。子孫が困ってどうにも立ち行かなくなった時に役立てよ…的なことが伝承されてたんだよね。で、ゲーム内でトチ狂ったアルフはその言葉を思い出して聖女を呼び出し、世界を破滅に導いたのだけれども。


 今現在、聖女を呼び出す方法を知っているアルフ青年は…子育てに追われて、てんてこ舞い中でそれどころじゃないという!!


 いやー、マッチング能力持ってる精霊の本気、マジですごいわ!!!あのクソへタレ陰険ド陰キャこじらせ大魔王がコロッと恋に落ちてあっという間に子作りしてさあ!!!

 そうだよね、喜び実践を知らないで生きてきたら、そりゃあいくらへタレでもサルみたいに延々快感を追い求めて貪欲になりますよねえ!!今まで鬱々と人を呪ってた時間を全部費やして、己の欲を大放出しますよねえ!!


 今奥さんが二人目出産間近で、めちゃめちゃそわそわしてるんだよね~。

 もともと神経質で几帳面だから家中掃除しまくりで子供の世話もきっちりやってて、基本甘い人だから子供の粗相にも寛大でさ!あの年代物の閻魔帳にお漏らしされちゃった時に、優しくアタマポンポンしながら、『大丈夫だよ』ってにこやかにさっさと燃やしちゃったんだよね!!


イヤー、ホント一瞬だったよ、どうしようもないクソ人間から慈愛に満ちたいいパパさんになるのは!!!


 人ってさ、ホントここまで変わる、変われるもんなんだね。なんていうんだろ、未知の領域を知ったというか、なんというか…感動がすごい。

 あれほどディスってたお父様と一緒に娘を育てる難しさについて朝まで討論してるんだから恐れ入る…。まさかあのアルフが子供は皆宝だとか言うようになるとはおもわないじゃない?!今やまさかのパパ友だよ、ナニこのとんでも展開。…いいぞ、もっとやれ!!


 とにもかくにも、私が悪役令嬢になるルートは、完全に消滅したのだ!!

 聖女もいないし、世を呪う他人巻き込み型陰険クソ野郎もいない、・・・おお、なんという平和な世界!!!ビバ、ハッピーライフ!


 だけど、まだ不安はあるっちゃあ、有るんだよね。

 アナくれ主人公聖女が消えたとはいえ、攻略対象者はまだこの世界にいるのだ。どこからどんな設定が飛んできて何をするのかわからないこの世界、ちょっとした油断が一番危ない。


 攻略対象者は全部で5人。

 アルフ(34)はヘタレド陰キャおっぱい星人の貴族。

 トリグヴェ(25)はドエムの束縛マニアの魔法のプロ。

 ハルワルド(17)はドエスのドン引きリョナラー獣人(獣王の息子)。

 康夫(20)は令和の時代から来たエロい一般人。

 ソフス(16)はショタ担当の生BL鑑賞要員。


 アルフは無事片付いた。こっちはもうほっといても大丈夫。


 ソフスは王様の子で、よく視察歓楽街チェックにくっついてきていて顔なじみなんだよね。さすがにのぞき部屋に同行させるわけにはいかないってんで、一緒に私のお部屋で遊んでいたりしててさあ。

 昔は大人しく折り紙折ったりお絵かきしてたりしたんだけど、ある時からやけにこう距離感が出るようになって、代わりにいっつも乳兄弟とイチャイチャしてるようになって、怪しいなって思ってたら、やっぱり案の定でBL展開、しかも幼馴染と三角関係勃発中でなかなかカオスなことになっているという。


 ゲーム内では聖女が日本という世界には3Pというすばらしい文化が認められていて云々うんぬん言い出すんだよ。で、それを王様に進言してさらにめちゃくちゃになって、どうにもならんわからの大爆発という…。


 聖女がしゃしゃり出てこなければわりと丸く収まるとは思うんだよ、ここの問題はさ。王様と奥様は仲がおよろしいし、ナンセンのエロブームもあってマイノリティにはみんな寛大だしね。

 ま、完全に私は範疇外なんでね、このままほっといても大丈夫でしょ。


 トリグヴェは二年位前にうちの触手牧場に迷い込んで捕獲されてるのを見つけて…それ以来お得意様になっていたりする。

 粘液といろんな汁ででろでろになりながら魔力枯渇と性欲枯渇の関係性が云々うんぬん言っててさあ、めちゃめちゃ専門用語使って難しいこと説明しててねえ…、知識のない一般人はそれでごまかせるけど、ゼンブシッテル私にとっては…エロい自分の残念な姿をごまかしてるってバレバレだよぅ…?ってなったんだよね!!


 魔法省のトップということもあってプライドが高いので、ヘタに突っ込まずにはいはいそうですかで流すことにして、触手牧場のちゅーこちゃん(軟体タコキメラの女子)に対応をお任せしたら無事捕獲されることになって…こっちも今子育てに忙しいから、まあ、ほっといても大丈夫と思われる。


 ハルワルドは最上級のリョナーなんだけど、猟奇的行動の衝動が抑えきれないみたいで、うちのドエムカフェに来ては人気の再生嬢増殖スキルもちの皆さんを喰い散らかしてるんだよね。


 ゲーム内ではエロフをぐちゃぐちゃにしてるのを聖女に見つかって、咎められると思ったらそういう性癖もあるんだよと諭されて、調子に乗っちゃって、衝動を抑えきれずに誰彼だれかれ構わずがぶがぶ始めて、もうどうにもならんと星ごと処分することになったという。


 まあ、今現在合法で己の欲を解放できてるんだから大丈夫そう?なんかお気に入りの女の子ができて今必死に求愛しているという噂を聞いているけど…うまくいったら引きこもりがちな獣王様とも縁が繋がりそうなんだよね、ちょっと期待していたりして。


 康夫はふらっとナンセンにやってきて、令和の世界で身につけたずるいテクニックを使ってエグイ商売してるのが実にいただけない。

 できの悪いマヨネーズ売ってウハウハしたり、生焼けのたこ焼き作って食中毒騒ぎを起こしたり、ものすごい劣化版のアニメキャラの絵を描いて芸術品と言って高額で売りさばいたり…はっきり言って、目の上のたんこぶ的な…いちいち逆撫でしてくるような、せっかく私好みのエロい村になったのに、いまさら中途半端に日本の要素をねじ込まないで欲しいって言うか、今さら割り込んできて穢すんじゃないよって言うか。


 幸い康夫は稼いだ金をすべてエロに突っ込むような下半身人間なので、なじみのキメラアントの女王様にお願いして地中深くに連れ込んでもらうよう画策中なんだ。アソコの皆さんは擬態が得意だし、基本女子しかいない群れだからすごくありがたいって言ってくれて…多分うまく行くはず!イッテちょーだい、お願い!


 ……来週は、卒業式なんだ。


 学校という公共の居場所を離れて…私は大人として、ただの令嬢として、ここナンセンで生きて行くことになる。


 悪役令嬢という役どころから降りた私は、これから一体どんな物語を作っていくのかな?



【ゼンブシッテル】が有っても、未来を知ることは、できない。



 ……わからない未来が有るって、わからない事が有るって…素敵なことだと思う。



 ……ステキな…恋だって。


 してみたいなって、思うのよね。



 ……ポッ。

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