第四章


 十代とは、不断で臆病で堪え性の無い、火がついてもすぐ湿気る爆弾である。その事実を片目瞑って美しくラッピングし飾り立てれば、確かそう、『青春』だなんだと相成る。


 青春だなんて呼び始めたのは一体誰なのか、たぶんジュブナイルの帯の文句を考えてるような天才コピーライターなんだろう。学生には自分の情感を言語化する能力が未発達だろうし、無い方がきっと青春とやらを楽しめる筈だ。バカな方が良い、とまでは言わない。大切なのはその愚かしさに無自覚であることだろうし、それを実践している存在も学園には居た。

 学園には原子炉以外なら何でもあるのだ。


 奴のフルネームを真面目ぶって読み上げれば、吉里成哉。上からも下からももっぱら"セイヤ"と呼ばれていた彼は、間違いなく青春を謳歌する学生に当てはまる。

 彼にとっての青春はボウリングであった。奇妙な偶然で、ボウリング球と地球には様々な一致がある。まずもって、球体。それに原始時代の隕石衝突にさかのぼるクレーターと指を入れる為の幾つかの穴。そして公転と自転。地球の周りを月が回り本人は太陽の周りを回っている様に、彼にとってボウリングとは人生の周回軌道を彷徨う衛星だった。

 ひょっとすると指を入れるために開けられた三つの穴がさながら(二つのくりくりした目と口として)人の顔に幻視されるのは、創造神がボウリング球、あるいは地球に似せて人の子を創ったからではあるまいか。


 当然そんな道理はない。


 その日は一週間ぶりに午前からの登校を腹に決めた日であり、彼は表面が好ましく萎びたパンにピクルス・チャツネの塊を満遍なく伸ばすと、安売りのシールが貼られたままの包装を破って取り出したるチーズをこれでもか、と振り掛けた。

 そしてもう一枚のパンで丁寧に包むと、空恐ろしいほど古臭いサンドイッチが出来上がる。青い血の流れた伯爵閣下のお手製だろうか?どこか童話じみた諧謔を想起させるソレに彼は被りつき、まだ寝ぼけた頭が馬鹿げた連想を運んでくる。


  ハンプティ=ダンプティが塀に座ってる

  ハンプティ=ダンプティが塀から落っこちた

  だからソイツ茹で卵を潰して砕いて

  サンドイッチに挟めば事もなし


 だけど奴はそうしなかった、家の冷蔵庫が卵を切らしていたからである。


 ◆


 家を出ようとする間、もしくは信号待ちの時、それか学園前の長い坂道を上る前のコンビニの駐車場で。何処どこだっていいが、彼にはスマホを確認する機会があった。上の方の通知はGAFAのプラットホームを経由したどうでも良い連絡メールで、下の方に指でっていってようやく個人通知が見えてくる。

 まずは学外である地元の彼女ガールフレンドから。いい加減ボウリング場待ち合わせは止めない?みたいなことをやんわり指摘されていたから、曖昧に濁して言葉を返す。

 続いてクラスグループの通知。これまたどうでも良い。後は友人たち個々人から来ているモノもあったが、通知のリマインドでおおよそ確認すると既読もつけず液晶の電源を落とした。


 ――悪いのは俺ではなく、通知越しにメッセージが見られる仕様が悪いのだ。それに、今朝また顔を突き合わせるのにわざわざ返事を返す必要はあるだろうか?

 彼の考えているのはそんな所だろうが、今日が大変な一日になると分かっていたなら確認を怠らなかった筈だ。第六感でも無ければムリだろうけれど。


 校門をくぐり、駐輪場を経由して教室に上がっていくまでに香辛料の良く利いた皮つきチキンを口の中からさっぱり消し去る、というちょっとした困難を乗り越えて、彼は教室の扉を開け、十数日振りにホームルームに参加するのだろう、という感慨と共に席に着いた。


