第2話
一日予定がズレてしまった。
まぁたかが一日くらいであれば問題はない。
女性との約束を守らないとどうなるかはよく知っているしせっかく声を掛けてくれたんだ、一言くらい挨拶して終わらせよう。
◇
…………さて、帰るか。
西園寺さんの人気はいつも通りだった。
休み時間になれば人だかりができて昼休みには上級生に呼ばれていた。
そして放課後の今は職員室だ。
結局挨拶一つ交わすこともできなかったがこれ以上待つのも無駄だろう。
――――
――
「ふ、古田君ー! ちょっと待ってー!」
「あっ、西園寺さん」
「はぁはぁはぁ……あっじゃない! どうして待っててくれなかったの!?」
「いや、忙しそうだったし」
「確かに色々とめんど……大変だったけどこれでも急いで撒いてきたんだから!」
何を撒いてきたんだ。
いちいち有名人は言うことが違うな。
「西園寺さんも苦労してるんだね」
「まったくよ……。雑誌が出るたびにあれこれ聞かれるし……そもそも私が全部知ってるわけないっての」
昔アイドルだった人が当時の忙しさをネットで語ったりしてるけど、西園寺さんも同じなんだな。
「それじゃあゆっくり休んでください」
「そうさせてもらうわ……ってちがーう!! 私と話をする約束だったでしょ!」
自分でツッコむ人って本当にいたんだな。
「もう話しましたよ」
「短すぎぃ! それにまた敬語に戻ってるし!」
いったい何を話せというんだ。
身の上話をしたところで何の意味もないし、話題のネタ探しでもしてるのか。
「あーもうとにかく、ここじゃ目立つから移動するわよ!」
目立ってる原因は俺じゃないと思うんだが。
ついていかないと更にうるさくなりそうだ。
◇
「本日の珈琲、ブラックでお願いします」
「私はー……ケーキセットの紅茶で!」
生徒に見つかると面倒だという理由でわざわざ隣町の喫茶店にまで連れてこられた。
ストレスが溜まっているのか知らないが、ここまできたら気の済むまで付き合ってやるしかないだろう。
「それで何を話せばいいんだ? 言っとくけど面白い話なんて何にもないよ」
「別に笑わせてなんて思ってないから。古田君さ、昨日どこへいくつもりだったの」
「……病院の帰りだって言っただろ」
「その後だって。とっくに病院の面会時間は終わってたでしょ」
「なんとなく暇つぶしで歩いてただけだ」
「ふ~ん、それにしては何か予定でもありそうな顔をしてたけど?」
根掘り葉掘り聞いてくるタイプか……めんどくさい。
「そっちこそあんな時間まで何してたんだよ」
「私? 実は病院に通っているの」
「えっ」
「あ~誤解しないで。大きな病気とかじゃなくて流行りと言ったらあれだけど、鬱病の兆候があるから病院で定期的にみてもらえって、会社から言われてるのよ。あ、一応これは秘密ね」
そういえば若年層を中心に年々増加傾向にあるってニュースでやってたな。
鬱病といっても幅広く症状はあるみたいだしなった人にしかわからないと聞く。
「まぁなんだ、その……」
休めなんて嫌というほど聞いただろう。
そもそも休めてたらこんなことになってないと思うし、俺が何かいったところで説得力がない。
「……お大事に」
「ぷっ……あははははは! 病院以外でお大事にとか初めて言われたんだけどー!」
ツボが浅いのか笑えるくらいには大丈夫ということだろう。
静かにするように人差し指を立てると西園寺さんは両手を合わせ謝る。
「ふぅー……ふふっふっ……」
「なんですか、人の顔をみて笑って」
「ごめんごめん。古田君ってさ、面白いね」
「はいはい、それで、話はもう済んだ?」
「え、私は話したけど古田君の話は聞いてないよ?」
なぜそこで空気を読めない……。
話を聞いてあげたんだからいい加減解放してくれ。
「何をそんなに聞きたいんだよ……面白い話なんてないっていっただろ」
「ん~私の仕事ってさ、ライバルが多いんだ」
「それが俺に何の関係がある」
「まぁそう慌てないで、これでも結構有名なんだよ。サインいる?」
「いらない」
クラスの男子だったら大喜びだろうな。
転売ヤーならもっと大喜びだ。
「ちょっとショックなんだけど~」
「わかったわかった、考えとく」
「扱い酷くない? ――まぁいいや。それでさ、色んな人を見てきたわけ。オーディションに受かった人、落ちた人、引退した人、これからの人――」
芸能界然りオーディション番組なんかをみてもすごいもんな。
バチバチの闘争心でみんな本気になって頑張っている。
「それでね、私気になったの。負けたのに笑ってる子がいて、どうして笑えるんだろうって」
「落ちた腹いせにいたずらでもしたんじゃないのか」
「それならそれでいいんだけど、昨日の古田君も同じ顔をしてたから気になってね」
「ッ!!」
「というわけで、何をしようとしてたのか、話してくれる?」
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