第38話 シルバーソード vs シルバーソード(後編)

 高所でうつ伏せのマルティナは、スコープを覗いている。

 狙撃用ライフルで狙っているため、照準に入れたら、そのまま撃つ。


 『シルバー・ブレイズ』が着陸した位置から……。


 頭の中で計算をしている彼女は、自身の愛機である『ファントム・ブルー』からの支援で、和真かずまの位置をぼんやりと捕捉。


 アサルトライフルを両手で持つ彼を見つけて、トリガーをゆっくりと引き――


 隠れた!?


 気のせいかと思えば、こちらに撃ってきた。


『マルティナ、手足への直撃によりポイント喪失!』


 運営している、PS(パワードスーツ)競技会のSFTA(スペースフォース・トレーニング・アカデミー)支部からの連絡。


 レーザー判定によるため、このような仕組みだ。


「くっ!」


 裏目に出たことで、マルティナは悪態を吐きつつ、愛機へ急ぐ。


 『ファントム・ブルー』に背中を預ければ、正面に向けて包み込まれる。

 立ち上がれば、2mちょいの視点だ。


 先にスラスターで離脱しつつ、和真が『シルバー・ブレイズ』に乗り込むまで待機。


 出待ちはルール違反ではないものの、推奨されない。



 ◇



 『シルバー・ブレイズ』に乗り込み、お互いに距離を取りつつ、相対する。


「ポイントは?」


 機体と一体化しているアリスが、すぐに答える。


『こちらが有利だ! マルティナは、正面から戦うしかない』


 その通りに、『ファントム・ブルー』がビームライフルを撃ちながら、急接近。


 彼女の表情が何よりも、雄弁に物語っている。


 こちらもビームライフルで応戦しつつ、背中のメインスラスターを展開。

 空中での戦闘へ。


 被弾を恐れないダメージ交換による、『ファントム・ブルー』のヒット&アウェイ。


 けれど――


 お互いのビームソードが激しくぶつかりつつ、そのまま遠ざかる『ファントム・ブルー』にライフルを向けて、撃つ。


 致命傷ではないが、回避行動をしつつも、背中にかすった。


 グラリとよろめいたが、すぐに立て直す。


 ウ―――ッ!


 ここで、再びサイレンの音。


『マルティナの棄権により、勝者、和真!』


 機体の推力が落ちて、これ以上の戦いは無理だと判断したか……。


 両手を下ろしつつ、フーッと息を吐く。


 ゆっくりと降り立てば、小さな通信画面に、マルティナの顔。


『完敗でしたわ……。ぜひ、優勝なさってください』

「ありがとうございます」


 激戦の直後で、言葉少な。


 彼女も、それ以上は追及せず。



 自分のデッキに戻って、ようやく機体から降りた。


 待っていたキャロリーヌが、駆け寄ってくる。


「おめでとう! やったね!」


「ああ……」


 鉛のように重い体で、彼女から受け取ったボトルを飲む。


 ベンチに座っていたら、アリスと梨依奈りいなが話し合っている。


 気になり、そちらへ近づく。


「何か、問題があるのか?」


 女子2人が、こちらを見た。


 梨依奈は、沈痛な表情だ。


「今の戦いで、『シルバー・ブレイズ』の各所にダメージがあるわ……。急いで整備するけど――」

「万全の状態で、とはならないね!」


 アリスが、言い切った。


 近くに来たキャロリーヌが、心配そうに尋ねる。


「何とかならないの?」


 首を横に振った梨依奈は、理由を説明する。


「専用機は、スポンサーが面倒を見るのよ……。だから、基本的に自前! 私の予定をすっ飛ばして、付きっ切りでも……。稼働率60%がせいぜい」


「どこをやられた?」


「集中的にやられた箇所はないけど、森の中の爆発を含めて、満遍なくダメージを食らってるから。ごめんなさい、自分から主任整備士になっておいて」


 ため息を吐いた梨依奈は、俺のほうを見た。


「前に言っていたサブがいないんだ。無理をするな……。次の対戦相手は?」


 近くの端末に見ていたアリスが、こちらを向く。


早登はやとだ! たった今、決まったよ」


 全員の視線が、俺に集まる。


 無様に倒されるより、棄権したほうがいいかも?

 けれど、俺は校内予選で実力をみせなければ、スパイ疑惑を晴らせず。


 シルバーソードを破った直後に降りれば、悪い噂も流れるだろう。


「あいつには、勝っておく必要がある! 同じシルバーソードを破った後に、一勝はしておかないと……」


 首肯したキャロリーヌは、おずおずと尋ねてくる。


「うん! だけど、早登も専用機だし……」


「分かっている。梨依奈の負担が大きすぎるし、現状で連戦は不可能だ! 次の対戦で勝ったら、『機体の不調』を理由に棄権する」


 俺の発言で、全員がうなずいた。


 梨依奈は、息を吐く。


「じゃあ、残り時間と状況的に、動くようにだけ! 助っ人を頼んでいる暇はない。……キャロにも頼むけど、逆に混乱する恐れがあるから。ごめんね?」


 最低限のチェックだけの彼女がいると、かえって時間がかかる。


 安心して任せられないため、1人でやったほうがマシか……。


 俺は、心の中で嘆息した。


「悪いが、頼む! 俺は早登との対戦に備えて、戦術を練るから」


「あとは、こっちでやるから。ひとまず休んで」


 梨依奈に気を遣われて、俺はデッキを後にした。


 早登にボロ負けすれば、この勝利が逆効果になるだろう。

 一休みしたら、真面目に考えないと……。

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