第3話
まさかそんな顔になっていたとは……ん~誤魔化しても細かいところまでつついてきそうだしなぁ……。
まぁ本当のことをいっても信じないだろう。
「昨日、実をいうと死に場所を探してたんだよ」
「……何かあったの?」
「うーん、なんていうかもうさ、苦しんでる人をみるのが辛いんだ」
「それって入院してる妹さんのこと?」
「それもだけど、うち、早くに母親を亡くしててね。父さんが仕事を頑張ってくれてるんだけど年に一回帰ってこられるかくらいで、会うたびに元気がなくなってる気がするんだ」
「でも古田君と妹さんに会うのを楽しみに頑張ってるわけでしょ」
「初めは俺もそう思うことにしてたよ。でも段々それが辛くて、今度は次第に妹の姿が母親と重なるようになった。こんな歳でいうことじゃないけど、みんな必死に生きてるのはわかってるつもりだよ。もっと辛い思いをしてる人がいるのもわかる」
「だったら――」
「自分を擁護するようだけど、要は卑怯者なんだよ。目の前の現実と向き合えないから逃げるだけ。もし妹の病気が治ったとしても今度は父さんが倒れるかもしれない。俺が病気になるかもしれないし西園寺さんがなるかもしれない。苦痛というのは生きてる証だと誰かが言ってたけど、俺はそれを見続けるのが辛いんだ」
……やってしまった。
完全にめんどくさい奴だと思われただろうなぁ。
まぁ話せといったのはあっちだ。
病気と闘ってる人たちを侮辱してるといわれても仕方ないが、こんな思いをするくらいなら正面きって侮辱できたほうが何倍もマシだっただろう。
西園寺さんはティーカップに触れたまま何か考え込んでいる。
「……そういうわけで、どうやって死のうか彷徨ってたんだよ。自殺じゃ保険はおりないからどうにか事故にみせないといけなくてね~っ」
これで話は終わり。
改めて確認してみると酷いオチだったな。
「後悔とか、やり残したこととかないの?」
「ん-特にないかなぁ。そもそも後悔ってさ、選択で悩んだ人がいえることだろ? 俺は自分でできる限りのことはしてきたつもりだったし」
「そう……」
嫌な気分にさせてしまったと思ったが西園寺さんはケーキを口に運ぶと口元を緩めた。
そもそも学校に通いながら仕事をしてるんだし、精神的にも俺なんかよりずっと大人なのかもしれないな。
「ねぇ、連絡先教えて」
「はっ?」
「スマホくらい持ってるでしょ」
「学校に忘れてきちゃって」
「さっき見てたの知ってるわよ」
なんてヤツだ……。
これ以上俺の邪魔をされても困る。
「俺の話、聞いてた? 連絡先なんか聞いてもすぐ使わなくなるぞ」
「古田君ってバイトしてたよね。ちゃんとやめてきたの? 突然死んじゃったらバイト先にも迷惑かかるんじゃない?」
あっ……こよりのために休みはもらったけどすっかり忘れてた……。
「古田君って案外抜けてるね~。ほら、いい加減スマホ出して」
「……アプリ入れてなくて」
「入れてあげる」
「ちょうど今通信制限がかかっててだな」
「メアドがあるじゃない。それにここ、フリーWi-Fiあるから」
「フリーじゃないかもしれない」
「何言ってんの……ほら早く出さないと電話番号になるわよ」
西園寺さんと連絡先を交換できるなんてやったー! ……とか普通は思うんだろうがそうはいかない。
「なんでそこまで知りたいんだよ」
「ちょっと気になることがあってね。死ぬっていっても今じゃなくたっていいでしょ? 少し私に協力してよ」
「なんで俺がそんなこと」
「会わせたい人がいるの」
「こんな面倒な男を人に会わせるとか大丈夫?」
「もう、いいから四の五の言わずに……出しなさい!」
こいつ、テーブルを乗り出してくるとかマジかよ!?
これ以上騒がれてもほかの客に迷惑だ、とっとと渡して大人しくさせよう……。
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