第4話 解答用紙

「オレは稲村涼。名前でいいよ」


 電流術×電能力ライトニング開始後、俺達のグループは自己紹介を始めた。

 転校してばかりだし、お互いの事を知ってからの方がこの試験もクリアしやすいという算段だ。


「二人とも知ってると思うけど、おいらは加藤善太だ! がんばろ~な~!」


「じゃあ最後、私ね。私は霧野梢きりのこずえ電流術ショックは善太に劣るけど、少しは出来る方だよ!」


「え、善太に劣る……? 善太って凄いのか?」


「一応クラスで二番の実力者だよ! だから涼の足りないところを補ってくれるはず!」


 うっ……少し心に刺さるけど、善太ってそんな凄いやつなんだな……。やっぱり人は見た目じゃ判断できないもんだ。


 梢は長く伸ばした黒髪を二つに結ぶと、準備運動を始めた。


「いっちにー、さんしー……あれ? どうしたの二人ともー? 準備運動をしておかないと、怪我するよ?」


「それもそうだな~! いっちにー! さんしー!」


 ふ、不安だぁ。


◇◇◇


「オーゥ……ここはどこだぜ、ホワイ!」


 俺はリョー達が去った後、他の電能力者トニトルス達と共に今からの説明を受けた。

 何を言っているのか理解出来なかったが、簡単に言えばリョー達と闘って勝てばいいらしい。


 ご親切なことに医療設備は万全らしく、どんな致命傷でも治せるみたいだ。

 だから本気で闘えるな……というか、ここはどこなんだ?


「どこを見ても岩! 暑いわ! ロック!」


「さっきから五月蝿いですよ! 唯でさえ厳しい暑さなんですから、少し黙って貰えませんか!?」


「おーぅ……怖……いわ……」


「ったく……どうして僕が…………」


◇◇◇


 時間は模擬戦開始前に遡ります。

 電流術者パルズの移動が終わり、帰還した武藤先生の指示により僕ら五人は電流術者パルズと争うことを命じられました。


 当然電流術ショック電能力シビリティでは力量の差がありすぎる為、向こうはチームを組んでいるのでしょう。


 ここからが本題なのですが、僕ら五人は別々のエリアへと散ることになりました。


 例えば電能力シビリティではクラス一位の成績である不良男児佐々木君

 彼は成長した木が多い繁る南区サウズへ移動しました。


 そして他の二人も海辺の西区ウェルズへ移動し、西区の中でも北区寄り、南区寄りへと別れました……。


 なのに! 僕は! 知的で運動音痴であるが故に新人の子守りを任されて! 二人で行動することになってしまいました!


 最悪……ですが、彼の能力は確かに強い。


 僕の電能力シビリティである解答用紙アンサーズシートは能力を映すもの……一度触れた相手の能力を知ることができる、知的な僕だけに許された至極の特権!

 戦闘力は皆無ですが、僕の分析力と判断力で彼を一流の戦士にしてあげますよ。


「おーいほどく暑いぜ、どこか洞窟でも探そうぜケイブ?」


「気安く名前で呼ばないでください」


「じゃあ灰原? ホワッツ?」


「名字も駄目です。僕のことはアナリストとお呼びください」


「んー……メガネ?」


「怒りますよ!? というか、洞窟を探すことに労力を使うくらいならそこの大きな岩に向かって自分の能力でも使ったらどうなんですか」


「なるほどその手があったか! グッド!」


 電車男ニック君は地面に手を付き、電能力発動の構えを取りました。

 実際に目にしてみると、かなり滑稽な姿勢ですね。


「貫け! 災厄の列車ディザスタートレイン!」


 轟音が北区ノウデン一帯に響き渡り、大岩に穴が開きました。

 僕の見立てによると、この一時的な洞窟は約二時間程は持つでしょう。

 その先は保証ができませんが。


 ちなみに、今の技は威力は申し分ないですが、発現時の姿勢・音共に失格、ネーミングセンスは皆無ですね。


「もう少し加減は出来ないのですか? あんなに音を出しては、遠くにいても嫌でも聞こえますよ」


「暑さで気が立っているんだろ? とりあえず、こっちで涼もうぜクールボーイ」


「なっ…………そうですね、今回だけは貴方に従いましょう」


 煽っているのか宥めているのか…………これは教育のしがいがありそうです。


◇◇◇


「な、なんだ今の音!?」


 突如鳴り響いた金属音、そして何かが砕け散る音。

 咄嗟にリングに目をやると、音の方向に二人の電能力者トニトルスが確認できた。


「ど、どうする二人共?」


「行こうぜ~! おいら達が一番だ!」


「でも、相手は二人だから厳しくない?」


 うーむ、やはり意見が別れたか。

 オレが戦えない分は善太と梢が補助してくれるとは言え、能力持ちに数で押せないのは厳しいな。

 せめて相手が一人なら超能力でなんとかできなくもないが…………


「いや、やっぱり行こう! きっと勝てるよ!」


 考え込んでいた梢の発言。


「その根拠は?」


「これは予想だけど、その二人は灰原君とニック君だと思うの。灰原君は電能力者トニトルス相手にしか使用できない電能力シビリティだから、実質三対一で戦えるよ。他の電流術者なかまも集まって来るかもだし」


 い、意外と知的なのか……?

 しっかりとした持論を持っていらっしゃる。


「じゃあ決まりだな~! ほら、乗って!」


 オレは軽く声を漏らすと、善太の背中に飛び乗った。

 振り替えることなく善太は駆け出したのだが、想像を遥かに越える速さだ。

 オレは足に少し自信があったのだが、自分の体よりも少し大きな男を抱えて走れるなんてどんな怪物だよ。


 梢も電流術ショックの身体強化によって追いかけて来ているが、二人ともオレの全力を軽く越えるから…………少し萎えるな。


「と、止まって善太! 誰かいる!」


 梢の声に善太が足を止めるが、あまりにも突然止まった為かオレは前方の木へと激突する。


「い、いってぇー…………少しは気を使ってくれよな」


 一応オレを運んでくれた訳だしな、と少し反省しつつ善太へと振り返る。

 予想とは裏腹に、そこには木刀を構えた袴着姿の少女と斧を装備した男の二人組が立っていたのだが、仲間であるはずの二人とオレ達の間には何やら不穏な空気が流れていた。

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極電の白縫 今際たしあ @ren917

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