第37話 シルバーソード vs シルバーソード(前編)
PS(パワードスーツ)の『シルバー・ブレイズ』を装着した俺は、本戦の野外フィールドにいる。
宇宙でも生存する環境とパイロットスーツにより、快適だ。
けれど、距離を置いて向き合う『ファントム・ブルー』のマルティナからの視線とプレッシャーで、緊張する。
彼女は低空にいて、俺は地上でホバー。
大型モニターには、俺と彼女の顔写真と名前。
ウ―――ッ!
『ファントム・ブルー』から5つの小型ユニットが飛び出し、半包囲する陣形で斉射してきた。
メインスラスターを噴かした横移動。
けれど、威力より手数を重視したようで、避けきれず。
右手のビームライフルを連射モードに切り替え、断続的に連射する。
小型ユニットを2つほど、撃墜。
けれど、こちらはかなり被弾した。
狙い撃ちされないよう、ランダムに地上を滑りつつ、現状を確認。
「ポイントは!?」
『シルバー・ブレイズ』と一体化しているアリスの声で、すぐに返事。
『そちらでは、マルティナに勝てないだろう……。低出力でレーザーポインター並みだが、3発ほど急所に食らった』
故障と見なされずとも、判定に持ち込めば、勝てると……。
その合間にも、低空で回避しながら地上を狙撃していたマルティナはくるりと向きを変え、メインスラスターをこちらへ。
すかさず、機動力を活かした離脱。
「やっぱり、そう来るよな!」
とっさに追いかけるも、大気圏内では、あちらのほうが加速しやすい。
追いついた時には――
『シルバー・ブレイズ』による2mちょいの視点に、広大な森。
ポイント不利。
このまま逃げられたら、自動的に負けだ。
初手で、小型ユニットを使い切るとは……。
「それにしても、らしくない戦い方だ」
潔癖症のマルティナ先輩なら、正々堂々とぶつかると思っていた。
完全に、意表を突かれたぞ?
ここで、アリスが指摘する。
『ファントム・ブルーは、キャロに攻撃されてメインスラスターが半分死んだ。間に合わせたってことは、全体的に出力を下げたのだろう。それに、和真はシルバーソードと専用機があるから、下の学年とはいえ、同格の相手』
「手段を選ばず、勝ちにいけるってわけか……」
もっと早く言ってくれ、とツッコミたいが、それは甘えだろう。
これが実戦なら、俺は撃墜されていた。
しかし、あの先輩は泥臭い戦法もやれるのか……。
左腕にシールドをつけたまま、右手を近距離用のマシンガンに持ち替える。
ジャキンッと、初弾を装填。
木々の上には、反応なし。
となれば、森のどこかに潜んで、待ち伏せか……。
宇宙で戦えるPSで、密林のゲリラ戦とは。
右手のマシンガンを前に向けたまま、ゆっくりと前進する。
生身よりも高い視点で、両足が順番に動く。
音響センサーには、丸見えか。
とっさに背中のメインスラスターと、両足のサイドにあるスラスターを動かし、一瞬で横へ移動しつつ、弾をばらまいた。
ドドドドと重苦しい音を立てて、弾丸が殺到した先で、パンッと破裂する音。
続けて、爆発音と炎。
「ダミーか!」
それを避けるように木々の間をホバー移動すれば、今度は『ファントム・ブルー』からの青いレーザーが数発。
シールドで防ぎ、避けるも、今度は引っかかる感触の直後に、再び爆発。
「くっ!」
木々の間に張られたワイヤーによる、簡単なブービートラップだ。
これだけ短時間に、よく仕掛ける。
「森をサーチしろ! こっちは、回避と攻撃に集中する!」
息を吐いたアリスが、応じる。
『ボクは、あんまり手を出したくないんだけど……。うん、いいよ』
こちらの視界に、マルティナが残したトラップなどが表示された。
回避しつつ、廃墟となった建物があるエリアへ。
センサーが捉えた『ファントム・ブルー』へ向かえば――
「待機状態?」
『本戦では、PSを降りての白兵戦も認められている……。故障しても戦えるように、とのルールだけど、自分から降りることも禁止されていない』
アリスの言い方では、変則的のようだ。
まあ、わざわざ降りないよな、普通……。
「要点だけ、言え」
『生身に対してのPSは禁止! 専用の銃による、レーザー判定だ。表示したエリアだけで、白兵戦を行える』
「ごっこ遊びか……」
『試合であれば、それ専用のテクニックも発達するだろう? マルティナは、的確に嫌なところを突いているよ』
「俺は、兵士の訓練をろくに受けていないからな?」
言いながらも、安全なエリアに『シルバー・ブレイズ』を着地させ、自身も大地に降りる。
パイロット用のアサルトライフルを外して、スリングを首にかけた。
側面のスイッチで、安全から連射へ。
片手でハンドルを後ろに引き、初弾を装填。
肩付けした小銃を両手で持ち、『シルバー・ブレイズ』が示していたマルティナ先輩がいる場所へ向かう。
廃墟が立ち並ぶ、施設跡。
視界は悪く、ガラスが割れた窓も多い。
どれだけ便利な兵器があっても、最後に頼れるのは己の肉体か。
こんなことなら、基礎訓練をもっと真剣にやっておけば、良かったな?
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