第36話 開門
テオ様はさすがに足が速く、私を抱き上げた状態にも関わらず、誰よりも早く走っていた。日頃から鍛錬していると言っていたし、お体も大きいから強いとは思っていたけど、足も速いなんて凄いわ……冥王と呼ばれる所以が分かった気がした。
その後ろをレナルドが追いかけてきて、更に後ろにベルンシュタット兵達が続く――――
兵達は二人の速さにはついて来られないようで、少し距離が空いてしまっている。レナルドも速いのね……こんなに凄い人なのにお城の庭師に扮していたなんて…………庭師として接していた時の事を思い出して、ちょっぴり自分が恥ずかしくなった。
私とレナルドが歩いて来た通路は、走るととても短く感じるくらいにあっという間にリンデンバーグ城の裏側に出る出口に辿り着いた。
「私が先に出ます」
レナルドがそう言って、蓋のようになっている扉を押し開けた――
辺りをキョロキョロ見ているレナルドは、人気がないのを確認してテオ様と私に頷く。
「裏側には誰もいないようだ。このまま散り散りになり城内に入る。敵兵は全て捕縛しろ。王族は見つけ次第一か所に集めるように、いいな」
「はっ!」
テオ様が兵達に的確に指示を出し、私を下ろして先に出て行った。私はテオ様の後に続いて通路から出ると「私の後ろから離れないでくれ」とテオ様に言われる。
私は小さく頷く……いよいよね。意気込んで動こうとしたその時、うっそうと茂る草むらの向こう側から誰かが歩いてくる音が聞こえた。
テオ様やレナルドにも聞こえているようで、皆リンデンバーグの者かと警戒している…………夜だし辺りがあまりよく見えないから余計に恐い…………複数の音が聞こえるわ………………リンデンバーグにもこんなに兵が残っていたのかしら――
――ガサガサッガサッ――――
草をかき分ける音がした瞬間「そこで止まれ、リンデンバーグの者か?」とテオ様が威圧感たっぷりに声をかけた。
「閣下?!」
声を聞いてテオ様だと分かったのか、草むらから主を呼ぶ声が聞こえる…………出て来たのはベルンシュタット兵だったのだ。
「……お前たちか。前方の我が軍の者だな?という事は…………」
「合流出来て良かったです!閣下が来る前に城門前までは制圧が完了致しました。我々は城下街の方から回り込んで、城内に潜入した特殊部隊の者です。リンデンバーグは城内に兵を戻して籠城の姿勢を見せているものと思われます。城下にも人がほとんどおりませんでしたので、そこまではすんなり……城下町に配置されていました兵などは捕縛しております」
「そうか、ご苦労だったな。やはり籠城か……まさか後ろから来ているとは思っていないようだな。後ろから城内を制圧しながらすぐに前方の兵が入れるように城門を開ける。そちらからも攻め入り、前後で挟み戦意を喪失させるのだ」
「はっ!」
テオ様がテキパキと指示をしていく。籠城は予想済みだったのね……この様子だと制圧に時間はかからなさそうだけど、油断は禁物だわ。
「おお~~怖っ!さすがに閣下の手にかかると敵さんも蟻のように見えてしまいますね~」
「………………レナルド、ふざけてないで行くぞ」
「はいはい」
レナルドが軽い口調でテオ様をからかう……テオ様ももうレナルドの正体を知っているのよね?二人の軽いやり取りに少し和んでしまったわ――
「……では、行こう」
「はい」「はっ」
私も兵たちも皆、声を潜めながら返事をした。
さっきレナルドと下りて来た階段を音を立てずに上っていく……ここはもう城内なので、どこに兵がいるか分からない。慎重に動かなければ…………しかし上った先には兵はおらず、皆壁伝いにそっと移動した。途中、上に上がれる階段もあり、そこで兵も分かれる。
するとレナルドが深くフードを被り、私を連れ去った者たちと同じ恰好をしているのをいい事に「私が城門まで行って開けてもらいますよ」と言い始めた。流石にそれは危険なのでは…………と思ったのだけど、一人だけ兵士ではない恰好をしていたので、テオ様は乗り気だった。
「ふーん…………行けそうだな……」
「でしょ?怪しまれないように見た目はそのままにしていたんで。では、行ってきます」
「え、ちょっと、レナルド…………」
そう言って素早い身のこなしでリンデンバーグ兵の中に紛れていく――――――――
「大丈夫だ、あいつは軽い事ばかり言うが、やる事はプロだ。必ず遂行するだろう」
「そう……だといいのですけど…………」