「あれ、セイヤくん久しぶりじゃーん」

「そう?」と彼は返したが、"久しぶり"と形容して何も間違いはない。

「あんま人いないな」

「いや。来るの早すぎナンでしょ」と言って二席隣の彼女は笑った、もちろん吉里は彼女の名前すらあやふやだ。よって紹介も控えよう。


 ところで生まれてこの方出不精の極まった、進学実績をこそ重視する学園におけるガン細胞である所の彼が、いきなりの改心、踏み絵を急に踏みたくなった転び宣教師の気分に陥ったのには理由があった。

 それはつい先日の午後、登校した直後の話である。


「あのな、ヨシザト。お前も分かってるだろうが…」と担任は職員室のただ中にて話を始めたが、そんな事を恥ずかしいと思う人間がこの学園の不登校常習犯になったりしない。

「何ですか」

「別にオレだって」こういう時決まって教師どもはこちらに寄り添うフリをする。まあそれが仕事だし、悪く言いたい訳ではないけれど。「無理やりさせるつもりはないけどさ」

「もしかして、アレっすか」

「そうだよ。いよいよだぞ、お前」

 この文脈における『アレ』とは、でも煙草でもなく、出席日数の事だった。

「まずさ、お前。本当に卒業する気なんだよな?」

「今のところは」

「じゃあ登校はしておけよ。授業に出ろとは言わんからさ」

「そこは出ろ、と言うべきじゃないんすか?」

 担任は頭を抱えた。吉里という人間は一事が万事この有様であるし、誠に遺憾ながら、この遣り取りも私立校の日常風景の一環というコトになる。


 ◆


 後ろ向きに前向きな奴というのは、非社会的でかつ社交的な人間という意味である。特に寮に入っている生徒が多い学園にとって、通学生の中で一抜けて頭のおかしいコイツに絡もうという人間は少なくない。だが結局愛想を尽かされる。その中で関係を保っていられるのは数少ない通学生であり、その内の一人はクラスどころか席も隣同士であった。吉里は右隣の席を無造作に漁り、珍しく置き勉のされていない状態を見て取った。そして興味はすぐに薄れ、何気なく自分の合体机の中身をがさがさと漁ってみると小さくて硬いモノが出てくる。

 それは破られた横罫ノート紙一枚で包まれたナニカであり、それを開ける前の逡巡ためらいやその他の作劇的主人公が当然行うべき警戒などはせず、一切の趣もなく包まれたソレを開く。


 、という大きく書かれた文言から始まるそのペラ紙一枚には長々と書かれてあったのだが、それは形式的書面の一般に沿っている為であり、重要なのは文中のたった一節に過ぎないようだ。

 『遠松トオマツ淳之介は、自身の代理人として、吉里成哉に定例会への出席を要請する…』。

 そしてご丁寧にも、本人確認の印の代わりにそれほど汚れてもいない生徒証が包まれている。彼は遠松エンマの学生証をじっくりと確認した。それはおそらく入学当時に撮ったままであろうエンマの顔写真が載っており、ハリのあるツンツンと尖った前髪があどけなさを発揮している様子が収められている。そして吉里は再申請中の自身の学生証の代わりとばかりにソレを財布に仕舞い込み(冗談だろ)、そのままぼんやりと十数分後のホームルームを待つことにした。


 ◆


 二限がしめやかに終わり、三限がそろそろ始まろうという段になっても、クラスの誰も遠松の事を直接には口にしなかった。けれど学内全体は完全に浮足立っており、そこかしこで陰謀論が囁かれている有様である。曰く。出身寮の門閥同士の対立構図だとか、生徒会内の権力闘争だとか、青臭い妄想じみた『不満分子』との抗争だとか。

 この日は一、二限以外が移動教室の少人数クラスであった為、吉里は特に考えることなく教室を後にした。そしてその後ろから見知った顔が付いてくる。


「元気してたか?なあ」

 口にはせずとも"死んでくれ"、と吉里は思った。


「縁起でもないコトを言うなよ」とひらひらかわして続ける。「ただでさえ大変なんだから」

「へえ」

「興味ないのか?」

「それより次さ、教材見せてくれ」

「なんで?」

「持ってくるの忘れた」

 

「お前は知らないだろうけどさ」とソイツは後ろから早歩きで追いかけながら話し始める。それは教室を出て階段前すぐで後輩に「二宮ニノミヤさん、ちょっと」と呼び止められたからなのだが、一方吉里は相手を待つような甲斐性を持ち合わせていなかった。

「どうせエンマの話だろ」

「なんだ、知ってるじゃん」

「今朝机に入ってたから」

「何が?」と聞かれて吉里は押し黙った。面倒に巻き込まれる予感にようやく気が付いた為であったけれど、もう手遅れに近い。

「そこで黙るのはぞ」

 反論しようと口を開きかけて、止めた。激情さえ長続きしないのが彼一流の生き方である。


 ◆


 馬鹿みたいにデカい、誇張抜きで本当にデカい、壁の上から下まで覆うくらいの大きさをした付箋(ポストイット)に油性マーカーを走らせているのは吉里で、他の班員の言われる儘に羅列していくだけではあったが授業には参加していた。「書くくらいはやってくれない?」という気の強い誰かの穏当なる提案を受けた為である。彼の方も「え、マジか」と抵抗らしきコトを漏らしてはいたけれど、別にサボタージュを働こうという気もない。

 ただ気に食わないのは、班員が一人欠けていた事だったらしい。


「なんで今日に限って、誰か休んでんだろな」

「セイヤくんが言えるそれ?」

 そこがなんだ、と言わんばかりに奴は食いつく。

「重役出勤だよ、折角俺が出てきてんだから…」

「どういう理屈?」

「一人の仕事量にしては多すぎじゃん」

「それって」と班員の一人は呆れた様に続けた。「今まで何もしてなかったからでしょ?」

「でも肉体労働は、士官の仕事じゃないから」

 近代史のレポートを付箋に纏めながら、そんな風に奴はうそぶいた。


 重労働が終わると隣の班に顔を出して、二宮に横やりを入れながら残りの時間を潰す。二限続けての授業というのは時間配分が狂いがちなのだろう、教員含め各々好き好きに過ごしているようである。筆記用具を手慰みに弄りまわしている吉里は、使うと文字が消える摩訶不思議なマーカーの自転的回転における中心軸の維持以外に頭を悩ますモノなど無さそうだが、二宮はさっきの話がずっと気掛かりだった。


「なあ、アレ行くんだろ?」

「ん?」

「ほら、エンマから頼まれてた奴だよ」

「あー。どうするかな」

「悩むとこか?」どうしてこんな奴に任せたんだよ、と思いながら続けた。「行ってやれよ。暇なんだしさ、どうせ」

「いや、決めたわ」

「何を?」

「やっぱ行かない」「おい」

「待て待て。俺は行かないけど、誰かは行った方が良いんだろ?」と言うと、吉里は財布から学生証を取り出しながら言った。「俺のは無いけど、お前が出ろよ」


 一瞬躊躇ったものの、どうせ聞きやしないだろうと諦めて「きっと、大事な用でもあるんだろうな」となじりつつもソレを受け取ると、奴は平然とこう言ってのけた。


「うん、なんなら一筆書こうか?」


 ◆


 数十年変わっていないだろう音色のチャイムがこの先十年は変わるつもりもないと宣言する様に響き、吉里は嫌な顔をしている一人を含む他のクラスメイトと廊下に出ると階段を降り特別教室の棟を出て、教室には向かわず、そのまま外周を通って運動場を回っていく。

 するとかまぼこ屋根をした食堂が見えてきて、だんだんと人も増えてくる。その奥の修練場や道場のさらに奥、もう一つある駐輪場の辺りにライトバンが停まっているのを彼は確認する。それが言わば合図であり、久々の昼食で移動販売の来る日を読み間違えていたのでは、という不安があったからだ。他の記憶も確かなようで、変わらずそこそこの長さの列が四限終わりのたった数分で形成されている。

