第3話 吸血鬼の力/それぞれの想い

沖田は、目覚めると、フィオナさんとルナちゃんを残して、通り魔の元へと向かおうかと思ったが 

怖くて足が前に進まない。 

 

「沖田よ、我と契約を交わしてもまだ、怖いか?」 

 

「そりゃそうだろ、刃物を持った通り魔だぞ?!」 

 

(怖いに決まっている。早く警察に任せて、この場から逃げ出したかった) 

 

「案ずるな、我と契約したお主は最強じゃ!なにを、怖がることがあろう」 

 

「え?僕が、最強?」 

 

「そうじゃ、今のお主は誰よりも強い。あんな雑魚、蹴散らしてこい!」 

 

「沖田さん頑張ってきてください。あの、加護を付与したいので、いいですか?」 

 

 

「え?もしかして、キス?」 

 

「はい、武運の加護を付与しようと思います」とフィオナさんは、照れて言ってくる。 

 

可愛い。 

 

 

「それでは、沖田さん、屈んでください」 

 

「うん、わかった」と俺は、フィオナさんの目線まで屈む。 

 

「それではいきますよ、目を閉じてください」とフィオナさんの柔らかい手が俺の左頬に振れ、フィオナさんは右頬に「チュッ」とチークキスをする。 

 

潤った柔らかな感触を右頬に感じ、僕の心拍数は一気に跳ね上がり、心臓が揺れた。 

 

 

「じゃあ、行ってくる」 

 

「けちょんけちょんにしてやるのじゃ!」 

 

「武運を祈っています」 

 

と二人から見送られて、沖田は通り魔の元へと向かう。 

 

 ルナちゃんの血を飲んだことで体が軽い。ひと蹴りでグングンと進んでいく。 

 流石は、ヴァンパイアの血だ。体の内から力が漲ってくる。 

 先ほどの暗黒騎士と再び、対峙して、相手の気迫に身が震える。 

 

(本当に、僕なんかが、暗黒騎士の相手を出来るのか?) 

 

先ほどルナちゃんの説明では、どうやら僕の中でヴァンパイアの力が目覚めた 

ということだった。 

 

 ヴァンパイアの力って中二病を患った、中学生じゃあるまいし 

 

 

僕は、ルナちゃんの教えを思い出す。 

 

 

ルナちゃんは言っていた。 

 

『自分の血を垂らして、武器をイメージするのじゃ!さすればお主だけの武器となる』と 

 

 

「ちょっと、怖いがやるか」 

 

僕は親指を齧り、血を垂らす。そこからイメージするのは真紅の血のソード。 

 

自分の血液が宙でソード形状に可変して、真紅のソードを生成する。 

 

『ブラッドソード』と名づけよう。 

 

そして、暗黒騎士とのバトルが始まった。 

 

               *** 

 

「喰らえ、《絶剣》」暗黒騎士が叫び、膨大な閃光を帯びた、瞬速の剣が、僕の正中線を捉える。 

 

 このままでは、身体が一刀両断させてしまう! 

 

瞬時に僕は左に状態を移動する。だが、ブラッドソードを握るが右腕に斬撃を喰らってしまう。 

 

 右腕は、ズバッと切断されてしまい断面に激痛が走る。 

 

「ぐわーっ腕が!」 

右腕の切断面からはおびただしい血が流れる。 

 

「これで、強制武装解除だ。これで攻撃できまい」 

 

 

 僕は、素早く切断された右手に握られていた剣を回収すると口にくわえて、 

右脇の下に左手を挟み、血流を一時的に止める。 

 

 

切断された右腕を捨てて、口にくわえた刀で暗黒騎士と対峙する。 

 

その時、後ろから聞き覚えのある声がする。 

 

「沖田よ、それくらいの怪我、今のお主なら容易く再生できるであろう!」 

 

え?そうなのか?? 

腕を再生するとかもはや、人間技を超えた神の領域じゃないか!? 

 

 

右腕の再生を念じると、みるみる細胞が再生、骨が生え代わり、皮膚も再生した 

 

 あっという間に元の右腕となったのだった。 

 

本当に神の御業とは、このことか! 

 

 

「お前、何者だ?その再生能力、人間ではないな」 

 

そう、今の僕はハーフヴァンパイアだ。 

この脅威の再生能力は確かに、人知を超えている。 

 これこそ、ヴァンパイアの力か。 

 

 そのことを実感したのだった。 

 

「それにさっきまでと気配がまるで違う」 

 

 

「そうだ、さっきまでの僕じゃない!」 

 

僕は、生まれ変わったのだ。強い自分に。 

 

 そして、今の僕は誰にも負けない、最強だ! 

