第5話
「こよりちゃん、お誕生日おめでとう!」
「わぁケーキだー! これ食べていいの!?」
「もちろんよ、今日のためにお兄ちゃんがみんなと相談してたんだから」
「お兄ちゃんありがとう! お姉ちゃんも!」
あれから半年、俺はまだ生きている。
みんなと会話して俺なりに辿り着いたのは『幸せの中に不幸はあり、不幸の中に幸せはある』ということだ。
他人の不幸は蜜の味といったりするが、他人が抱える不幸の中には、自分はまだ幸せだと感じる何かがある。
そこで俺は考えた――自分自身の不幸の中にも、自分を幸せにする要素も含まれてるんじゃないかと。
変な話だが不幸を感じるからこそ生きていけるんじゃないかという……。
それが大きくなりすぎると幸せが隠れてしまい、その逆であれば小さな不幸も気にならないくらい幸せになる。
じゃあもしこの大小様々に変化する、幸せと不幸を同等に感じることができたら?
例えばこよりは食事制限があり、好きなものを食べることができない。
これを不幸5としてみよう。
だけどそのおかげで目の前に出てきたケーキに対する喜びが上がっているのでは?
ここからは本人の受け取り方次第だが、俺がみる限り今のこよりの幸せは5か、それを越えているように感じる。
だがここで俺が勝手に気持ちを介入させてみよう。
もし病気になっていなければ、いつでも好きなものを食べられたのに……。
そう思うと今度は先ほど感じた幸せ5よりも遥かに不幸が勝ってるようにみえる。
本当にそうだろうか?
病気になる前のこよりは確かにケーキを前にすると大喜びしていた。
だけどここまで喜んでいただろうか?
その答えは……考えるだけ無駄。
結局そのときの思い出や過去なんてものは今思えばという形で評価される。
そして他人からすれば、自分は病気じゃなくてよかったという、安堵という名の幸せを感じるわけだ。
茜は面白いことを言っていた。
そもそもこのご時世に余裕のある人間なんてほとんどいるわけがないと。
大人ですら自分のことでいっぱいいっぱいなのに、自分らが他人の心配をする余裕などあるわけがない。
それに何度か話すうちにわかったが茜はどうやら西園寺さんのことを応援していないわけではないようだった。
棚に押し込められていた雑誌は、どれも西園寺さんの名前が小さくても表紙に載っているもので、しっかり〇で囲まれていた。
そして西園寺さんはそれに気づいていない。
「ねぇお兄ちゃん、お父さんはどうだった?」
「もう少しすれば仕事も落ち着くって言ってたよ。そうだ、これ父さんからのプレゼント」
俺は袋からラッピングされた箱を出して渡す。
「やったー!」
「そんでこれは俺からのプレゼントだ」
俺は色紙を取り出してみせた。
「お兄ちゃんそれってキョウカのサインじゃない!? うそっ、なんで持ってるの!?」
「たまたま会ってな、お願いしたら書いてくれたんだ。ほら、ちゃんとこよりの名前もいれてもらってる」
「うわ本当だ……やばっ、どうしようこれ、お兄ちゃん額縁ない!?」
「色紙なんてそのまま飾れるだろ」
「汚れるでしょ! お願い、今度買って来て~」
「なんでそんなもの――」
そうだ、今度西園寺さんに選んでもらえば、こよりのやつ発狂して喜ぶんじゃないか?
「わかった、楽しみにしておけ」
「やったぁ!」
「父さんにもちゃんとお礼を言うんだぞ」
「うんっ!」
面会時間も終わりあの日と同じ道を歩いてみる。
家族の死は俺に悲しみと苦痛を残した。
新しくできた友人は癖があり、俺を困らせた。
「悩める少年発見~!」
「またこんな遅くまで出歩いて……家族が心配するぞ」
「古田君にそんなことを言われるなんてショック~」
西園寺さんは相変わらずだ。
「サインの件、こよりがめちゃくちゃ喜んでたよ。ありがとう」
「よかったぁ! もしいらないって言われてたら私泣いてたかも」
「で、ついでといっちゃなんだが飾るために額縁を買ってこいと頼まれた。どんなのがいいかわからんから今度買い物に付き合ってくれ」
「あっそれなら茜がいいお店知ってるよ。久しぶりに誘ってみてもいいかな?」
「もちろん、今度は寝巻以外の服装でこいって言っといてくれ」
「あっはははは! ジャージは茜の普段着だからなぁ」
「
「なるほど、私が茜をコーディネート……面白そう!」
「そりゃあよかった。それじゃあ夜遊びもほどほどにな」
「そっちこそまっすぐ家に帰れよ~!」
手を振り人混みに消えていく西園寺さんを見送る。
もう少し……幸せと不幸にまみれた人生を生きてみよう。
僕らの空~ シロサン @sanzuno
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