 手作り風の籠に収められたパンや焼き菓子から選び抜かれたのは、小ぶり目のピザパンに袋詰めになったクッキー、それに薄く油紙に包まれた素材の味プレーンのスコーン。

 この統一感もなく昼食とも言えないようなラインナップには理由があり、近頃の不摂生が祟って喉のすぐ下、甲状腺の辺りの痛みが食事の楽しみを妨げるようになっていたのであって、それを回避するには少し豪華なティータイム、とか何とか云って飲み下すのが一番だという切実な理由であった。そしてポリ袋を一枚貰うとそれらを放り込み食堂を離れる、それも奴にとってあんまり机に向かって食べるのが好みではないらしく、特に教室やら食堂やらで食べるくらいなら学内にはもっと適した場所があるから余計に気が向かない。


 中から聞こえる物音を気にせずに準備室奥のやけに建付けの悪い扉を開けると、一人の女子が窓側の壁に何かを打ち付けていたのがちらっと見え、彼女もこちらに気が付くとばつの悪そうに立ち上がって何か言おうとする。

「あ、えっと」

「俺は部員じゃないよ」

「それは知ってます」助け舟を出してやったのに、と吉里は思った。「先輩から聞いたことありますよ、アナタの事。ていうか」と彼女は身を乗り出した。

「ワダさん知らないですか?」

「5年の?」「はい」「見てないな」


「当てが外れた?」と肩を分かり易く落とした彼女に声を掛けると、少し睨まれた。

「いいんです、あの人もさすがに道草食ってる訳ないですし」

 そう言ってたちまち入れ替わりの様に部屋を出て行き、「もし見かけたら森中が呼んでた、と伝えておいてください」とだけ言い残して消えた。


 ◆


 部室を嵐が過ぎ去り、取り残されたもう一人は誰もいない部室を見渡すと開けっ放しの扉だけは閉め、そこいらの棚からビーカー、立体三角形のティーバッグ入れ、大皿をそれぞれ見繕ってくると部長室の扉に手を掛け、その段になってようやく「そう言えばアイツ休みだったな」と思い出した。だが何の問題もなく扉は開き、いつもよりは埃っぽくない空気が彼を出迎えた。いそいそと部屋に入り持っていたモノを机に広げちょうど扉から向かいのヒーターを弄ろうとして、他人の存在に気が付いた。

 ソイツもまた女生徒であり(近頃は部屋で待ち伏せするのが流行っているのか?)立て掛けられた垂れ幕の陰になる位置の椅子に座っていた所為でよく見えなかったようだ。此方こちらを認めると一礼してきたので「どうも」とだけ返してヒーターの上にベコベコに凹んだ薬缶を載せる。


「私の分もお願いしていいですか?」

 と数分経って水の沸騰する音が聞こえだした頃に、ようやく彼女は口を開いた。

「お湯が欲しい?」「いえ…」

「いいね」と吉里は返し、一体何が良かったのかは分からないが、ともかくまたどこからかビーカーを出してきた。耐熱ポッドにティーバッグを追加しその中に薬缶を傾けると湯気が顔中に広がって気持ち悪い。

「ヨシザトさん、ですね?」

 奴はなにも返事しなかった、どういう返しを期待されているか分からなかったからである。代わりに薬缶を片付けると椅子に座り直し黙って彼女に向き直った。


「何でしょう?」

「いや、話し出したのはそっちでしょ」

「確かにそうでしたね」

 彼女の方も対面しているのがどういう人間なのかようやく理解できたようで、特におもねることなく話し始めた。

「貴方には用事があったのでは?こんな、素晴らしいお昼時に限っては」

「親切にどうも、だけど今日は…」

、ご友人の話ですよ。例えば今朝見つけられたアレとか――」

「俺は今日、体調が悪い」と彼女を遮って話し出した。

「――、そうですか」

「だから三歳児に教えるみたいに話してほしい。あんまり頭が回ってないから」

「それでは直截に聞きますが、定例会には行かれないんですか?」

「行ったよ」

「?」

「二宮がね」


 彼女は差し出されたビーカーの中身に口を付けて、ようやく落ち着いたようだった。吉里の方は冷蔵庫から牛乳を取り出し、賞味期限も気にせずそれを自分の分に注ぐと脂っこくなった口の中を流し込んだ。その後立て掛けてある小道具を弄りながら咥内と合わせて時間の過ぎる感覚を堪能する。そしてその愉しみを妨げたのはもちろん彼女だった。