 

 

先に、動いたのは、暗黒騎士だった。 

 

 

「喰らえ、《スラッシュ》」 

 

閃光が煌めき、斬撃の波動が飛んでくる 

 

 僕は、高まった俊敏力で、難なく斬撃を避ける。 

 

 

常人だったなら、この斬撃は避けられなかったが、今はヴァンパイアの動体視力で 

斬撃を見極めて避けることができた。 

 

 

「なに、避けただと......」 

 

「このくらいなんてことないね」 

 

「それなら、これは、どうだ?」 

 

 

 

 暗黒騎士の剣先に太陽光の熱源みたいにエネルギーが集約していく。 

 

そのまま、巨大な光の剣と化して、振り下ろす。 

 

「《サンライト・バースト》」 

 

正面から灼熱の衝撃波が襲い来る。 

 

 僕は、瞬時にブラッドソードの形状を自分を覆う甲羅に変える 

「《ブラッドプリズン》」防御技に身を転じ、そうして、衝撃が過ぎ去るのを待つのだった。 

 

「なん、だと......」 

 

「君の力は、こんなものなのか?」 

 

 

「魔王を倒した技だぞ、それを容易く防ぐだと!?」 

 

「その回復力にその力。お前は何者だ?!」 

 

 

「僕、ハーフヴァンパイアなんで」 

 

今の、僕には暗黒騎士の攻撃は一切、通じていない。 

 

 

「俺は、魔王を倒し、異世界を救った勇者だぞ!?それが、こんな小僧に......」 

 

 

「君、勇者だったのか」 

 

今のこいつの行いはとても勇者としてあるまじき好意に思えるのだが 

一体、なにが彼をここまでさせたというのだろう? 

 

「異世界を救った勇者だけど、大した事はなかったな」 

 

正直、今の僕は負ける気なんて微塵もなかった。 

 

 ただ、目の前の勇者が、小物に映ったのだった。 

 

 

 

 

 

「チートかよ......」 

 

「まあな」 

 

望んでこの体になったわけじゃない。ただ、フィオナさんとルナちゃんを守りたかっただけだ。 

 

「沖田さん、大丈夫ですか?」後ろから、遅れて、駆けつけてきたフィオナさんの声がする。 

 

「フィオナさん逃げてください!」 

 

「フィオナ、なんでお前がここに?!」 

 

 

「え?フィオナさんと知り合いなのか?!」 

 

 

「フィオナは、元、勇者パーティーの聖女だ」 

 

 

「そうなのか」 

 

 

「魔王を倒して、世界が平和になってから、俺たち勇者パーティーは解散。俺は日本へと帰還したんだ」 

 

 

「なんで、異世界ジアースを救った勇者が、こんなことをしているんだ?!」 

 

「日本に帰ってきた俺を世界が認めなかったから、だからこんな世界なんて壊してやる!」 

 

と悲痛の叫びで訴えかける勇者。 

 

 

「なにがあったんだ?君がこんなになるのには、何か理由があったはずだろ?」 

 

ただ、破壊衝動だけで動いているようには思えなかった。 

 

 

異世界ジアースで勇者として日本から召喚されたんだ。チート能力を得て魔王を倒した」 

 

異世界ジアースを救ってからチート能力を引継ぎ、日本に帰還した俺は、魔王をも倒す力を持った、脅威として、特級危険人物として、世界から駆除対象にされてしまったんだ」 

 

 

 

「それだけが理由か?」 

 

「それだけって大した理由だろ?!俺は、もう何にすがっていいか分からないんだ」 

 

 

「俺を理解してくれる相手が居れば話はべつだろうがな」 

 

「いないのか?寂しいことで」 

 

 

「魔王との戦いが終わって、フィオナに好きだと想いを伝えたんだ彼女も同じ気持ちだと信じていたからな」 

 

「で、結果はどうだったんだ?」 

 

「フィオナは、勇者である俺を、一度もそういう風には見たことはなかったと」 

 

「なんで勘違いしたんだ?」 

 

「だって、フィオナから加護を受ける度に、その...されたから」 

 

「もしかして、チークキスのことか?それなら僕もされたぞ」 

 

最初はビックリしたものだ、それで勘違いしてしまったのか。それは、仲が良い異性からそんなことをされればな。 

 

「お前もかよ!あんなことされたら、自分に気があるのかもと男なら勘違いするだろ!?」 

 

「それで、先走ったと」 

(これだから、非モテ男子は......) 

 

「そうだよ!お前はあんなことされて、どうとも思わなかったのか?!」 

 

「いやー、異世界流の加護は過激だなと」 

 

「いや、鈍感か!!」 

 

「どうやら、俺とお前は宿敵であると同時に恋敵でもあるようだな」 

 

「え?そうなのか?!」 

 

「どう考えても、そうだろ!」 

 

どうしよう。勝手に宿敵と恋敵にされてしまった。 

 まるで、そんな気はないのに...... 

 

 

「お前、名前は?ライバルの名前くらい知っておきたいからな」 

 

「沖田海人。ひょんなことからヴァンパイアと契約したハーフヴァンパイアだ」僕は、端的に自己紹介する 

 

「そうか、海人お前、ヴァンパイアと契約していたのか!どうりで強いわけだ」 

 

「まあな」 

 

(いきなり名前呼びとは馴れ馴れしい奴だ) 

 

「俺は、武藤勇真。異世界ジアースを救った元、勇者だ!」 

 

「知っている。さっき自分で言っていたからな」 

 

「話の腰を折るな。そこは、よろしくだろ」 

 

 

「お前との決着は、必ずつける。二つの意味でな!それまで首を洗って待っていろ」 

 

元、異世界の勇者こと武藤から宣戦布告されてしまったのだった。 


               ***


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東京異界で、聖女の加護を受けて魔王契約して最強へと至る 高月夢叶 @takatuki

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