第3話 電流術×電能力

――2020年 6月28日――


「え~、こいつらは今日からBブロントへ入隊することとなった稲村とニックだ。同時に、このクラスへの編入でもある。二人共まだ新人だ、仲良くしてやってくれ」

「「「「はーい」」」」


 あの事件から約10日後。

 オレとニックはBの管轄内であり、全域が所有土地だというとある街の、派遣はけん学園へと編入することとなった。


 とりあえず空いている席を、と案内されたのは教室の一番後ろであり、窓際の席。教室内にはオレ達の他にも十数名の生徒が出席しているのだが、空席もちらほら見られる。


 緊張に少し顔を強張らせながら席に着く。

 すると、前の席に座っていた小柄な少年が笑顔で話しかけてきた。


「おいら、電流術ショック組の加藤善太かとうぜんた! 涼、ニック、これからよろしくな!」


 割りきった筈なのに、なんだか澄空を思い出すな……容姿が少し似ている。


「お、おう! よろしくなボーイ!」


「よろしく、善太。ところで、電流術ってなんだ?」


「そっか、お前ら新人だかんなー。よし、先輩のおいらが軽く説明してやるよ!」


「待った! 今回だけは俺が説明する」


 武藤先生が教卓からオレ達の会話に割って入った。


「今から電流術ショック組と電能力シビリティ組に別れて簡単な模擬戦を行う。これは二人に向けての捕捉だが、電流術とは所謂いわゆる身体能力を駆使した体術のこと。普通の人間なら運動神経の良し悪し止まりだが、俺達は電値を認識・使用することができている。だからこいつを応用すれば……ほらっ」


 武藤先生は近場にあった机を片手で軽々と持ち上げて見せた。

 もし、これが基礎中の基礎なのだとすればオレは今クラスで最底辺だろうな……。


「ま、これは基礎中の基礎だけどな」


 これが基礎か……想像はしていたけど、スタート地点までなかなか届かなさそうだ。


「次に電能力についてだが」


 先生がこのままオレ達に対する説明を加えていくと考えると、なんだか他の生徒に申し訳なく思えてきた。

 そんなことを考えていると、不意に男子生徒が手を挙げた。


「センセー。説明長くてダルいんで、もう帰っていいスか?」


 その男子生徒はオレ達と同じ制服にも関わらず、白いフードを背後に垂らしている。

 だいたいこういう奴、強いパターンだよな……


「駄目に決まってんだろ。まぁ、説明はこのくらいにして、残りは加藤に聞いてくれ。それじゃ、みんな今から体操着に着替えて運動場に集合なー」


 そう言い残し、武藤先生はさっさと教室を出ていってしまった。

 生徒達もそれに続き、続々と退出していく。


「難しい顔して、どーしたんだ?おいら達も早く着替えに行くぞ~」


「分かったぜマイフレンド!」


「おー、更衣室まで案内頼むよ」


 あたりめーだろ、と笑った善太の顔は完全に昔の子供だ。昔の子供を見たことがある訳ではないが、短パンシャツ姿で田んぼを駆け回る姿が浮かんで見える。

 これでも一応、オレの先輩だ。


――――着替えも終わり、オレ達は運動場へ集まった。

 入隊してすぐに模擬戦……思った以上に過酷そうだ。


「……よし、みんな揃ったな。じゃあ今から移動して、ルールを説明するぞ」


 転入して間もないから仕方ないかも知れないけれど、今日は特別説明が多い日だな。覚えることが多すぎて困る。

 大抵難しい話をするとニックは………


 あ、やっぱり遠い目をしている。


 親友だからあまりこういうことは言いたくないけど、ニックは馬鹿なんだ。ここはオレがしっかりルールを聞いておかないと。


「じゃあまず電流術組と電能力組に別れてくれ。ちなみにニックは電能力組で、稲村は電流術組な」


 オレは電流術組か…………早くカッコいい能力が使えるようになりたいな。


 これは更衣室で着替えている時に善太から聞いた話なのだが、電能力にはニックの災厄の列車ディザスタートレインのような実体系、何もないところから水を出すなどの現象系、自分や相手に直接影響を及ぼす状態系があるらしい。


 オレの超能力を電能力に当てはめるのならば、きっと状態系だろう。

 まだニックにしか見せていないから、もしかすると電能力なのも知れないが。


 電流術組15人に対し電能力組5人って……フードの男もいるし、電能力が使える人達はやっぱエリートなのか?


「電能力組はそこで少し待っててくれ、先に電流術組の説明から入る。じゃあ先に俺が偏見で選んだチームを発表するからよく聞いておけよ。チーム1.リーダー間宮忍護まみやじんご漆山硯うるしやますずり…………チーム5.リーダー加藤善太、霧野梢きりのこずえ、稲村涼。以上だが、呼ばれなかった者はいるか?……………よし、いないみたいだな。とりあえずグループで固まってついてこい」


 フードの男やニックを残し、オレ達は各チーム毎に別々の場所へと連れて行かれた。


 オレ達3人が案内された場所は、辺り一体が木で覆われており、舗装された道がどこにも見当たらないという、完全な密林の中だ。


 はぐれた時の仲間とのやり取りや、隠された便利道具の探知に役立つというリングを武藤先生から手渡され、それを腕にはめ込んだ。


「な、なあ善太。ここの生徒は毎日こんなことやってるのか?」

「いや、そうでもないぜー。というか、レースなんて初めてだ!」

「そ、そうなんだ……」


 情報も何もない以上、善太には頼れそうにないかも。


「あーあー聞こえるか? 返事はリーダーだけでいい」


 リングから先生の声がする。


「第5チーム、聞こえてまーす!」


「……よし、では改めて。今お前らが立っている所がスタート地点だ。岩場から始まる者、森から始まる者、街中から始まる者……それぞれだろう。だが、目標は皆同じ。電能力組の5人を倒すこと、ただそれだけだ」


「「「ええー!?」」」


 オレ達の声が重なる。

 電流術が使えても厳しい筈なのに、電流術すら使いこなせないオレがいるチームがクリアするのは無理に決まってる。


「ちなみに、電能力者の居場所はリングで確認することができるぞ。そして、この模擬戦でチームの順位を付けようと思う。早く電能力者や俺達と一緒に任務に同行したいだろ? 活躍次第で判断するからみんな頑張ってくれよな」


 任務ってあの怪物を倒すことか……?

 オレは緊張で顔を強張らせた。善太も、霧野さん? も真剣な眼差しをしている。


「さぁ、電流術×電能力ライトニング、開始だ!」

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