「遠松センパイは、さぞ残念がるんじゃないですか?」

「どうして?」

「ほら、だって。頼んだ相手には断られているようなものじゃないですか」

「自分で行かないのが悪い」

 彼女は何も言わなかったが無言は当世にて同意と見なされるから、もう十分だと考えて吉里は話題を変えた。

「ところで、素敵なマットだ」


 奴が指さしたのは先程入った時に敷かれていたウェルカム・マットであり、馬鹿げたフォントで何とかなるさEverything's gonna be alrightと刺繍されている。空々しい文句で、ある意味警句じみてもいる。

「アンタがこれを?」

「玄関マットの無い家がありますか?」

 ここはアンタの家ではないだろう、と口に出しはしない。

「奴の私物か?」

私物ですね」

「確か俺の記憶では、これは壁に掛かっていた筈だ」

 それを聞くと彼女は堪えるように笑う。

「ですがこれはタペストリではありませんよ。敷物を敷いて使わないとは、どういう理由なんでしょう?」

「アイツの趣味だ」「へえ」

「なんだ、聞いた事ないのか?」


 それを聞くと彼女は少しムッとしたようで、年相応の少女らしさを取り戻したようだった。

「ではひとつ僭越ながら」オホンと咳払いをして一頻ひとしきり吉里は勿体ぶってから続けた。「参考までにご教示しよう」


 ――ある昔、お茶会好きなウサギがいた。ウサギは森の仲間たちをしばしば自宅に招いてお茶会をして大いに楽しんだのだが、一つ頭を悩ますモノがあった。どれだけ楽しい時間も陽が落ちそうになると皆帰ってしまって、永遠には続きはしなかったからである。

 ある日ウサギは森の中で魔女と出会った。魔女は言う。『それじゃあみんなが家に入った後、玄関口のマットを隠しちまえばいいのさ。そうしたら皆は出口を見失ってしまう』

 それを聞いたウサギは喜び勇んで家に帰り、そして――


「――そして?」

 吉里は黙って残った飴色の液体をビーカーに注ぎきる。

「あの、それで?」

「ところでな…」

「続きは教えてくれないんですか」

「マットのくだりはもう話した。アイツはそういう寓話やらつまらん言い伝えの小ネタみたいなのを仕込んでおくのが好きなだけだ」と言い手に持った液体で唇を濡らしてから続けた。

「そんな事は知ってるだろ?」

 彼女は口の端を歪めた。

「体調、悪いんじゃありませんでした?」

「満腹で気を良くしただけだ」

 吉里は軽く周囲を見渡しながら続けた。


「少しづつ部屋の様子が変わってる、だが何かが無くなったり増えたり、そういうコトは無い。そこが恣意しい的だ」

「誰がそんな事を?」

「それは分からないけど、誰かが誰かを迎え入れる時の模様替えに近い」

「迎え入れる?」

 良い聞き手だ、と彼は思った。まるでそう徹している様にも感じる。

「アンタはさっきの話のオチを知ってるんだろ?それじゃあ目的は明確だ」

「その心は、とお願いしましょうか」

 成程、と彼は思った。確かに彼女は遣り手だ、これは『一本取られた』。

「こんな大事な時にも出てこないどころかここ数日姿が見えない、となるとエンマは来たくてもんだ」


 彼女は吉里の淹れたソレを上品に飲み干すとソレを置き、「お先に失礼します」と言って部屋から出て行こうとする。彼は空になったビーカーを見つめたままでその背中に呼びかけた。


「次は、お茶会に招待でもしてくれるだろ?」

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