第37話 落城 ~テオドールSide~



 馬を駆り、無事にリンデンバーグ城の裏側の国境付近に着くと、古くて使われていない地下通路への入口を地面に見つける。



 ここだな…………上には草が幾重にも覆い被さっていて、正直場所を特定していなければ見つける事は不可能だっただろう。どのくらい長い間使っていなかったのか……中は使える状態なのか?レナルドは調査済みとは言っていたが――



 疑わしい思いはあるものの、ヤツが陛下の優秀な護衛だった事を考えると大丈夫だろうという結論に達し、入る事にした。




 入口は錆びていて、私一人でも開けるのに力がいるくらい重かったが……あの王族たちでは無理だっただろうな。中は案の定ボロボロで、全く使われていなかった事がうかがえる。我が国と長い間戦をしていたにも関わらず、ここの存在に全く目もくれていないというのは、怠慢以外の何物でもないな。


 恐らく今の王族でここの存在を知っている、学んでいる者はいないという事だろう。



 我がベルンシュタットでは考えられない事だ。戦というのは、ありとあらゆる手を考え、使っていかなければならない。



 そんな事を考えながら地下通路を進んでいた。


 ロザリアは大丈夫だろうか…………レナルドが付いているとは言え、リンデンバーグの王族には嫌な思い出しかないはずだ。もし暴力などを受けていたら――――



 今はそれについて考えるのを止めておこう……彼女の強さを信じるしかない。


 自分の嫌な考えを振り払うかのようにスピードを上げて走っていると、遠くから足音が聞こえる…………




 「止まれ」



 兵達にストップをかける。足音からすると一人だな…………誰だ?一人なら私でも相手が出来る。



 「お前たちは下がっていろ」


 「は……」



 どんどん近づいてくる足音――――足が速い――そして角を曲がってきたのは、レナルドだった――――



 「うわっ!え…………旦那様?!」


 「…………お前か………………」


 「お前か…………じゃないですよ!いいタイミングです、私が来た道をたどっていけば奥様が…………」



 私はレナルドの言葉を最後まで聞く前に走り出していた――――この先にロザリーが?逸る気持ちを抑えて全力で走って行くと、逃げようと必死に走るロザリーの姿が見える。



 

 「ロザリア!」




 咄嗟に叫ぶと、ロザリーは私の声に気付き、振り向いて私に向かって走って来た――――



 そして私に飛びつき、泣きながら私の名前を呼んでいる…………私は愛しい妻の温もりと匂いを感じ、心底安心したのだった。


 良かった…………ドレスがボロボロで何かされたのかと思ったのだが、ロザリーに大きな怪我などはなさそうだな――


 

 彼女はなかなか泣き止まずにずっと私に頬ずりしている…………あまりに愛おしくてキスをすると、一気に涙は引いたようだ。そんなところも可愛すぎるな。



 私はロザリーをベルンシュタットへ帰し、リンデンバーグを滅ぼす為に城内へ侵入するつもりだとロザリーに告げた。


 しかし彼女は自分も行くと引かなかった。いつもなら私に遠慮したり、引く事の多いロザリーが、絶対に行くと言ってきかない…………覚悟を決めたその顔が可愛すぎて、冷静な判断が出来そうもなかった。



 私が何に代えてもロザリーを守る――――




 彼女を抱き上げて、リンデンバーグ城を目指し、地下通路を走った。




 ~・~・~・~




 レナルドが城門を開けに行き、無事に前方からベルンシュタット兵が押し寄せ、城内を制圧していく…………ようやくロザリーやベラトリクス様がリンデンバーグから解放される時が来たのだな。



 私とロザリーがホールに着くと、我がベルンシュタット兵に取り囲まれている王族達の姿が見えた。



 「閣下!王族達は皆こちらに……」


 「…………ご苦労だった」



 この者たちがロザリーの家族………………似ても似つかないくらい醜悪な顔をしている。我らが憎くて仕方ないのだろう。だが――――それはこちらも同じだ。



 「そなた達の身柄は、これからボルアネアに運ばれる。そして我が国の法によって裁かれるのだ。陛下が正しい裁きを下してくださるだろう……ベラトリクス様を襲い、連れ去った事、ロザリア共々幽閉した事、我が妻を連れ去った事、その身を以って報いを受けるがいい」


 「…………私は国王だ……他国の法の裁きなど受けぬ」


 「寝言は寝てから言うんだな、リンデンバーグ王よ。貴国は我が国に落ちたのだ。滅ぼされた国の法など適用されるわけがない」



 ここまで浅はかだと笑えてくるレベルだな……そうやって法を勝手に解釈をし、ベラトリクス様とロザリーの人生をこの男が奪ったのだと思うと怒りがこみ上げてくる。



 「閣下!私を側妃にしてくださいませ!私ならロザリアよりもあなた様の望みを叶えてあげられますっ」


 「これ!お止めなさいっ」



 王妃が必死に止めているが、第一王女は私の脚に縋り付くのを止める気配はない……ロザリーが不安そうに見ている。私はロザリーの手を握り、大丈夫だと頷くと少し頬を赤らめた。こんな状況だと言うのに妻が可愛すぎるな――



 「あーー王女よ、あなたが私の望みを叶えられるというのは、本当か?」


 「はい!もちろんです!私ならあなた様の為なら何でも……」


 「何でも…………か。では私の望みを言おう。……あなたの首を差し出せ」


 「え?」


 「出来るだろう?私の為なら何でも出来るのだから…………出来ぬのか?まさか私に嘘を申したと?」



 あえて無理難題を吹っ掛けてみる。まぁこの王女にそのような気概はない……案の定怯えて後退りし始めた。思った通りの口先だけの人間だったな……



 「………………ふん……お前達は自分達の保身の為にロザリアを喜んで私に差し出したではないか。彼女は何も持たずにその身1つで我が国に来た。自分の侍女の為に命を差し出した事もある……お前たちはそんな彼女を利用した挙句、自身の欲望にまみれ今度は彼女を連れ去り、最後まで己の保身に走った。そんな人間に私の望みを叶えられる、だと?……………………笑わせるな!!」



 

 この者たちは自分達のしてきた事がどれほど下劣で最低な事かを全く分かっていない。私が彼女を所望したというのはもちろんだが、この王族たちは喜んでそれに応じた。自分の家族を守ろうだなんて少しも思ってはいない。


 

 ロザリーがどうなろうと知った事ではなかったのだ。彼女を差し出せば国政をその手に戻せるという条件に尻尾を振って乗ってきた。



 私はそんな人間の口車に乗るほど阿呆ではない。それに――――




 「私の望みを叶えられるのは、この世界で唯一人、ロザリアだけだ。お前達如きが代わりになれるなど、努々考えぬ事だ……」



 「そんな小娘のどこが!私より勝っていると言うのです?!」




 これだけ言っても食い下がってくるとはな…………自尊心だけは国宝級だ。そんな人間を相手にするのも馬鹿馬鹿しいのだが、ロザリーを貶める発言は許せない。私は王女の目の前でロザリーをいつものように片腕に抱き上げ、彼女の頬にキスをする――

 


 「見て分からないか?全部だ」


 「テ、テオ様…………」



 …………………………王女に見せつける為だったとは言え、妻の可愛すぎる反応に皆の前でしなければ良かったと、少しだけ後悔した。


 


 ~・~・~・~




 本編、残り3話となります!^^

 

 最後までお付き合い頂ければ嬉しいです<(_ _)>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る