テオ様は心配する私の頭をぽんぽんしてくれる……レナルドが無事に戻ってきますように、背中が見えなくなるまでずっと見守っていた。
~・~・~・~
「すみませ~ん、お姫さんを連れてきた者なんですが……お役目終わったので城を出たいんですけど」
「今は城から出るなと指示が出されている。お前たちも城外に出る事は出来んぞ」
「ええ~~~それは困ったな!次の仕事もあるのに……どこかこっそり抜けられる出口とかないんですか?これ、渡すから……」
兵士に少し金貨を握らせてみた……すると兵士の態度が豹変する。
「………………城門の横に小さな扉がある。そこからなら出られるだろうが……」
「ありがとう!助かったよ~~」
さすが雇われ兵、お金をチラつかせると態度が変わるな……出口を教えてもらったレナルドは、ご機嫌で走って行ってしまった。
――城門前――――――
城門には左右に二人の門番が配置され、城壁に沿って何名かの兵が配置されていた。レナルドは先ほどと同じように声をかけに行く――
「すみません、私は姫さんを連れて来た者なんですが、次の仕事に行きたくて……城内の兵の方に城門の近くにある小さな扉から出ていいと言われて来たのですけど、開けてもらってもいいですか?」
すると右の門番が反応し、応えてくれた。
「……小さな扉?ああ、あそこだな。ちょっと待っていてくれ」
「ありがとうございます~~」
レナルドはそう言って手をひらひら振っていた。右の門番が立っていた方には開門のレバーがある……これを上にあげれば門が開く仕組みかな?持ち場を離れるなんて普通はしないものだけど、統率の取れていない兵だという事がすぐに分かる。
「これって門のレバーってヤツです?」
「ん?ああ、そうだ。ちょっと古い仕組みだが、上にやるだけだから簡単なんだ。この城門が閉じていれば何者も入っては来られない」
「閉まっていれば…………じゃあ、開いたら入って来られますよね」
レナルドはニッコリ笑ってレバーに手をかける――
「ちょっ……待て……や、やめるんだ………………」
「待てません。もう十分待ったと思うんですよね。そろそろ我が国に全て還してもらわないと」
レナルドはレバーを一気に上げた――――――城門前で待機していたベルンシュタット兵の声が聞こえる――
「ベルンシュタット兵の皆さーーん、お待たせしました!」
レナルドがそう声をかけると、ベルンシュタット兵たちは我先にと一斉に城内に入ってきた。
次々と押し寄せるベルンシュタット兵の数と迫力に圧倒され、門番たちはすぐに手を上げて投降する。
残りの兵も城内にどんどんなだれて行った…………ようやく終わる……レナルドはその様子を少しの間、感慨深げに眺め、自身も城内へと走って行った――
~・~・~・~
レナルドがリンデンバーグ兵と話し、城門へと向かってから20分も経たない内に前方から沢山のベルンシュタット兵がやってきた。開門は上手くいったのだわ…………
「閣下!」
「ああ、上手くいったようだな……レナルドか?」
「はい!その後すぐに門番は投降、城の兵達も我がベルンシュタット兵の数に圧倒され、次々に投降しております。すぐに制圧出来るかと……王族達の情報はまだ入っておりませんが……」
前方の兵を指揮していたと思われる人物がテオ様に報告していた。まだ見つかっていない……でも恐らく、国王の自室か、玉座の間しかないはず…………それか夜だから呑気に夕食を食べているか――
「閣下!王族たちが見つかりました!ホールに皆おりましたので、兵が身柄を確保しています!」
「分かった、ご苦労だったな。私たちはホールに行く!その間に城内のリンデンバーグ兵を全て捕縛しておいてくれ……ロザリア、行こう」
「………………はい」
次々と情報が入ってきて、城内は速やかに制圧されていっているのが分かる。そしてお父様たちも見つかったので、私はテオ様に促されて、ホールへ向かう事にした。
いざお父様達に会うとなると、何を話していいのかと考えてしまう。するとテオ様が「私に少し国王たちと話をさせてくれ。君はゆっくりでいいから……」と言ってくれた。気持ちの整理がつかない私を見抜いていたのね……テオ様の優しさが染みわたっていく。
今度こそ、ちゃんと決別をしよう。
そう決意して、お父様達が待つホールへと駆けて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます